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融解 | 書き出し縛りのザイン?1

鈴木 洛


 夏休みが始まって一週間。相も変わらず地獄のような暑さは続いていた。ただコンビニに行くだけでもじりじりと日差しに焼かれ、だんだんと身体が溶けてゆく。全てを焼き尽くさんと言わんばかりの憎いほどに晴れ上がった空。

 そんな地獄に放り出されるようなことしたっけ。考えてもどうしようもないことがひたすら延々と頭を巡る。いや、したのかもしれない、どうせ自分のことだし。した、というか、存在そのものが。生きてることで地獄にいくのか、生きてることが地獄なのか。……どっちもか。生気を吸い取られていくような心地。地獄を生き、地獄に行く。結局皆そんなもん。そもそもアイスみたいにどこまでも溶けてしまえば、それはもう人間とも呼べないのだろうけど。じゃあどこまで溶けたら、手足は? 脳は? 心臓は? どの部分が残っていたらそれは人間? 自分はまだ人間? 脳が溶けたら記憶は無くなるのだろうか。記憶、過去への執着。記憶のない人間。……頭の溶ける前に帰る。日傘は溶けないからえらい。

 とはいえ室内でも暑いものは暑い。日差しはなくとも芯が熱い。ここもどこも地獄だったか。ほらもう、足の小指から形を無くして。立っている気力がない。今すぐにでも溶け出して、ぐでんと床にへばりつきたい。体積がぐっと減ったような気分。

 とりあえず冷房を、いつもより一度下げてみる。どっちつかずの一度。本当はもっと下げたいけれど、なんとなく何かに対して申し訳ない気がして。何に対して? わからない。人生わからないことだらけ、わからないということしかわからない。やっぱり人間そんなもん。ようやく心地良くなってきたような感触。

 少し落ち着いてくると、今度は風呂に入りたくなってくる。冷えたいのか温まりたいのか、なんともわがままなことこの上ない。でも多少冷えたとて、ベタつく感触は消えてくれない、芯の熱もとれやしない。暑い日こそ熱い風呂にと言ったのは誰だったか。小さい頃はなんて被虐的なと思ったものだけど、今となっては思われる側になってしまったようで。いつまでももやもやとくすぶる身体の熱が、熱い湯にじんわりと溶け出していくあの感覚。一度想像し始めるともう止まらない。すぐに風呂をためる。

 このまま熱もなにもかも全部溶け出してしまえたらいいのに。ゆっくりと湯船に肩を沈める。熱い。あと十秒だけ。いーち。にーい。まぶたが重い。さーん。しーい。視界がぼやけていく。ごーお。…ろーく…。頭が動かない。しー…ち……。はー………。



コラージュ= 鈴木洛


うらばなし

近日中に、くわしい裏話の記事も載せます!


鈴木 洛 Raku Suzuki

翻訳とデザインを勉強中のしがない学生。今はど素人のデザインを中心に、翻訳は手を抜きがち(こっちだってど素人のくせに、頑張ろう)。文化的なことは大抵何でも好きなザ・中途半端人間ですが、何卒お手柔らかにどうぞ。常に何事もさらさらとしていたい。
あと猫も好き。NO CAT, NO LIFE.




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