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錬金したがり

⚠️この小説にはグロテスクな表現が含まれている事がございます。自己責任でお読みください。⚠️

金持ちほど暇なものはない。とある小国に貴族の少年がひとり。父が国の大臣であるため当然裕福である。幼い頃から欲しいおもちゃ、ありったけの美味いもの、読んでみたかった異国の本、その全てが他人から見て多過ぎるほどの小遣いで全て買えた。しかしそんな生活が成人一歩手前まで続いてしまうと、金で得られるものにはとてもではないが興味を失った。そうなるともっぱら暇を持て余す。そんなある日、見かねた執事がこう言った。「お金で買えない代物を作ってみてはどうか。」と。少年は考えた。たしかに、金で得たものは何もおもちゃや食い物だけでない。貴族の少年はこう見えて好奇心が旺盛だ。それ故にかなり多くの本を読み知識を得ていた。そして少年が挑戦してみたいと思ったもの、それが錬金術である。


錬金術を簡単に説明すれば、様々なものをかけ合わせて新しい物質や金属を生み出すものである。主には金を生み出す事で知られるこの術だが、裕福な家庭で生まれた少年にとって金など貴重なものではない。むしろ今までなかったようなものを作りたい。暇を持て余すほどあらゆる知識を取り入れた自らの好奇心を満たすため導きだされた答えは「宝石」であった。それもただの宝石ではない。生き物の「心臓」を使った宝石である。少年は過去にとある文献であるものを見ていた。それは琥珀と呼ばれる樹脂で出来た宝石の一種がある事を。樹脂を固められるなら、生命の核である心臓を使えば樹脂とは違う輝きを錬金術が魅せてくれるはずだと。少年の錬金術に協力していた科学者や召使いたちはその時、少年の好奇心は最早世界を学び終えた者が新たに目指す領域に達してしまっている事に驚愕したという。大人になっていない少年の発想ではない、少年はそれ程までに新たな刺激に飢えていたのだ。


こうして好奇心旺盛な少年は何の躊躇もなく錬金術を短期間で習得し宝石の制作に取り掛かった。まず実験台として選ばれたのは小鳥である。死んだ小鳥から心臓を取り出し、それをやれ金属だやれ石だの材料と掛け合わせ、最も容易く宝石を作り出した。光にかざせば青く光る宝石。少年は思った。この宝石には生きたものの経験が凝縮されているのだと。この小鳥はいつも青空に羽ばたいていたに違いない。少年の心は踊った。もっと見たい。本では理解できない、生きたものたちの「色」を見たいと強く思った。それから少年は、多くの生き物たちの色を錬金術で作った宝石を通して見たのであった。


闘牛の心臓で作った宝石は赤。人に立ち向かその勇姿が、興奮や憤怒もきっと秘められていると感じた。


カメレオンで作った宝石は透明、それも小さい。きっと臆病で、何かから逃げたいがため色を見せないのだろうと思った。


死刑囚の心臓から作った宝石は黒に近い赤。まるでこの世を憎んでるがの如く、生命の力強さよりも腐っていく心が表れていると感じた。


気がつけば少年は人間、動物、魚、ありとあらゆる生き物たちの心臓を使い宝石を生み出した。特に人の心臓はすごい。老若男女の死体から抜き取った心臓から作った宝石の数々、全て違う複雑な色と輝きを放っていたのだから。しかし、作れば作るほど、少年の心にはあの不快感にも似た感情が沸き起こる。それは「飽き」である。どんなに違う色をしていても所詮宝石、気がつけば2年近く研究に没頭したが、もう実験台となれそうな生き物はいない。しかし、最後の最後で試していない生き物がいた。いや、生き物と言うよりもこう表現した方が正しい。それは「悪魔」である。残虐で、悪の心を持った人型の化け物。実は少年のいる国には悪魔の墓がある。しかし当然ながら、その墓をあばく事は大臣である父からも仕える家臣たちも皆必要以上に止めていた。無論、少年に協力する科学者たちも止めた。得体の知れない生き物を使っての錬金術は危険だと。だが、常に新しい「色」を追い求める少年には、恐怖や危機感なんてものはない。好奇心を満たす、それだけなのである。少年はあろう事か、警告を無視してたった1人、無断で悪魔の死体を持ち出しその心臓を宝石に使った。悪魔の死体は何年も土に埋められていたはずだが、まるでつい先ほど死んだかのように綺麗だったが、少年は何一つ気にすることはなかった。


悪魔の心臓から作られた宝石は黒かったが、わずかに輝く紫色が少年の心を魅了した。少年がその宝石をただずっと見ていると、気づけば世界が紅に染まっていた。

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