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ひかげのたいよう#8

“言いなりになるしかなかった私”  私たち四人を私立の中学へ進学させたがった両親は、私たちを近所の塾へ通わせた。両親のこの選択が私を苦しみの闇へと導いてゆく。この闇の入口が、奇しくも歌との運命の出逢いを果たした小学三年生の時だったのだ。この闇は一体どれほど深いのか。それを知るには、しまい込んでいた過去の記憶を呼び起こす必要があった。  一つ目は、再婚によって姉弟になった、出来の良い弟との関係だ。姉弟である私たちは、学校へ行けば同級生にもなる。血の繋がりのない同い年の姉弟に、

    • お気に入りの DAISOのスケッチブック 廃盤予定と聞かされた 思ったよりショックは大きい

      • 虹のリボン

        • ひかげのたいよう#7

          “生まれて初めてやりたいことを見つけた私”  どんな時も“あの人”の敷いたレールの上を歩んでいかざるを得ない人生だった。機嫌が悪ければことあるごとに叩かれ、失敗すればまた叩かれる。そもそも機嫌のいい時なんてないに等しい。些細なことがきっかけで怒られては叩かれ、殴られ、暴言を吐かれる毎日だった。言葉とは不思議なもので、同じことを何度も吹き込まれているうちに、本当にそう思い込んでしまうのだ。 ー私は役立たずだから、ウマレテコナケレバヨカッタなんて言われてしまうんだ。  そんな虚

        ひかげのたいよう#8

          公開中のエッセイ『ひかげのたいよう』 いよいよ販売時期が定まってきた。 母親から虐待を受けた私が どんなことを考え どんな風に苦しんで どんなに叫んでも伝わらなかった想いを ありのまま綴った。 そしてトラウマ治療のことも。 傷ついた心は必ず癒える。 だから諦めないでいて欲しい。

          公開中のエッセイ『ひかげのたいよう』 いよいよ販売時期が定まってきた。 母親から虐待を受けた私が どんなことを考え どんな風に苦しんで どんなに叫んでも伝わらなかった想いを ありのまま綴った。 そしてトラウマ治療のことも。 傷ついた心は必ず癒える。 だから諦めないでいて欲しい。

          燐光 - RINKOU -

          燐光 - RINKOU -

          自己紹介

          自己紹介

          ひかげのたいよう#6

          “愛に飢えた私”  “あの人”との出会いは、私が生まれた頃まで遡る。何を隠そう“あの人”とは私の実の母親のことだからだ。“あの人”は自分のお腹に新しい命が宿っているとわかった頃、相手の家族に結婚を大反対される。それでも産むと決めたそうだ。この時宿った命が、私だ。 「あんたが産むって決めたなら、みんなで育てていこう。」  そう話し合ったんだと、いつだったか祖母が話してくれた。一人で私を育てると決めた“あの人”には、お見合いを勧める話がいくつか持ちかけられた。どの話も断り続けて

          ひかげのたいよう#6

          ひかげのたいよう#5

          “怒りに満ち溢れた私”  苛立ちが頂点に達したある夜、私はいつものように怒鳴り散らし、手元にある物を片っ端から投げ飛ばした。旦那はそんな私から娘を遠ざけようとする。丁度寝かしつける時間だったこともあり、娘を連れて二階の寝室へ向かった。旦那はいつも当たり前の日常を優先させて、私を出口のない闇の中へ置き去りにする。どうしようもない感情に苦しめられる夜だって例外ではなかった。私の苛立ちは次第にそんな二人へ向けられてゆく。 『こんなに叫んでるのに、どうしてわかってくれないの?』  

          ひかげのたいよう#5

          安全な場所

          安全な場所

          ひかげのたいよう#4

          “愛情を注がれなかった私”  私は風変わりな家庭で育った。我が家の変わり具合を説明するには、私の乏しい語彙力では正確性に欠ける。一般的ではなかったと言えば概ねざっくり伝わるだろうか。‘普通’の子育てがどんなものかもわからず、困った時にどう助けを求めればいいのかもわからない。助けてと言う事自体がそもそも恥ずかしいことだと思っていた。そんな場所で育った私には、誰かに愛情を注ぐという温もりが欠けていた。風変わりな家庭環境ゆえに自分の親には頼れない。義両親にお願いすれば嫌な顔せず娘

          ひかげのたいよう#4

          ひかげのたいよう#3

          “誰にも助けを求められない私”  私の日常は至って平凡で幸せに満ちていた。結婚はまだなのかと親戚から急かされることはあっても、焦らず自分らしい道を選択。その道の先で旦那や娘と巡り会い、家族三人、笑いあり涙あり溜息ありの日々を送っている。旦那は家事も育児も何でもこなす、常に誰からも頼りにされる存在だ。周囲の奥様方からは神夫と崇められていた。恥ずかしがりで寂しがりの愛しい娘は、周囲よりちょっと成長が早く、大人顔負けの表現力でいつも私たちを驚かせてくれる。結婚した翌年に購入したマ

          ひかげのたいよう#3

          ひかげのたいよう#2

          前田じあん “今の私”  “今の私”こと前田じあん。三十代最後の年を迎え、“私”史上最大の岐路に立っている。いつだったか、手相占いで三十八歳で大きく変化すると言われたことを不意に思い出した。占いを信じているわけではないけれど、頼りにはしていた。明日を生きるのが不安になり何をしても気持ちが落ち着かない時は、ラッキーアイテムに一日を委ねてみることもある。  結婚したばかりの三十一歳の私は、どうにも拭えない不安を落ち着かせるために、通りで見かけた手相占いにこれからの人生を委ねて

          ひかげのたいよう#2

          ひかげのたいよう#1

          前田じあん  “あの頃の私”は、例えば自動販売機で飲み物を買う時に、どのボタンを押せば少しはマシな未来が待っているのかを真剣に考えていた。場合によっては飲みたいと思っていたのとは別の飲み物を選ぶこともあった。それだけ真剣に悩んだところで、マシな未来に進めているかどうかなんて誰にもわからない。けれど、その選択のどれか一つでも違っていたら“今の私”はここにはいない。

          ひかげのたいよう#1