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エッセイ:大ちゃんは○○である36

無事に入居手続きを終えた僕は、ダンボールだらけの部屋の中で一人嬉々とした気分だった。
決して綺麗なアパートではなかったが、今までの共同風呂・共同台所・共同ボットン便所
共同洗濯機・共同洗濯干し場という環境だったことを考えると天国だった。
水洗トイレがある。自分だけの洗濯機がある。
好きな時にシャワーを浴びれる。
狭いが台所もついている。
それまでの環境がなかなかファニーだったので、幸せを感じる幸せメモリがやや低めに設定されていたようだ。
それでも一国一城の主。『ここから成り上がってやる』という気持ちが強かった。
プロダクションのレッスンは週に一回。
オーディションが入れば、随時受けてチャンスを掴んでいくというシステム。
今考えると甘々な考えだが、当時はプロダクションに入ったことでマネージャーが仕事をとってきてくれるものだと思っていた。
「すぐに売れちゃうんだろうな。」
本気でそう思っていたんだから、根拠のない自信というものは本当に怖いものだ。
当然だが、そんな甘い世界なわけがない。
それについては後々嫌というほど思い知らされることとなるのだが。
引っ越しを無事に終えてから、レッスンの初日までには少し時間があった。
その間でまずはアルバイトを決めてしまわなければと思った。
何の実績もない、名もない若手役者志望にプロダクションからお金なんて出るわけがない。
生活をしていく為には当然働かなければならない。
さて、何のアルバイトをしようか。
最初はまかない飯がついている飲食店から選ぼうと思った。
思ったが、飲食店でのアルバイトはもう散々やってきたし、
せっかくなら今までやったことのない業種で、且つ興味がある仕事をやってみたいなあと思って探してみることにした。
興味があること。興味があること。興味があること。。
『そうだ!昔から本が好きだしなあ。
本屋で働いてみようか!
本屋で働けば本の知識が広がる。新作チェックもいち早くできる。何より面白そうかも。』
やったことのない業種で興味がある仕事。
わりかし早く僕の中で結論が出た。
書店員。それが上京後に初めて決めたアルバイトだった。

つづく

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