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ひかげのたいよう#2

“今の私”

 “今の私”こと前田じあん。三十代最後の年を迎え、“私”史上最大の岐路に立っている。いつだったか、手相占いで三十八歳で大きく変化すると言われたことを不意に思い出した。占いを信じているわけではないけれど、頼りにはしていた。明日を生きるのが不安になり何をしても気持ちが落ち着かない時は、ラッキーアイテムに一日を委ねてみることもある。
 結婚したばかりの三十一歳の私は、どうにも拭えない不安を落ち着かせるために、通りで見かけた手相占いにこれからの人生を委ねてみたくなった。ワンコインで簡単に見てもらえるというのが決め手だった。誰にも言えない悩みをぶつけてみた結果、私の中の不安は見事に鎮まり、心にかかった影がさぁーっと晴れていくのを感じた。そんな’敏腕占い師’が三十八歳で人生が変わると告げたのだ。占いだからというありきたりな理由でそのお告げを見過ごすことは、私にはできなかった。三十八歳といえばまだ何年も先の話だ。そんな先の人生、この時の私には想像もつかない。事実ここ数ヶ月で私の人生は物凄い変化をみせた。その変化を考えると、数年先の人生など想像もつかないのだ。どんな変化を迎えるのかと期待に胸を膨らませつつも日常に気をとられているうちに、運命の三十八歳は私に見向きもせず素通りしていった。結婚当初に抱えていたどきどきやわくわくは、今頃ヴォイジャー一号と共に私の知り得ない宇宙の果てを漂っていることだろう。手相も変化していくと聞く。一年くらいのズレは許容範囲と受け取っていいものか。何処かで選択を誤ったせいでズレが生じてしまったのか。どちらの答えだったにせよ、’敏腕占い師’のお告げ通り、今まさに“私”史上最大の変化の時に立っている。立たされているのではない。自らの意思で立っているのだ。

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