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ゴブリン行列

それは、とあるゴブリンの好奇心から始まった。


ゴブリンが見たのは近くにある人間の国に属する騎士の行列である。

ピカピカの鎧に磨き上げられた鋭い槍、着飾られた馬達。

ゴブリンはその光景に憧れた。

そして彼は真似しようと考えたのだ。

単純に格好いいと思ったからである。

彼は友人数人に手作りの鎧と槍を装備させ、街道を歩かせる。

もちろん自らが先頭に立ち、まるで大将になったかの様に振る舞った。


だがゴブリンは人間の敵である。

ゴブリンの一団は国の外を警備していた人間の騎士たちに軽くあしらわれてしまう。

犠牲は出なかったが、皆ボロボロである。

だがゴブリンの彼は諦めなかった。

今度は単純に人数を増やした。

森の生活に飽き、暇を持て余したゴブリン達である。

数は増え30体を超えた。

ゴブリンの彼は再び先頭に立ち、街道を行進した。

彼は少し自信を持った。

当然ながら人間たちはそれを許さず、騎士の中隊を率いてこれを蹴散らした。

ゴブリンの彼は命からがら仲間と共に逃げ延びたが、残ったのは彼を含めわずか8名ほどだった。

ゴブリンの彼はただ行列を真似したかっただけなのに、なぜ人間は許してくれないのかと嘆いた。

ゴブリンの彼は人間に怒りを覚えた。

今度は質も量も増やした。

人間に恨みを抱くもの、暴れたいもの、森で人間に怯えて暮らしていたものなど、理由は様々だが利害が一致したゴブリン達。

その数はなんと200体を超えたが、ゴブリンの彼はそれだけでは満足しなかった。

ゴブリンの彼は丈夫な鎧と武器を仲間に作らせ、乗る馬の代わりに狼や鹿を捕えさせた。

ゴブリンの彼は行列に強さを求めた。

ゴブリンの彼は凶暴な狼にまたがり鎧と武器を身につけて号令をかける。

号令と共にゴブリンの一団は行列となり街道を進む。

かつてお遊び半分だった行列の足音は大地の鼓動のようだった。

その強さに人間の騎士たちは敗れ、やがて国も陥落した。

ゴブリンの彼が王になった瞬間である。

ゴブリンの王は近隣の森のゴブリン達をも吸収し一大勢力を築き上げた。

しかしゴブリンの国を築く訳でなく、ただ行進と歯向かうものを撃破する日々を送っていた。

そんなある日、行列行進を続けているとゴブリンの部下が建国を進言した。

しかしゴブリンの王は進言したゴブリンの首を切る。

「国などいらぬ。常に堂々と進むのが格好いいのだ。」

ゴブリンの王は、尚も憧れと共に歩みを進めた。

やがて王と行列は伝説となり、とある詩だけが歴史に残った。


人ならざる行列が、街道血に染め進んでく。

数は減りどまた増えて、大地が今日も泣き叫ぶ。

やがて人も国も押しつぶし、歩みに続くは骸のみ。

ゴブリン行列どこへ行く、王亡き後はどこへ行く。

進む理由持つは王のみ、王亡き後は故郷へ。




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