□□□とボードゲーム(1.8)〜デュシャンとチェス(続々々々々々:《泉》とナイトと投影法)
前回の記事はこちら。
2週間ぶりの記事でしたが、けっこう読まれております。
でありがたいです。
さて今回もデュシャン絡みですが、違う書籍を読んであれこれ連想がはたらいたので、ダラダラと書きます。
『Fontaine』
デュシャンといえば《Fontaine》。
このフランス語のタイトルを日本語に訳すと、おなじみなのは《泉》。
ですが《噴水》という呼び名もあります。
Wikipediaでは「《泉》または《噴水》」と明記しています。
Kindleで見つけちゃいました
AmazonのKindleでたまにまとめ買いセールをします。
対象となる電子書籍をまとめて買うと、12冊で最大12%のポイントが付与されます。
この間、というかゴールデンウィークにそのセールがありまして。
あれこれと検索する言葉をいれつつみつくろってみるのですが「デュシャン」で探してみたら、以下の本が引っかかったのですよ。
『デュシャン《Fountain》は《泉》か?《噴水》か?』
著者の三宅顕人さんは、経歴を見ると吉本芸人の公演・企画・脚本に携わっている方です(Xを参考)。
「写真論」や「編集者論」のKindle本も出版していますが、ここ最近になってデュシャン考察の内容の本をいくつか出しています。
最近(といっても2023年ですが)だと大作『マルセル・デュシャンの眺め』(なにせ10分冊)も出しています。
Kindle Unlimitedでも読めるのですが、挙げ句購入してしまった。
結果、個人的には損はしなかったので、めでたい。
ビデ
《泉》は、男性小便器に署名をしたレディメイドです。
さて、女性用の便器って何かありましたっけ?
ウォシュレットなどの洗浄機能付き便座のボタンを見ると「おしり」のほかにあります。
「ビデ」です。
Wikipediaの引用写真を見て気づかれた方なかなかするどい。
今回の三宅さんKindle本『デュシャン《Fountain》は《泉》か?《噴水》か?』の表紙です。
フランスの画家Louis-Léopold Boilly(ルイ・レオポルド・ボワイー)の作品「トワレット・アンティーム 花びらの散った薔薇」です。
まさに、ビデ使用中です……が、このビデってなんというか馬っぽい形状をしております。
デュシャンは♘(ナイト・馬)好き?
デュシャンはチェスのコマの中で1番興味関心があったのは、馬の形のコマ、ナイトのようです。
実際、いくつかの作品や日用品(通信チェス用に自作したゴム印など)にナイトが登場しているそうです。
前回の記事で取り上げた作品《マルセル・デュシャンの生きた鋳像》
チェス盤に置かれているコマはナイトです。
しかもこのコマは、ブエノスアイレス滞在中に自ら作成したチェスピースセットのデザインです。
そのチェスピースの3Dモデルで再現してみるサイトがありました。
コマの形状としては比較的シンプルではあるのですが、ナイトだけ他の駒と異なって、なんというか曲線が多いです。
ブエノスアイレスに滞在した時期は1918年からの数ヶ月ですが、芸術活動をほぼ休んでチェスプレイヤーを決意した頃でもあります。
そして、もう1つ大きな事件があります。
1918年はデュシャンの次兄レーモンが亡くなっております。
レーモンも芸術活動をしており、彫刻やデッサンを残しています。
亡くなる直前(1914‐1918年)に取り組んでいたテーマは「馬」なのです。
つまり、作成したチェスピースのナイトはレーモンを仮託している、かも知れません。
さて、前置きはこのくらいにして(前置きだったんかい)。
cavalier projectionとチェス
今回『デュシャン《Fountain》は《泉》か?《噴水》か?』を取り上げたのは、デュシャンのナイト・馬に対しての興味関心をふまえると、引っかかった言葉があったのです。
騎乗投影法(英語:cavalier projection)。
デュシャンが自身の作品の制作及びその過程を記録として収めた「Green Box(緑の箱)」に、騎乗投影法について書かれたメモも収録しています。
騎乗投影法は、カバリエ図とも言います。
【引用】
投影線が投影面に対し45度の傾きをもつ斜め投影法のことで、部分的に詳しく表示するときに使う。なお3軸(X、Y、Z)とも実長を表している。
ちなみに、奥行き(上の図だとX軸)が縮まるとキャビネット(戸棚)投影法とよばれ、家具などの表現に使われます。
ところで、なぜデュシャンは騎乗投影法に注目したのか。
それは、
チェスが騎乗投影法のゲームだから
だと推測します。
盤上を垂直(上方)から見ることで、コマの位置がわかります。
でも、コマの種類はわかりづらい。
盤上を水平方向から見ることで、コマの種類がわかります。
でも、コマの位置はわかりづらい。
投影法に従ってみれば両方いっぺんにみれますし、騎乗投影法は垂直も水平も実長で表現できます。
ここでちゃぶ台返します。
騎乗投影法ならば、果たしていっぺんに見ているのか。
ほかに方法あるんじゃないのか。
重ねればいいじゃん。
デュシャンは、目から得られる刺激を楽しむ従来の芸術を「網膜的」として批判していました。
チェスプレイヤーは、果たして目で見た状態そのままで遊んでいるのか。
上のような棋譜(スコア)に変換しているんじゃないか。
その方が数手先の数多の盤面を知ることが見たまんまの映像よりも、把握しやすいです。
騎乗投影法に注目したのは、見たまんまの網膜的状態から視点を切り替えたり、複数の視点を重ね合わせたりするための過程手段としてみていた、からかもしれません。
こんな見方もしてみる
そんなへそ曲がりな感じで、あたらめてデュシャンの作品をみてみます。
以前書いた記事、
でも紹介した《階段を降りる裸体、No.2》です。
写真家エドワード・マイブリッジが1887年に撮影した連続写真「階段を降りる女」に触発された、ということで描かれているのは裸の女性(裸婦)とみているのですが、なんで女性と決めつけるんでしょうかね。
チェスのピースのような見た目から、クイーンとしている方もいますが、なんで女性と決めつけるんでしょうかね。
ただの裸体(もしくは、チェスのコマであればただのポーン)とみます。
へそ曲がりなんで。
この絵画は、チェスの盤面を水平方向からみた視点となります。
そうなると、手前から奥までマスが8段連なっています。
階段を降りる動きとは、つまり、ゲーム中のポーンが手前から奥へと徐々に動いていることです。
騎乗投影法は実長で表現するので、透視法のように奥へ行ってもポーンの高さは変わりません。
その一連の連続した動きをすべてまとめて描いただけのことになります。
盤面の一番奥まで到達したポーンはどうなるのかといえば、クイーンに成り(プロモートし)ます。
これで、はじめて女性にみえるのです。
まあ、好き勝手に見ればいいんじゃないでしょうか。
デュシャンも鼻で笑ってるでしょう、ふふん。
締め
ということで、終盤は妄想全開な内容でございました。
デュシャンなかなか面白い。
まだまだ拾えそうな話題があるのですが、ひとまず一区切りにしておこうかな、と思います。
また思い出して取り上げるかも知れませんが、そのときはそのときで。
次回かも知れんけどね。
では。
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