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月光の獅子

月に照らされた牙と立て髪は工芸品とよく言ったものだ。


月光の獅子は月夜にのみ姿を表し、澄んだ雄叫びは谷に轟く。


その合図で狩人達は武器を取り彼に挑むのだ。


月光の獅子は挑戦者を拒まない、全て打ち砕くのみである。

狩人たちは一攫千金の夢と共に、その生暖かい亡骸を谷に残していく。

私も彼に何度挑み逃げただろうか。

私は弓を専門とする狩人だが、彼を射抜けた事などない。

谷を縦横無尽に駆け周り、狙いなど定まるはずもない。

だめもとで矢を射ると、やつは鋭い眼光を放ってくる。

どちらが狩人かわかったものではない。

剣も持っているが、あれに近づく勇気はない。

狩人連合も大変だろう。

他の魔獣ならともかく、あの獅子は人智を超えている。

だがある日のこと、狩人連合にとある魔法使いが来た。

体は痩せ青い帽子に木の杖、やたら目立つ口髭、目はいかにもいたずら好きという印象だ。

その魔法使いは言った、あの獅子は確実に狩れると。


そんな上手い話があるかと思ったが、今夜証明すると言い放った途端、狩人たちは着いていくと参戦する。


その雰囲気に呑まれ、私も参加することになった。


その夜、狩人総勢30名ばかりが集まった。


澄んだあの雄叫びと共に我々の前に姿を現した。


狩人たちは怯むが、魔法使いは余裕の笑みを浮かべて獅子に小瓶を投げつける。


小瓶が割れた途端、光輝く液体が飛び散り獅子は苦しみ悶える。


だが、我々にも飛び立ったはずなのに痛みはない。


狩人の1人が中身を問いただすと、日光の力を魔法の力で液体にしたものだという。


月光の獅子は月の力を与え神の如く力を得るが、相反する太陽の力を浴びれば体は朽ちると。


確かに、それなら夜にしか現れない理由に納得がいく。


だが狩人たちの中には怒るものもいた。


体が朽ちれば貴重な毛皮や立て髪を持って帰れないと。


しかし周辺地域の危険が回避できればそれで良いという狩人たちもおり、気がつけば意見が対立し争いとなった。


その隙に獅子は逃げ、それを見た私は1人獅子を追いかける。



獅子はすぐ近くの崖にいた。


悶えることはなかったが、所々体がどんどんと溶けてちりになっていくかのようにぐちゃぐちゃになっている。


獅子は満月を眺めた後、私の方を振り向いた。


弱くなった眼光だが、瞳の奥に輝きがある。


私は久しぶりに剣を引き抜いた。


「獅子!お前に、私は挑むぞ!一対一の勝負だ!」


その瞬間、獅子は私に飛びかかり、それと同時に私は獅子の喉元に剣を突き刺した。


獅子は満足したかのようにぐったりと倒れ、戦いの日々に別れを告げた。


体はまだ、あの液体のせいで溶けている。


もう眩いほどの勇姿は見るに耐えない姿になっていく。


その時、狩人数人と魔法使いがやってきて「獅子は死んだか?」と問うと、私は獅子の骸を背に剣を向けて答えた。


「死んだともさ。だが、これ以上先を見るのは誰であろうと許さん!」


私はその後やってくる狩人たちに鋭い眼光を向け、朝になった途端に泣き叫んだ。

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