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宇宙人ビンズと沼地の悪魔ドロンボス

この物語は、惑星テコヘンがありとあらゆる星々を調査するために結成した「惑星調査団」に所属する能天気な宇宙人ビンズと、その友ベーリッヒの活動報告である。


こんにちは諸君。私の名はベーリッヒ。惑星テコヘンがありとあらゆる惑星を調査する為に結成した惑星調査団の団員だ。今は相棒のビンズと共に沼の惑星ドロルに来ている。わかりやすく説明すると、汚い場所だ。故に遊ぶのが大好きな我が相棒はこの上なく不貞腐れている。無理もない、ここには知的生命体がいないから街はない。当然、キャバクラも居酒屋もゲームセンターもない。諦めろビンズ、石をひっくり返しても何も出てこないぞ。お前も荷物を持て。


さて、今回我々がドロルを訪れたのは他でもない。我々と同様に惑星調査団がこの惑星に赴き消息を絶った。危険度が低いこの星で調査のエキスパート揃いである惑星調査団が行方不明になるのは前代未聞の出来事である。行方不明の団員は10名。なぜ2人チームの我々がこんな調査をしなければならないのか。しかもこんなに重い武器の入ったケースを背負って。ビンズ、だからお前も持ちやがれ。まったく、普通は20〜50人クラスのチームがやる仕事だろうに。まぁ無理もない、うちの相棒が適任ということだろうからな。知らない人のために教えておこう。相棒のビンズは学力ではどの団員よりも劣るが、身体能力と射撃の腕に関しては調査団トップクラス。時として彼は「10人の調査団チームよりも彼1人いた方が安心。」と呼ばれるのだ。常に一緒にいる私にとっては安心どころかヒヤヒヤさせられる場面は多いがな。つまり、我々が駆り出されるということは、ビンズクラスの猛者で無ければ倒せない相手がこの惑星にるという事だが想像できないな、こんな何もない惑星では。


我々は不気味な木々が生い茂る沼地をただひたすらに歩く。ビンズは時より沼地の写真を横目に自撮りしていたがやはり不貞腐れていた。諦めろビンズ、この惑星は何も映えない。しかし、本当に何もないな。沼と腐った木々、あと美味しく無さそうで全体がヌルヌルしてるスライムのような生き物たち。周りの生き物を図鑑で調べたが、戦闘ではビリッケツの私でさえ勝てる相手ばかりだ。ビンズは最早感情を無にして歩き始めてる。遊びも戦う相手もいないビンズにとってこの惑星は彼にとって天敵のような者だ。まずいな、機嫌をなおしてやらんと帰るとか言い出すぞうちの相棒は。この間も別の惑星で100体の異星人と戦ってる途中で「弱すぎるから飽きた。お前に任せる。」って言ってガチで帰ったからな。まぁ私でも倒せたけども。嫌なことを思い出していると、私は向こう側から何かが近づいて来るのを感じた。ビンズは光線銃を引き抜こうとしたが、すぐにやめた。ビンズがやめた理由、そう、あれは我々の仲間だ。行方不明だった団員達だ。数は3人。1人は負傷していて残りの2人が担いでやって来る。我々の顔を見て安心したのか、3人はその場に倒れ込みそのうちの1人がこう呟いた。調査団最強の男が来てくれた、と。


我々は3人の団員を近くにあった洞窟で休ませ食料を与える。この辺りは我々が食えそうなものはあまりない。さぞ腹が減っていたろうに。3人はあげた食料を口一杯に頬張っていた。どうやら負傷した団員も思ったより傷は浅いようだ。うちの相棒はというと隣であのヌルヌルしたスライムのような生き物をじっくり焼いて食べてた。ビンズいわく「サクサクしてて、不味くはないけどお店で出されたらキレる。」との事。そうかそうか、とりあえず毒は無さそうだな、よしよし。私は静かに懐からビスケットを取り出して食べた。我々は腹を満たしつつ3人から事情を聞いた。そもそも惑星ドロルは調査団の調査対象には入っていない。理由は、まぁ今までの流れでわかるだろう、何もないからだ。だが彼らの考えは全く違ったらしい。彼らのチームの1人はドロルをこう考えていた。「この惑星に凶暴な種や知的生命体がいないのは、全く天敵のいない1匹の生き物が食い荒らしたからではないか。」と。本部もその説が有力と判断し調査命令が下された。彼らのチームは戦闘に特化した団員7名、そして研究員3名でこの星の調査に来て出会ってしまったのだ、全く天敵のいない1匹の生き物と。その生き物の姿は形容し難く、とても力強い、しかも仮説通り肉食が過ぎたという。現に3人しか残っていないのは、残りの7人がその生き物に食われたからだ。負傷している団員がどうやら最後の戦闘員だったようだ。姿形が恐ろしいのはよく見て来た、誰かさんのせいで。だが戦闘タイプの団員が6人も犠牲になるケースは滅多にない。あ、よく見たらこの人、双剣のバララスだった。調査団議事録に良く名前が出てたな。戦闘力はテコヘン正規軍人の2倍と噂の。ビンズにそれを話すと「格下に興味はない。」との事。お前も同じ戦闘タイプだろうが、失礼なやつめ。だが話は見えて来たな。なぜ我々が、いや、なぜビンズが駆り出されたのか。負傷していたバララスは少し回復できたのか一緒に戦って欲しいとお願いして来た。ビンズの返答は「いや、俺1人で処理するので結構です。」だった。お前、寝てるところにグサッとされても私は知らないからなもう。とにかく、その生き物とやらを放置するわけにもいかないな。ここはビンズにストレス発散の意味も込めてぶちのめしてもらおう。ビンズが光線銃をじっと見つめ始めている、ようやくやる気を出したようだな。我々は3人に洞窟で休んでるように伝え、その生き物がいたという場所へ赴く。


相変わらずの沼地一辺倒だが我々も異変に気づく。小動物の姿がない。異様な静けさも相まってより不気味だ。しかも我々の目の前には信じ難い光景が広がっていた。沼だ、カラフルで巨大な沼がある。まるで一度に沢山の染料でも流したかのような色合いだ。しかもその沼の付近には我々も見覚えのあるものが落ちていた。テコヘン製の光線銃。ヘドロのような何かが付いているが間違いない。湿気った地面に若干焼け焦げている部分がある、光線銃を撃った跡だろうか。どうやらこの辺りで戦闘があったのか。私が光線銃を拾い上げようとするとビンズは私をいきなり突き飛ばし沼に光線銃を向けた。だが間に合わず、ビンズはあろう事か撃たれたのだ、カラフルな沼から出てきた触手の様なものの手によって。ビンズは直撃は避けたものの、頭の側面が焦げていた。その理由がわかった。その触手が持っていたのは、テコヘン製の光線銃。まさか、強力な光線や火炎を出す生き物は見た事があるが、こんな知能レベルの低い惑星の生物が現代兵器を使えるだと?すると沼からゆっくりと巨大な何かが沼から這い出てくる。

体はその沼と同じようにカラフルでドロドロの体。目はまるで何かに汚染されているかの様な色合い。体からは多種多様な骨や触手が生えている。まるで今までやつに食べられた生き物達の墓標が如く。腹に巨大な口があり、黄ばみひび割れた不衛生な牙がこの湿気った星の生き物であると認識させる。

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あのビンズが冷や汗をかくほどの相手、こいつがドロル最強の生き物と見て間違いないだろう。ビンズと私は光線銃を向けるが、その生き物はニタニタと笑いながらなんと話しかけてきたのだ。


お前ら、テコヘン星人だな?武器を下ろせ、話をしようじゃないか。


馬鹿な!武器を使うだけでなくこんなにも流暢に喋れるのか。なんと頭の良いやつだ。御伽噺に出てくる悪魔の類なのではないだろうか。野生の生き物のそれでないぞどう見ても。だが、ビンズが負傷している今話を長引かせて回復する時間を与えるしかない。ビンズ、私が話している間に傷を塞ぐんだ。一緒に持ってきたケースの中に絆創膏と消毒があるから。私は光線銃を向けながら一歩前に出る。


ふふふ、武器は下ろしてくれないか。まぁ良い、その光線銃ひとつで我輩を止めることはできぬ。


そうだろうな。出なければ戦闘員が6人もやられる筈がない。私はその生き物に質問した。何者なのかと。


我輩はこの星に生まれた弱き存在。だがある日巨獣の肉を喰らい力を得て、それを繰り返しこの星最強の存在となったのだ。我輩は貴様らのいうドロンという生き物の進化系。故に我輩をドロンボスと崇めるがよい。


ドロン、さっき図鑑で調べたスライムのような生き物だな。珍しくもなんともない、湿気があればどの惑星にでもいる。ビンズも焼いて食べてた。肉を食うだと、ドロンは草食動物だったはずなのに。だが、こいつの話が正しければ納得できる。こいつが喋れるようになったのは恐らく知能の高い生物、すなわちテコヘン星人の仲間を食ったからだ。つまり、負傷した仲間から聞いた話よりもこいつは相当に強いぞ。私はドロンボスに質問した。なぜ攻撃をやめたのかと。


確かに、貴様らを倒し食らう事は容易い。だが我輩はある事を考えた。貴様らが他所の星から来たという事は、我輩も他所の星に行くことが出来るという訳だ。宇宙船というのか。貴様の仲間を殺されたくなければ、我輩をそれに乗せ他の星へ連れて行くのだ。そしてありとあらゆる生物を食い、我輩が宇宙の覇者となるのだ。


やだもう、頭が良すぎる。強者の余裕で溢れかえっておられる。そうだ、ビンズは回復したか?私がさっと後ろを向くとビンズはまだケースの中を漁っている。この野郎、医薬品はケースの右端に入ってるから早く!ドロンボスは私の慌ててる姿を見て声を少し低くして尋ねてくる。


我輩が食ったお前の仲間の記憶を辿った。あいつはビンズという男ではないか。我輩が攻撃をやめた理由のひとつだ。あの男は我輩の奇襲にも素早く対応した。実に優秀だ。我輩もまだ広い宇宙の中では無敵とは呼べん。だから優秀な家来として側に置きたい。さぁビンズよ、我輩と共に宇宙の覇者になろうぞ。


その瞬間ビンズはケースからバズーカを取り出してドロンボスの顔面に放った。放った弾はたちまち爆発し、流石のドロンボスも持っていた光線銃を落としてもがいていた。そうか、医療品を探すフリをして有効打になり得る武器を探していたんだ。そう、これがビンズという男だ。ビンズはバズーカを下ろしてこう言い放った。


格下に興味はない。


ドロンボスは顔に重傷を負ったがすぐに体に纏わりついている粘液でそれを治した。再生も出来るのか。ドロンボスは怒り狂い、触手でビンズを攻撃し始める。ビンズは怪我をしている事を忘れているかの如く立ち回り、攻撃を避けながら的確に触手を光線銃で撃っていく。全弾命中、さすがビンズだ。私も武器ケースからライフルを取り出して応戦する。これだけ体が大きければ射撃な下手な私でも弾を当てられる。我々はドロンボスに光線を当て続けるが、ドロンボスが怯む様子はない。よく見れば光線銃を当てた触手や牙の部分が剥げて色が違って見える。まさか、こいつの肉や骨は何層にも重なっているのか。牙が黄ばんで割れていたのはあくまで古い部分が劣化していたからなのか。新しい部分が剥き出しになったら、その部分は今まで以上に強固、これではこちらが先に弾切れになってしまう。思い出せ、何か、こいつに弱点はないのか。待て、相手は進化していてもドロルだ。ドロルの弱点って、、、。


サクサクしてて、不味くはないけどお店で出されたらキレる。


火だ!ドロンボスがこの星で生き残って来たのは天敵がいなかったから。だがそれ以上に、天敵を知らなかったんだ。こんなに湿度の高く、知能レベルの低い星じゃ火が点くことはない。ビンズがなんも下処理をせずにドロルを丸焼きにして食べれたのは体の水分が火に弱く蒸発し切った証拠。だが逆に7人の戦闘員がドロンボスに勝てなかったのは、奴の体が大きくて光線銃程度じゃ焼ききれず肉と粘液で再生されてしまったからだ。つまり、奴と同等の大きさの火があれば倒せる。私はビンズが応戦している間にケースを漁る。ビンズは惑星調査団支給以外の武器もコレクションしていた。だからある筈だ、火炎放射器!火炎放射器、火炎、放射器、あったぁ!!だが私はある事に気づく。しまった、思ったよりサイズが小さい。これじゃああいつの体を焼ききれない。するとビンズはドロンボスに閃光玉を投げ目をくらましてる間に戻ってくる。どうやら弾が切れたから戻って来たようだ。私はビンズにドロンボスの弱点が火である事、しかし火炎放射器では火が弱い事を伝えると。ビンズは私から火炎放射器を取り上げて、なんともがいているドロンボスの腹の口に自ら飛び込んだのだ。まさか、内部から焼こうというのか!?アホ!体の中の方がより湿気ってるんだ!燃やす前に内部の触手にやられてしまうぞ!ドロンボスは目が戻ったのかこちらを凝視している。どうやらビンズが体の中に入っている事を認識していないようだ。


あの男は逃げたか。とりあえず、貴様から食う事にしよう。知能は高そうだからな、我輩の糧になれ!


こうなったらヤケだ!私はケースの中から瓶に入った消毒液をドロンボスの顔に投げつけ、そこに光線銃を放つ。消毒液は可燃性のアルコール、光線銃で火をつければ燃え広がる。流石のドロンボスも苦しみ始めた。どうだ、生まれてはじめての火の味は!私はケースの中からもう1本消毒液の瓶を投げつけようとするが、あんなにあった予備もなかった。そんな、心配性の私がいつも5本はストックしているのに!!ドロンボスは触手で私の体を締め付け持ち上げる。


ここまでだテコヘン人。弱者にしては良くやった。貴様は苦しませず食ってやる。恨むなら逃げたビンズを恨め!


ビンズは、ビンズは逃げてなんかない!!いつもそうだ、どんなに強い相手が来ようと全力で立ち向かう!それがビンズという男の人生哲学なんだぞ!


私はドロンボスに思い切り唾を吐きかけてやった。ドロンボスは怒り私を締め付けるが、ドロンボスの口から黒煙が上がる。ドロンボスは苦しみ悶え私を離した。私は地面に体を打ち付けたが軽傷で済んだ。その瞬間、ビンズはドロンボスの腹から華麗に脱出した。まるで太陽の様に燃えるドロンボスは火を消そうと沼に戻ろうとするが、ビンズは手榴弾を投げドロンボスの体は散り散りになり、沼地の悪魔は壮絶な最後を迎えたのであった。ビンズは急いでケースからタオルを取り出して体を拭き始める。うわ、すごい臭いだな。いや、そんな事より、体の内部をどうやって燃やしたんだ。ビンズに尋ねると、消毒液も4本一緒に持って突入したという。


俺が怪我した時のために、多く持って来てるもんな。お前が心配性で良かったよ。


この大馬鹿野郎!持っていく量をもっと増やしてやるからな!


私は臭いビンズを思い切り抱きしめた。こんな相棒、他にいるだろうか。


その後コルビー提督が率いる惑星調査団の救助隊が到着した。同時にきた研究隊によってドロンボスのサンプルは全て回収された。ビンズは救助隊に運ばれるバララスに何かを手渡す。それはバララスが使っていたと思われる剣の1本であった。きっとドロンボスの体にあったのだろう。


悪い。アンタのかは知らないけど、アンタが持つべきだよ。


先程までバララスに失礼な言動をしたとは思えないビンズの姿がそこにあった。バララスは剣を受け取り礼を言った。


ありがとう。強くなったら、君と星を巡ってみたいものだな。


格上にしか興味はねぇ。腕を上げて出直しな。


バララスはビンズを鼻で笑い笑顔で去っていった。私はというとコルビー提督に一連の出来事を報告していた。コルビー提督はテコヘン人にしては肥えていて性格も悪い。正直私でさえ苦手だ。コルビー提督は私の話をはいはいと聞き流していた。そんなコルビー提督に私は質問した。なぜこの任務に我々2人が派遣されたのかと。コルビー提督は質問を返す事なく「貴様は余計な詮索をするな!」と去っていった。私が後を追いかけると、コルビー提督は設営されたテントの中で部下とこんな話をしていた。盗み聞きしている私には痛い内容だった。


全く、あのビンズとかいうガキ、これでも死なんか。学がないくせに実績をやたら上げおって。わしはあの男が嫌いじゃ、とっとと食われてしまえば良かったものを。


そうだったのか。おかしいと思ったんだ。どう見積もっても危険度A級の任務に我々2人だけ派遣されるなんて。全てコルビー提督の仕業だったのか。ビンズの性格上、妬みの対象になる事は多い。だが、あんまりじゃないか!私の相棒だぞ!大切な、たった1人の!私は急いでビンズの元に戻った。ビンズはもりもりとチョコバーを食べていたが、私はビンズを持ち上げ彼を肩車する。こんな形で終われるもんか!


皆んな!危険度A級生物を倒したのは惑星調査団のビンズだ!!覚えとけ!!こいつは誰にも負けない、無敵のテコヘン人だ!!


私は少し冷たい目で見られながらも声を荒げて相棒を讃えた。ビンズは最初戸惑っていたが、またいつもの調子で皆にピースサインをするのであった。


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ドロンボスの前日譚はこちらから↓


この度は読んでいただきありがとうございます😊ジコマンキングの次回作にご期待ください♪













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