宇宙人ビンズと砂漠の錆喰い
この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。
やぁ諸君、私の名はベーリッヒ。惑星テコヘンの惑星調査団員の1人だ。といっても今は休暇中で、宇宙船で宇宙をただ漂っている最中だ。好きな音楽をかけ紅茶を楽しむ。そして本を読み漁り知識を得る、なんと有意義な休暇だろうか。さて、もう1人この船には団員がいるが、彼は今外に出て漁をしている。もちろん、宇宙服を着て。なんでも宇宙を漂うガラクタに紛れて宝があるそうだ。公務員がガラクタを漁るな。さて、こちらに近づく足跡からして、彼が帰って来たようだ、我が友ビンズが。宇宙服を脱ぎ捨て、私にテーブルの上を片付けるようにいう。なんだ、今回は何を持ってきたんだ?片付いたテーブルに置かれたのはサッカーボールくらいの大きさのロボットのようだ。白いボディに背中にはゼンマイがある。だが、ボディはいくつか錆びつき動きそうもない。するとビンズはブラシと錆落としを持ってきた。そしてテーブルに新聞紙をひき、手際よく動画を使い鯖を落としていく。おまけにヤスリでピカピカにし、最後にゼンマイへ油をさす。こいつ、転職しても上手くやってそう。ビンズはロボットのゼンマイを巻く。するとロボットの目が光り動き出す。ロボットが発した第一声は、「ここはどこ?」だった。
ロボットの正体は「ゼンマイ星人」だった。原初はゼンマイ式のロボットだが、突然変異により機械生命体として進化を遂げた者たちだ。科学力は凄まじいが、基本全てゼンマイ式という変わった文化を持っている。今では無人の星々にも拠点を置き鉱物資源を採掘しているという。だが、その子供が1人宇宙を漂っていたのはどういう訳だろうか。見た感じ、子供のようだが。この子がいうには、砂漠の星に仲間と住んでいたが化け物に襲われ、自分1人脱出ポッドに入れられ宇宙に飛ばされたようだ。そうか、それは災難だったな。ゼンマイの子は目から映像を出し星の場所を教えてくれた。場所は惑星S-10、砂の星か。でも、調査するに値しないくらいなんもない星だったはずだ、危険度はEのはずだし。化け物とはなんなのか。そして、目を輝かせて光線銃を磨く我が友人。ぶっ放したいだけか。とにかく、ゼンマイ星人との友好的関係を結ぶチャンスだ。我々は惑星S-10に進路をとる。
惑星S-10、我々テコヘンの間ではなんら変哲もない星にはこうやって英数字などで表される事がある。それくらい特徴のない星という事だ。あるのは砂と砂鉄くらいだ。ゼンマイ星人もよくこの星を拠点にしようと考えたな。我々は子どもの言う通りの場所に降り立つと、そこには金属でできた建物が並んでいた。建物にゼンマイが付いているということは、どうやらここが拠点らしい。だが、建物は大半が錆びつき、よく見るとゼンマイ星人の同胞であろう彼らの手足が錆びて転がっていた。子どもは頭を下げ悲しんでいたようだが、ビンズが頭を撫でて慰める。そしてビンズは光線銃を取り出し、辺りを捜索する。私も周辺をスキャニングするが生体反応はない。ゼンマイ星人も生命体だから、生きていれば反応があるが、これじゃあ希望は薄いな。ビンズも戻って来たが、表情を見るからに生存者はいなかったようだ。だが、子どもがいうには西にも集落があるようだ。我々は宇宙船に乗り込み西へ向かった。
子どもがいった通りだ。西にも同様に建物がある。だが先ほどのように錆びてはいない。どうやら無事なようだが、ゼンマイ星人も随分多いように思える。我々が降り立つともちろん警戒されたが、ビンズが持ち前のコミュ力でその場を凌いだ。そして子どもを無事に両親のもとへ送り届けた。ひとまずは安心だが、様子を見ると各拠点から避難して来た感じにとれる。おかしいな、ゼンマイ星人はゼンマイ式ではあるが武器にも優れていると聞いたことはあったが、気のせいだったのだろうか。それとも、化け物がそれを上回るほどの力を持っているのか。そして、しれっとゼンマイ星人たちとチェスを楽しむ我が友。ビンズ、お前はシリアスに向いてない。その時だった、集落の外側から轟音が鳴り響く。その方向をよく見ると、それはいた。全長は恐らく50メートルほど、薄い緑色の皮膚に覆われ、頭部は金属出て来ており兜のように変形している。そしてその姿はまさしく大蛇のよう。私はこの生物を知っている。「錆喰い」だ。主に金属が多い場所に住み付き、そこで錆びた金属のみを食べ成長する生物。だが、どんなに大きくてもせいぜい7メートル程だろう。なぜこんなに大きいんだ?そして錆喰いには武器がある。錆びていない金属が周辺にない時、食料不足を解消するため、自らの体に含まれる体液を口から噴射し金属を錆びさせる。ゼンマイ星人たちが錆びついた理由がこれでわかった。何より、明らかに彼らと相性が悪い相手だ。ゼンマイ星人は銃を持ち構える。一斉に射撃するが、錆喰いはびくともしない。ビンズも光線銃で抵抗するが、やはり効いていない。相手が大きすぎるんだ。すると、ゼンマイ星人の戦闘機だろうか、3機ほど錆喰いに立ち向かう。戦闘機から放たれる弾は錆喰いを怯ませるが致命傷には至ってないようだ。そしてその内の1機が錆喰いの体液によって錆び付かせられ撃墜される。戦闘機でもダメなのか。するとビンズは宇宙船からスナイパーライフルを持ってきて、銃口にミサイル弾を取り付ける。この野郎、また新しい銃を買ってやがったな。ビンズは狙いを定めミサイル弾を放つ。ミサイル弾は錆喰いの目を直撃し、流石の錆喰いも怯み砂の中へ潜っていく。危機は去ったが、犠牲者が出てしまった事に変わりはない。
その夜、我々はゼンマイ星人たちと作戦会議を開く。星を脱出するよう提案もしてみたが、この人数では流石に限界があるようだ。たしかに、我々の宇宙船でもこの人数はダメだな。それに、やつは恐らくまだ我々を狙っている。全員空の上でお陀仏という可能性もある。やはりあれを倒すしか道は無いのか。しかしこの状況でも、我が友人はケータイをいじって暇を潰している。こいつ今にでも指折ればいいのに。ゼンマイ星人たちは総力戦で挑むといっていたが、何も作戦なしに挑むのは無理だ。そもそも、なぜ錆喰いがあれ程までに成長したのかまだ調査も終わってないのに。私は先ほどスキャニングしたデータを解析する。先ほどの錆喰いの推定年齢は、525歳?え、普通の錆喰いって20年くらいで死ぬんじゃなかったっけ?いや、そういえば膨大な量の金属を食い続ければ生きながらえるって文献に書いてあった気がする。でも、そんな金属この星にあるわけ、、、。あ、砂鉄。無駄に広いこの惑星の砂鉄をずっと食べてれば可能か。それでもあそこまで大きくなるのか?もっとこう、栄養価の高いものを食べないと、、、。栄養価の高い、もの、、、。私の眼前に映るもの、それはゼンマイ星人である。まさかと思い、私は惑星S-10の歴代調査報告をダウンロードし見る。
〇〇年 〇〇隊 惑星S-10調査報告
星には特に砂鉄と砂以外何もない。強いていうなら他惑星の住人が開拓を行なっている模様。今後も監視予定。
〇〇年 〇〇隊 惑星S-10調査報告
前調査団の報告通り、砂鉄と砂以外は確認が取れない。道中他惑星の住人が拠点を作ってはいたが、特別な危険はないと判断した。
〇〇年 〇〇隊 惑星S-10調査報告
前調査団員は何を調査していたのだろうか。開拓していた他惑星の住人が拠点ごと失踪している。周辺には錆びた建物が並び何らかの襲撃を受けた模様。厳重に注意するとともに、惑星S-10を危険度A以上に引き上げるよう要請する。
〇〇年 〇〇隊 惑星S-10調査報告
前調査団員の話とは違い、いつもの報告通り他惑星の住人が移住と開拓を行なっている。特別な危険は見受けられないため危険度の引き上げは必要ないと判断する。
以下、似たような文献が続く。つまりなんだ、この星には多くの異星人が来ては移住し、それにより錆喰いのエサは豊富になる。中には機械生命体もいたんだろうな。しかし失踪の原因を突き止められず、証拠は砂の中に埋もれ、それを知らない異星人がまた移住しては錆喰いのエサが増え、それを何百年も繰り返した結果、やつがこの星のヌシになったのか。拠点が無くなれば住むところがなくなる、錆喰いに食べられなかったものは今頃砂の中、、、。何より腹立つのは、テコヘン人、仕事全然出来てねぇ!早く気づいていれば他惑星に情報を送れたのに。許してくれゼンマイ星人、これは我々のミスの連続が招いた結果だ。何が危険度Eだ。あの錆喰いは想定危険度A、軍隊がひとつ犠牲になってもおかしくないレベルなのに。
その夜、会議の終了後私は宇宙船でビンズにこのことを伝えた。これは我々の責任であると。ビンズは笑いながらそうかもなとつぶやいた。私はそれに腹を立て泣きながら彼の背中を叩いた。だが、ビンズは笑いながら何も言わず、ただ紅茶を飲んでいた。なんで、笑っていられるんだよ。彼なりの下手くそな気遣いだったのかもしれない、私の気分を和らげるために。私がそれに気づく事はなく、ただひたすらに泣いていた。
翌日、戦闘機4機、宇宙船1機、そして50名にも及ぶゼンマイ星人の兵隊による錆喰い討伐作戦が行われる。内容はこうだ。兵隊と宇宙船が砲撃で錆喰いを牽制。残りの戦闘機は2機の間にワイヤーを繋げ、高速で突進し錆喰いにワイヤーをかけ体を切断する。頭部へダメージをあまり与えられないのなら、体を切断してしまおうという作戦だ。宇宙船の操縦は私、そしてゼンマイ星人の戦闘機にはビンズが乗る。彼は優秀なパイロットだ、大丈夫だろう。しかし、出撃前にもケータイをいじるこの無神経さはなんだ?おまけに戦闘機の写真も撮り始めたぞ。私は言葉の一つでもかけてやろうと思ったがやめた。やはり、あいつは指の一つでも折れた方がいい。私が振り返ると、ビンズは私に「死ぬなよ。」とヘラヘラした態度で言い放つ。私は怒りながらわかってると答えた。
拠点の前に作戦に同行する兵たちが集められ配置されていた。戦闘機と宇宙船も空中で静止し錆喰いを待つ。私は宇宙船で1人操縦席のハンドルと船の主力武器である二連キャノン砲の発射ボタンを握りしめる。しかし、私の上にいる戦闘機に乗ったビンズは相変わらず余裕の表情でケータイをいじっている。あいつ、何にそんな熱中してるのか。すると我々の前にそれは現れた。錆喰いだ、相変わらず大きいな。だが、今回はちゃんと兵隊を編成して作戦も練り上げた、負ける事はない。錆喰いは大きな口を開け咆哮を響かせる。我々はそれにおののくことはない。咆哮が合図となり一斉に進軍する。地上と空からの一斉射撃に錆喰いは怯むがやはり致命傷は負わせられない。すると地上部隊に向けて錆喰いは体液を口から吐き出す。体液はゼンマイ星人の何人かが浴び、体全身が錆びつき動かなくなってしまった。我々が浴びても何も起こらないだろうが、機械生命体である彼らはもう助からないだろう。錆びてからさらに朽ち果てている部分があるのがわかる。すると戦闘機2機がワイヤーを戦闘機と戦闘機の間に繋ぎ仕留めにかかる。全速力での突進、あとは錆喰いの胴体をそれで切れれば良いのだが簡単ではなかった。錆喰いは大きな尻尾を地面から出し、突撃してきた戦闘機の1つを叩き落とす。ワイヤーが繋がれているため、もう1機もワイヤーに引っ張られ地面に落ちていく。黒煙を上げやがて爆発し、残りはビンズの乗る1機とペアであるもう1機のみ。次に失敗すればもう錆喰いを倒す手段はない。だがビンズは戦闘機を繋いでいたワイヤーを外し、そのまま錆喰いの周りをぐるぐると旋回し始めた。するとワイヤーは錆喰いの体を締め上げる。ビンズは犠牲を最小限にするため、単身相手を絞殺しようというのだ。錆喰いはもがき体を大きく振るわせ抗うが、ビンズの操縦技術は類稀なるもので、錆喰いの動きに合わせてワイヤーを締め上げていた。やがて錆喰いの体は少しずつ地面につき始め、やがて完全に生き絶えた。ビンズは戦闘機とワイヤーを切り離し、旋回して我々にガッツポーズを見せた。我々が勝どきをあげ喜んでいたつかの間、恐ろしい事態が発生する。倒れた錆喰いの周りに流砂ができ、そこから巨大な生物が姿をあらわす。全長は恐らく50メートルほど、薄い緑色の皮膚に覆われ、頭部は金属出て来ており兜のように変形している。そしてその姿はまさしく大蛇のよう。それが6匹、いや、まだいる。その後ろからさらに巨大な生物が出現した。錆喰いの親だ。そしてその群れだ。そうだ、そうだよな。あらゆる異星人達の物資を1匹で喰らい尽くすのは無理だ。恐らく、今倒したのは子供、今回は親がいる、子供を引き連れて。私は空からその様子を見て絶望した。1匹でも苦戦したのに、これでは手の打ちようがない。その時だった。ビンズが単身、戦闘機で錆喰いの群れに突入していく。すると戦闘機から煙幕のようなものが散布され辺り一面を覆っていく。ダメだビンズ、それだけでは防げない。すると1匹の錆喰いがビンズの戦闘機に体液を口から吐き出し一部を錆びさせ損傷させる。ビンズはなんとか回避したようだが、向こう側へと落ちていく。私は宇宙船で急いで彼の後を追う。
ビンズがやられるのは想定外だった。あの程度で死ぬやつではないのは知っている、知ってはいるが、どうしても落ち着かない。心配なんかするもんか、こんなピンチざらにある。でも、もし、彼が死んでたらどうしよう。この星から出られ無くなるとか、作戦が失敗するとか、どうでもいい。友として放ってはおけないだろう。
彼が死んだら、あの世で誰があいつのわがままをきいてやるんだ?
私は宇宙船を地上に着陸させ船を降り、戦闘機の落ちた周辺を探す。するとビンズが乗っていた戦闘機がほんの少し黒い煙をあげ不時着していたが、損傷は予想以上に少ない。私が彼の名を呼び戦闘機の裏側に回り込むと、彼はサングラスをかけチョコバーを食べていた。不時着した奴が、砂漠に向いてない食い物を食うんじゃない。私は彼からチョコバーを奪い残りの半分を食べてやった。ひとまず、案の定無事だった。だが困った、あの群れは我々だけでは太刀打ちできない。するとビンズがアフロのカツラを被り無線機を出しマイクと繋ぎ始めた。冗談だろ、まさか頭がおかしくなったのか。その時、私の頭上を何かが通過した。影だ、錆喰いが上にいるのか?いやもっと多い、飛んでいる何かだ。私が上を見上げると、空には何機もの宇宙船があった。テコヘンの物ではない、名のある宇宙海賊や傭兵、賞金稼ぎたちの船だ。大小合わせて30を超えている。何故だ、なんでこんなにも。するとビンズがオープン無線を使用しマイクで喋り始める。内容は「錆喰い討伐ゲーム」という物。錆喰いをより多く倒したものに豪華景品を送るという。そうか、昨日からケータイをいじっていたのは各地から援軍を集める為だったのか。ネットを利用して、しかも戦い好きな奴らを。だが、景品はなんだ?まさかビンズのコレクションじゃないよな。それだけで動く奴だとは思わないが。ビンズが宇宙船達に見せたのは手のひらに収まるほどの大きさで紫色に輝く石。ムゲジン鉱石だ。燃料にすれば1リットルで我々の宇宙船なら10年は動かし続けられると言われている市場価値の高い貴重な鉱石だ。この量なら2年は飛ばせるぞ。私がビンズに問いただすと、ゼンマイ星人と一緒に拾って来たという。何という奇跡だ。これなら荒くれ者達も動く。ビンズが号令をあげると、各者一斉に錆喰いへ向かって砲撃を始めた。錆喰い達も体液噴射で対抗するが、数が数のため圧勝するかに思えた。だがその時である。錆喰いの1匹がこちらに向かってくる。目には傷を負っている錆喰いだ。そういえば、先程倒した奴には目に傷はなかった。昨日ビンズが退けた1体に違いない。こちら側には兵隊も宇宙船隊もいない。するとビンズは我々の宇宙船から大きなケースを持ってきた。ビンズがケースから取り出したもの。それは緊急事態用制圧兵器レーザーバズーカである。ただの大きいバズーカではない。持ち手が2つ付いており、1人が引き金を引けば大型宇宙船を破壊する威力、2人が同時に引けば5隻分破壊できると言われている。何故そのようなものが積まれているのか、緊急事態用だからである。惑星調査団は、故郷に情報を送り届けるまでは、兵器を使ってでも生き延びねばならないのだ。だが、今回はどう見てもビンズがぶっ放したいだけに見える。目の色が違うもの。不純な理由で使えば国から大目玉をくらうと何度も言っているのに。私が注意しようとした途端、ビンズは私にバズーカを持たせて引き金を無理やり引かせる。レーザーは錆喰いの頭部を完全に焼き尽くし、残った胴体は地面を轟かせ倒れていく。やってくれたなこいつ。私が使った事にして逃げる気だな。私は勝利の余韻に浸る事なくビンズを追い回す。その後、ゲームに参加した船団が錆喰い達を一掃したのは言うまでもない。
その後、表彰式が行われて、優勝した賞金稼ぎにムゲジン鉱石が贈られた。ゼンマイ星人と私は拍手し、ビンズは優勝した賞金稼ぎにインタビューをする。錆喰いが口を開けた瞬間にミサイルを連射したことが勝利の決めてらしい。なんかそっちもそっちで壮大なドラマが生まれていたようだな。すると、ほかの参加者達がゼンマイ星人達に詰め寄った。はるばるここまで来たのだから俺たちにも何か寄越せと。そんな無茶な、彼らは今困窮の中にいると言うのに。その時ビンズが参加者をなだめて宇宙船に入っていく。そしてすぐに戻ってきた。持ってきたのは大きめの段ボールを何個か。
入っているのは、ビンズが今まで集めてきたコレクションだ。
するとビンズは参加者達に箱の中身を見せて配り始める。参加者達にとってはかなり希少価値の高いものだったらしく、ムゲジン鉱石程ではないが喜んで手に取っていた。
おいビンズ、それは君が何年も集めて大切にしていたコレクションじゃないか。
それ、恐竜の星で見つけた化石だろ、持って帰って来た時あんなに喜んでたじゃないか。
それ闇市で手に入れたビデオ。目を輝かせていつも見ていたじゃないか。闇市に行くのは悪いけど。
おい、お笑い芸人タコの助さんのサイン色紙まであげるのか?はるばるサイン会に行ってやっと手に入れた代物だろ。なんでそんな簡単にあげちゃうんだよ。
やめろよ、やめてくれよ。お前の苦労して手に入れたもの、なんでそんなに笑ってあげちゃうんだよ。私は、そのためにお前のわがままに付き合ってきた訳じゃないのに。私は急いでビンズを止めに入るが、ビンズに縛り上げられ、結局お宝は全て参加者達の手に渡ってしまった。
ゼンマイ星人はその後自らの星に帰り、ゲームの参加者達もその後を追うように星を去っていく。ビンズの箱の中身は空っぽだった。私は縄を解かれ、ビンズに帰ろうと言われた。私は「どうして!」と叫んだ。喉が裂けんばかりに。
ゼンマイ星人や他の異星人たちは錆喰いによって犠牲になった。ゲームの参加者達は理由がどうあれ時間と労力を使った。お前は国に対して絶望を抱いた。俺だけ何も失わないのはおかしいだろ。
ビンズの言葉に胸が苦しくなった。ビンズ、お前ってやつは。全て見越した上で、、、。私はビンズに手を引かれゆっくりと宇宙船に戻っていく。
その後、ビンズが宇宙船を操縦し私は調査報告を書いていた。いつもと変わらない日常に戻ったと言うべきだろう。ふとビンズに目線を向けると、彼は何やら古びた紙を何枚か見て船を操縦していた。私がビンズに寄り、問いただすとゲームの参加者からくすねて来たという。そうか、コレクションの取り合いをしているあの時か。これは、宝の地図か。惑星の座標や隠されている場所まで書いてある。私は続けてムゲジン鉱石は本当に拾ったものかも問いただす。するとビンズは、ゼンマイ星人の脱出ポッドを分解したら出てきたという。そういえばこいつ、素の状態でゼンマイ星人を持ってきていたな。本当は脱出ポッドごと持って帰って来てたのか、ムゲジン鉱石の事を内緒にして。こいつ策士だ、失ってもまた同じ量のコレクションを集めるために計画していやがった!なんなら事件がなかったらムゲジン鉱石を独り占めするつもりでもあったのか!私は怒り、またいつものようにビンズを追い回す。でも、心の底から嬉しかった事がある。ビンズがいつも使っている光線銃、彼は手放さなかった。調査団訓練生時代、私がプレゼントしたものだ。
調査報告
惑星調査団のミスにより、生態系変化への兆しを確認できなかった事例が発生した。惑星調査の際は報告事例の有無に関わらず、今一度厳正な調査を行うよう組織に呼びかけるものとする。
宇宙人ビンズと砂漠の錆喰い 〜完〜
この記事が参加している募集
記事もデザインも作ると喉も乾くし腹も減ります。 皆様ぜひご支援よろしくお願いします!