博徒の話法

ある地に旅の博徒がおった。ボロ布を纏い、切れかかった鼻緒の草履を履き、手入れのしてない刀を持ち歩き、その格好通りの見窄らしい男だ。お世辞にも綺麗とは思わないが、彼の自慢は博打の腕にある。この男どういう訳か強運かつ巧みな話術の持ち主で博打において負け知らず。負け知らずという事は当然金もある。しばらくは楽していけるだけの金、その風格からは想像出来ないほどの蓄えだ。そんな博徒が山道を1人歩いていると傷ついた武士が1人いた。甲冑と兜を身につけ、肩に矢を受け負傷していた。どうやら敗残兵の様だ。戦に負けここへ逃げ込んだのだろう。博徒は武士に歩み寄り事情を聞くと、武士の家は敵により没落し、1人逃げてきたという。自決する勇気もなく途方にくれていたところ、博徒と出会ったという訳だ。博徒は懐から笹の葉で巻いた握り飯を置いて半日ほどここで待てといい山を降りて町に向かう。

博徒は最初に薬屋を訪れた。店の内装を見る限り庶民風情が買い物をしていい場所とは思えない。当然店の主人も博徒が入ってくるなり薄汚いものでも見るかの様な目つきで博徒を出迎える。博徒は矢傷も癒せる薬が欲しいと主人にいうが、主人はあるにはあるが金はあるのかと博徒に尋ねた。博徒はすぐに金はないと答え、主人は頭を抱えた。だが、博徒は懐から錆びた銅銭を出し主人に見せこういった。

「この銅銭ははるか昔に作られた貴重な品だ。わしはこれを売って生活している。」

当然店の主人は信じようとしなかった。そうかそうかと店を後にして博徒は近くにあった米を売る露店の主人と話す。博徒は三合ほどの米を買う。薬屋の時と違い潔く金を払った。今度は少し向かいにある味噌屋に出向いた。味噌屋にどれくらいの味噌が欲しいのか聞かれるとこう答えた。

「あいにく浪人の身で、米を買う分しか金がなかった。そこで米一合と引き換えに味噌を分けて欲しい。一食を美味く食える分で構わない。」

味噌屋はその交渉を受け入れ、米一合程と引き換えに味噌を手に入れる。そして博徒は店を後にして再び薬屋に向かう。薬屋の主人は驚いた。先程銅銭しか持っていなかった男が米と味噌を買ってきたというではないか。そして博徒はこう言った。

「この町で銅銭は高値が付かず、米ニ合と一食分の味噌しか買えんかった。だが、この銅銭まだニ枚ほどあるのだが、薬と交換できまいか。隣町で売ったときには倍の値段が付いた代物だ。」

薬屋はあの見窄らしい男が上等の米と味噌を買ってきた事実を受け入れ銅銭ニ枚で多めの塗り薬を与えた。博徒は店を後にし質屋を訪れ薬の半分を売り、先程米を買った分の金とほぼ同額を手に入れ、博徒は気分良く山に戻っていく。

夕方頃、博徒は山にいる武士の矢傷に薬を塗り、米と味噌を与えた。武士はその気遣いに感謝し、お礼がしたいと申し出た。博徒は武士が仕えていた土地の場所を聞いたのち、抜いた矢と兜を譲って欲しいと武士に言った。武士は矢は良いが兜は嫌だと渋ったが、博徒はこう武士に言う。

「甲冑だけならまだしも、こんな大層な兜を持っていたらお主は敵に追われ続けるだろう。この兜は傷もあまりついていないから高値がつく、だからわしに譲ってくれないか?生きていればこれくらい手に入れられるだろうて。」

武士は悩むが、博徒の言葉に一理あると考え兜を譲り、お互い違う道を歩き始めた。

翌日、博徒は武士がかつて仕えてた地を訪れ、その地の武士たちに兜と矢を見せる。すると武士たちは驚き、大名のもとへ博徒を案内する。その大名は、昨日博徒が助けた武士の家を討ち滅ぼした勢力の親玉であり、博徒の持ってきた兜と矢を見て博徒にどこで拾ったと問いただす。博徒は次の様に答えた。

「旅の途中山を越えるあたりに甲冑をつけた武士が烏についばまれ、見るも無残な姿になっておりました。死体の矢に殿と同じ家紋が刻まれておりましたので、わしが持ってこられる範囲で兜と一緒に持参した次第でございます。」

大名はそれを聞き高笑いし大層喜んだ。

「浪人よ、その矢はこの私が敵将に放った一矢である。奴がどこに消えたか検討つかなかったが、まさか死んでいたとは。それで亡骸はどうしたのだ。」

「持参しようと思いましたが、小心者のわしには無理な話でして、致し方なく甲冑ごと川へ流した次第にございます。非力ゆえ兜と矢のみを持って参りました。」

博徒の言葉を信じ大名は功績に対して、質屋で兜を売って得る以上の金と上物の酒を博徒に与え、武士の死を知りたかったのかさぞ喜んだ。こうして博徒は傷ついた武士との出会いにより、またしばらく楽できる金を得たのであった。

〜博徒の話法〜 


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