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#16 2歳の初恋?!〇〇を愛してしまった、私の初恋ストーリー

(1515字・この記事を読む所要時間:約4分 ※1分あたり400字で計算)

 2歳のある冬の日。
 古ぼけた木枠の窓をめいっぱい開けたまま、私はぼーっと遠くを眺めていた。

 風が強かった。
 ポツリポツリと小雨も降っていた。
 空気がとにかく冷たく、ピリリとスパイシーな寒さだった。

 「彼」が、あの屋上の上にいた。

 風に揺られているあの姿は、まるで自分に手を振っているようだった。

 その日、私は確かに恋してしまったのだ。
 向かい通りの建物の屋上にある、あの小さな葉一枚に。


 あれから、隙さえあればずっと窓辺にいた。

 「隙さえあれば」というのは、2歳児は2歳児なりに、一応多忙な生活を送っていたからだ。

 大人しく抱っこされてお散歩やら親戚周りやらに付き合わなければならなかたし、
 世の中の知識を身につける為の絵本精読タイムは日々欠かせなかったし、
 時々お客様が訪問してくるので、失礼にならないようきちんと愛嬌を振りまかなければいけなかった。

 もちろん休憩時間は一日のうちに何回かは与えられたが、これらは全て昼寝用。1分たりとも無駄に出来ない。
 そうでないと、残りのハードスケジュールには当分耐えられないからだ。

 ああ、忙しい忙しい。

 何も考えずにただ「彼」を眺めていられる時間なんて微々たるもの、実に贅沢品なのだ。


 それに、ようやくうっとりと「彼」を見つめる暇が出来たとしてもいつも邪魔が入る。

 「またぼーっとしちゃってこの子は~!おもちゃで遊びましょうね~」とか。
 「はいは~い、眠くなっちゃったのかな?ねんねしようね~」とか。
 「お外行きたいの?公園行こっか!」とか。

 もっとお近づきになりたくて、ガラス1枚でさえ邪魔に感じて必死に窓を開けたとしても、

 「だめだめ!危ないでしょ!」
とか言われて、ぴしゃりと閉められてしまう。

 恋って、難しいね。

 ただ嬉しかったのは、「彼」はそれでもいつもそこにいてくれたことだ。


 冬が過ぎ、春が来て、夏にさしかかった頃。
 「彼」は見違えるほど立派になり、細かった葉も茂り、背丈もスラッと伸びていた。

 より一層凛々しく、青々とした「彼」はとても美しかった。

 (いつかあそこに行きたい。側に行きたい)

 恋しさは募る一方だったけど、私と「彼」の間の距離は途方も無く、それは夢のまた夢なのだと、幼心ながらに感じていた。


 その後も、穏やかな日々は続いた。

 儚い愛で紡いだ一つ一つの瞬間が積み重なり、知らずに思い出となって小さな心にたまっていった。


 そしてある日、事件が起こった。


 今でも覚えている。忘れるものか。


 台風がやってきたのだ。


 甲高い風音とともに目を覚ました私は、今世界でとんでもないことが起こっているのを察した。

 窓の外を見る。
 昼間なのに、真っ暗だった。

 初めて、雨風というのはあのように暴れ狂うことも出来るのだと知った。

 (「彼」は……「彼」はどうなったの)

 慌てていつもの場所に目をやる。
 そこには、必死にあがきもがいている「彼」の姿がいた。

 1枚1枚の葉が絡まるように乱れている。

 怯えている。
 叫んでいる。
 悲鳴をあげている。

 「彼」が、苦しんでいるーー


 目の前が真っ暗になった。
 あの台風空のように。

 私自身も雨風と化し、狂ったように暴れ始めた。
 あの台風空のように。

 取り巻く全てに怒りをぶつけた。
 あの台風空のように。

 そして、いつしか嘘のように静寂が訪れた。
 あの台風空のように。


 意識を取り戻した頃には、空はもう柔らかい日差しでいっぱいだった。


 バケモノは行ってしまった。


 「彼」も、もうそこにはいなかった。


 きっと、バケモノと同化していく私を見るに耐えなかったのだろう。

 だから去ることを決めたのだ。これ以上私を傷つけない為に。


 「彼」は、最後まで愛してくれたーー


 心がぎゅっとなった。

 締め付けられたように。


 私は優しく包み込んでくれた両腕に再び顔を埋め、静かにお別れの涙を流した。

📚Love is Blind


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