川下

短編小説を投稿しています。みてね

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記事一覧

産卵(短編小説

 ある朝目覚めると、へその下に奇妙な膨らみがあった。テニスボールほどの大きさで、立ち上がると少し重たい。子宮の辺りだと思い婦人科を受診すると、医者はエコーを当て…

川下
1か月前
37

峠にて(短編小説)

 四国の山道を走っていた。  空港で借りた軽自動車はフロントガラスが狭く、体を前に倒さないと信号が見えない。一人きりの車内に、タイヤと路面が擦れる低い走行音が響…

川下
2か月前
14

隣の席のおじさん(短編小説)

隣の席のおじさんは、いつも一人で喋っている。 誰かと話しているように見えるけれど、おじさんの前には誰もいない。ぶつぶつ言っていてよく聞こえないが、ふざけるなとか…

川下
8か月前
3

新しい名前(短編小説)

「これは、知人の話なんですが」 と、居酒屋で隣の席になった男が言う。 それぞれ一人で飲んでいたが、ふとしたきっかけで会話が弾み、やがて男はある奇妙な出来事について…

川下
8か月前
5

白い蛇の夢をみた(短編小説)

白い蛇の夢をみた。 夜の草むらに、立っている。 辺りがあまりに明るいので、見上げると満月だった。 じっと見ていると、それは段々膨らんでいるようであった。 飲み込ま…

川下
8か月前
2
産卵(短編小説

産卵(短編小説

 ある朝目覚めると、へその下に奇妙な膨らみがあった。テニスボールほどの大きさで、立ち上がると少し重たい。子宮の辺りだと思い婦人科を受診すると、医者はエコーを当てながら、「これは卵ですね」と事もなげに言う。
「窓から入ってきた蛇にでも、産み付けられたのでしょう」
 そう言って腹の中を写した画面を「ほら、もうこんなに育ってる」と見せてくる。
 血の気が引き、言葉が出ない。
 診察が終わってから「どうし

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峠にて(短編小説)

峠にて(短編小説)

 四国の山道を走っていた。
 空港で借りた軽自動車はフロントガラスが狭く、体を前に倒さないと信号が見えない。一人きりの車内に、タイヤと路面が擦れる低い走行音が響いている。速度計の針を一定に保ち、直進する。行き先も目的も無い、走り続けるだけの旅である。
 その頃の僕は、ある一連の出来事と人生の鬱積によって傷ついており、今考えるとあまりまともな精神状態ではなかった。四国を訪れたのも、松山空港行きの航空

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隣の席のおじさん(短編小説)

隣の席のおじさん(短編小説)

隣の席のおじさんは、いつも一人で喋っている。
誰かと話しているように見えるけれど、おじさんの前には誰もいない。ぶつぶつ言っていてよく聞こえないが、ふざけるなとかバカヤロウとか、何かに怒っているようである。

地域のパソコン教室で、そんなに怒ることがあるだろうかと思うけれど、本当にパソコンが苦手なんだろう。
ここはペアの私がフォローしてあげなければと思い、「そこは右クリックですよ」とか「insert

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新しい名前(短編小説)

新しい名前(短編小説)

「これは、知人の話なんですが」
と、居酒屋で隣の席になった男が言う。
それぞれ一人で飲んでいたが、ふとしたきっかけで会話が弾み、やがて男はある奇妙な出来事について話し始める。
「その人は、自分の名前が自分のものではないと言うんです」
「自分のものではない?」
「そう。本当の名前は随分昔になくして、もう返ってこないと言うんです」
「それは興味深いですね」
僕が笑うと、男もつられたように笑う。
 

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白い蛇の夢をみた(短編小説)

白い蛇の夢をみた(短編小説)

白い蛇の夢をみた。

夜の草むらに、立っている。
辺りがあまりに明るいので、見上げると満月だった。
じっと見ていると、それは段々膨らんでいるようであった。
飲み込まれてしまう、と思った。
私は、恐ろしくなって後退りする。背中に固いものが触れ、振り向くと井戸があった。
逃げるように井戸へ飛び込む。落ちていくと、そこにも月があった。水の衝撃、冷たさ。体をひねると遠くに歪んだ月が見えた。小さな水泡が、口

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