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女神の浮遊像

その像はいつも浮いている。


ちょうど大人が軽く見上げるほどに。


この像は町外れの遺跡に突如現れた当初からこのように浮いている。


煌びやかというほどでないが、汚れひとつなく見た目は白い女神と呼んでも差し支えない。

女神の浮遊像、私はそう呼んでいる。

私はいつも、仕事で通る途中ここでお祈りをする。

いつも平和でいてくれてありがとうと感謝を込めて。

そんなある日、妻が病気で倒れた。

ひどい肺炎であった。

我が子は妻のやつれゆく姿に大泣きする日々。

大泣きが続くほど、私の余裕もすり減っていく。

はじめはただの風邪だと思っていたのに。

私は仕事どころではなくなり、ついにあの浮遊像に頼った。

どうか私の妻を助けてくれと。

祈りが通じたのか、翌朝嘘のように妻の病は消えた。

私は改めて浮遊像に感謝した。

そして浮遊像の噂は町中に広がった。

はじめはまともに撤去も出来ないため気味悪がられていた浮遊像に、連日町の人がお願いするようになった。

人というのは単純だと思ったのはいうまでもない。

やがて大勢の人間が浮遊像にお願いしに来る頃には、私はお祈りをやめ仕事へは別の道を通るようになった。

浮遊像が嫌いになった訳でなく、周りで他人が連日のようにお願いする声が、どこか嫌いだったのだ。

そんなある日、浮遊像から人が消えた。

誰もお願いしなくなったのだ。

私が近所に住む老人に聞くと、願いが叶わなくなったそうだ。

老人は足が昔から悪く、浮遊像にお願いしたところ具合が良くなったそうだ。

だがここ数日はお願いしても効果が無くなったため、お願いしに行くのをやめたという。

私はそれを聞いて浮遊像のもとへ走った。

息を切らしてたどり着いた頃には、浮遊像は目の前にあった。

違う、浮遊像はこんな低い場所で浮かなかった。

浮遊像の表情や色は何も変わってないはずなのに、重そうで苦しそうなのはなぜだ。

浮遊像はもうすぐ地面に着きそうである。

私が慌てて宙に浮かせようと持ち上げてみるが到底無理な話だ。

地面に着けばきっと倒れ、崩れてしまうだろう。

それくらいに不安定なのだ。

私は町の皆んなに浮遊像の話をした事を後悔した。

幾人もの願いを聞き入れ、叶わなくなった途端にこの扱いか。

さぞ辛かったろう。

私はもう彼女を助ける事は出来ない。

私は最後の願いを言った。

「もう楽になっていい。」

すると浮遊像は僅か白い光を浴びて壊れ始める。

やがて塵となり風と共に彼女は消えた。
 



誰も来なくなったこの遺跡前に私は白い花を植えた。


今日も平和をありがとう。

そう祈り水をやると、爽やかな日差しが私を撫でた気がした。






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