見出し画像

イリュージョニストクイーン

私の夢はトップ女優になる事だった。

その為に美貌を磨き、業界人に頭を下げ、己のプライドが折れるまで戦った。

気がつけば私を知らない人なんていない。

だけど向けられるのは冷ややかな視線だけ。

「お前の事など誰も愛していない。」と言わんばかり。

それはそうだ、有名になる為にどれほど汚いことをしただろう。

そもそも有名になりたかったのはなんでだろう。

ある日道端で幼い少女とぶつかった。

少女は私の顔を指差して「怖いお姉さんだ!」と呼んだ。 

その時の私の顔はきっと怖かっただろう。

私がトップ女優になりたかったのは輝きたかったから。

その為に多くの人前に出なければ、誰よりも進まなければ、周りを蹴落としてでも叶えたいと思った。

それが正しい事だったのかは今でもわからない。

でも「輝いていない」のは確かだ。

浮かない顔をしていると、少女は私に花を手渡してきた。

何も変哲のない小さな花だ。

少女は笑顔でこう言った。

「お姉さん、笑った方が素敵!」

その言葉とともに花は鳥へと姿を変えて飛び去っていく。

少女はもうそこにいない。

残ったのは、微かに口角の上がった私だけ。

あの少女が何をしたのかはわからない。

でも、私はあの瞬間少女の輝きを誰よりも愛した。

そうだ、私が輝きたかった理由。

自分が笑顔でいたかったから。

少女が見返りも求めず教えてくれた。

上に上がるのはやめた。

今から自分を美しく魅せるのはやめよう。

誰もが私を見て笑顔でいられる様にしよう。

皆んなが笑顔なら、私もきっと笑顔でいられるはず。

それから私は少女がやった様な手品を勉強した。

あまりに不思議な手品だったから、本当に見様見真似。

自分を高く見せるよりずっと難しい。

私なんかが出来るのだろうかと。

そんな気持ちになる度に、私は世界を調べた。

あの少女のように、まるで御伽噺の様な存在たちを。

ある所に日夜怪物と戦う屈強な魔法使いがいる。

ある所に世界をただ真っ直ぐに何キロも走り続ける者たちがいる。

ある所に己の地位を捨てて王子から道化師になった者がいる。

ある所に奇妙な事件ばかりに遭遇する刑事がいる。

ある所に喋るクラゲと生活する若者がいる。

そして、ある所に創造の力を持つTシャツ売りがいると。

まるで奇跡の様な存在がいる。

ならなろう、私も奇跡に、自分も周りも笑顔でいられる奇跡になろう。


私から美は消えた。どこからともなく風船を取り出せる、花を咲かせられる、車も出せる、奇妙な動物を生み出せる様にもなった。まるで化け物のようだ。だけども奇想天外な芸を皆笑顔で見てくれる。皆の奇跡でいられるなら、私は何もかも捨てよう。世界にある奇跡たちと同じように。


私が欲しいのは笑顔だけ。


------------------

いかがでしたか?人は余計な物を捨てられれば、誰かにとっての奇跡になれるかもしれません。例えそれが、人とは違う力であっても。

小説の元になった作品はこちらになります。興味がございましたらぜひSUZURIにてご覧ください↓

https://suzuri.jp/zikomanking/omoide/129359




記事もデザインも作ると喉も乾くし腹も減ります。 皆様ぜひご支援よろしくお願いします!