白箱。

そこに広がるのは白い壁、白い床の四角形の明るい部屋だ。壁には何もない。ポスターや写真、当然家具もない。壁や床の手触りは、何の変哲もないプラスチックのようだ。香りはどうだ、臭くもなく、だからといって花のような香りもしない。部屋の説明はそれだけで済む、本当に何もない。何もないから扉もない。だから出られずかなりの時間をここで過ごした。体感時間で言えば大体1時間程だろうか。理由はわからない、夜の10時頃から家にいたと思えばいつの間にか真っ白になった、それだけだ。服は変わっていない、いつものパジャマだ。怪我もしてない、腹も空いてない、眠くもない。持ち物はないかと体を触るが、残念ながら自分とパジャマだけのようだ。さて、この部屋に来てしまった理由は何だろうか。神隠しか、夢か、それとも魔法か、今流行りの異世界転生か何かか、あるいは死んだのか。不思議だ、正直どれでもいい。最近疲れていたからこの状況がむしろ嬉しい程だ。会社でのミス、失恋、ギャンブルでの大負け、正直人生なんて楽しい事なんてないじゃないか。だから、このままでいい。私はひとまず重い体をゆっくりと寝かせ目を閉じた。何も考えなくていい、辛い事、苦しい事なんてここにはない。


ここへ来て何時間経っただろうか。多分2時間程か。流石に飽きてきた、そろそろ出たくなってきた。しかし寝てから体を起こせない、誰も何も言うことを聞いてくれない、そんな感じだ。頭でわかっていても動きたくない、離れたくない私がきっといるのだろうか。じゃあ今できる事を整理しよう。寝転がってから体を起こせない。寝転がる事は出来る、それ以外は出来ない。強いて言うなら思考はできる。私は寝そべりながら、朝からこの部屋に来るまでの振り返ってみた。この状況を打破するきっかけがあるかもしれない。まず会社からだ。今日は納期が本日までの書類が出来てないと言うだけで怒られた。あんな量を頼む上司に問題がある、そう考えていたが違うな。今思えば数日前から疲れが溜まっていた、その時から周りへ助けを求めれば良かった。それからどうだ、昼休みにパチンコへ行って大損した。会社でのミスで出来たストレスを発散するつもりがこのザマだ。やらなければよかった、どうしてまた何度も沼にはまってしまうのだろうか。そして夜、家へ帰ると彼女から別れのメールが来た。理由としては、いつもパチンコばかりで私の事をこれっぽっちも考えてくれないから嫌いになったという。いいじゃないかパチンコくらい、その程度だった。でも、付き合ってから一年、まともに接してあげたのは何回だろうか。プレゼントは、デートは?なんだよ、結局辛い事苦しい事、全部自分がそうしてるだけじゃないか。流れるまま、その場凌ぎばかりで自分も他人も傷ついて終わり。この状況を打破するつもりが、ただの反省会になってしまったな。じゃあこれからの予定を立てよう。まずは明日、上司に謝ろう。次の仕事で挽回するんだ。パチンコはやめて別の趣味を見つけよう。そうだ、昔模型を作るのが好きだった。子供の頃使っていた道具はまだあるだろうか、押し入れを探してみよう。引越しする時に持ってきていたはずだ。それから彼女に連絡しよう。ちゃんと謝って、彼女がこの間観たいと言っていた映画へ連れて行こう。まだ上映してる、ついでにお洒落なレストランも予約して、、、。






壁の向こうからカチャリと音が鳴った途端、私は自分の部屋にいた。

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