12月の語学まとめ:学生の時より勉強してるとはこれいかに

新しい年になった。新年行事でバタバタしないうちに先月を振り返っておきたい。

近況

今年の冬は北海道でリゾバするぞと意気込んで月初めから仕事を始めるも勤務三日目に凍結した道で転倒し、左腕を骨折。全治二カ月ということで、無念にも12月半ばには無職になって帰ってきた。最初は失意のどん底にいたが、裏を返せば仕事がないので語学に時間を思いきり充てられる。片腕で、という条件は付くが、時間の許す限り自分が趣味にしている語学学習を手広くやろうと決心し、12月後半はいろいろと自分の語学スタイルを模索した。はっきり言ってこんなに手広く語学をやったのは学生時代含めていまだかつてない。主な学習記録を言語ごとにまとめた。

A ロシア語

11月から7年ぶりに学習を再開したロシア語、以前その学習については書いたが、今月も最も優先度が高い言語として向き合った。

11月と同じくらいか少し少ないくらいの勉強量だが、主にやっていたことは三つ。

1、『ロシア語一日一善』の精読
毎日の最初にやっていたのが東洋書店から出ているロシア語の教材、『ロシア語一日一善』をnote上で精読したことだ。

この本にはトルストイが集めた箴言が日本語訳と注付きで計500篇載せてある。11月はこれをひたすらエクセルに打ち込んでロシア語に親しんでいたが、12月はその続きから一日一篇、原文を訳読し、自分が日本語にする過程の思考を可能な限り言語化して、note として投稿していた。

自分の実感に過ぎないが、自分の外国語の理解度を確かめたかったら、その外国語で書かれた文を日本語にするのが一番だ。外国語の文章を読んでいるときに、自分がいったいどういう根拠でその文を解釈しているのかを客観視するために訳読というスタイルが大いに役立つ。私の場合、ロシア語を勉強する目的がロシア文学作品を原書で読むことなので、精読という作業を通してロシア語の読解力を高めたかった。一文の解釈に一時間以上かけることもあったが、「ロシア語の文章を理解して、日本語の文章にして終わり」ではなく、どうしてそういう日本語に訳したのか、その根拠となる文法事項は何か、というようなことを自問自答して解釈を作り上げていった。これは外国語の文章に限ったことではないが、私たちは文を一読しただけで、その内容を理解したと思いがちで、実は「理解したつもり」になっていることが多い。この「理解したつもり」になっていないのかのテストがその文章を日本語にするという作業になる。よく「人に教えられるくらいになるまで理解することが本当に理解したということだ」と言うが、外国語の理解という意味でも、他の人に伝えられるという意味において、筋の通った日本語に訳すことができるというのが、本当の意味で理解したということではないのかと思う。訳読をしないままで読んだ外国語の文章はいわば「ごまかし」ができてしまうものであり、浅い理解のままでも読み進めること自体は、常識や文脈を使えばできてしまう。それはそれで必要な能力だし、むしろ「ざっと読んで内容を要約できる能力」の方が実用的には違いないが、外国語の読解においては、なんとなくで読んでいると勘に頼った読解に陥りやすい。読むこと自体が目的の場合、いちいち日本語するのはまだるっこしいし、多読は多読で必要な勉強方法だと個人的にも思うが、ストイックに自分を追い込んだ理詰めの読解をやっていないと読解力は必ず頭打ちになる。たったひとつの文に対しても、自分で文法的な理屈をつけていくのは骨が折れるところで、時には自分が無意識的に行っている解釈のプロセスを「発見」することもあった。訳読というのは地味だが確実な勉強方法であることを身に沁みて思う。

2、『罪と罰』の原書読み
私がロシア語学習を再開した動機はドストエフスキーの長編小説『罪と罰』を読破することだった。この小説との関係は以前にも書いた。

一カ月の助走を経て、12月の始めくらいから読み始めた。毎日だいたい90分くらい読み進めていて、12月末時点で第二部まで読み終わった。小説の構成が六部+エピローグなので三分の一くらいの進捗状況だ。前述の『ロシア語一日一善』が精読ならば、『罪と罰』の原書読みは多読にあたる。もちろん、分からない語は辞書を引くし、文法事項も気にするが、あまり深追いはしない。日本語を読むように、とまではいかないまでも、小説を味わえるように読むというのを基本的には心がけている。文学作品だし、邦訳で読んでも分からないところが多いので、完璧に理解してから進むのではなく、あくまであらすじを追う程度の理解で読み進めている。『罪と罰』は古典だし、難解なテーマも扱っているが、娯楽小説のように読めるので、自分のロシア語の能力に応じて読み方を変えられる。ちなみに副読本として、江川 卓『謎とき 『罪と罰』』を読んだが、ものすごく興味深かった。この小説にしかけられたからくりや伏線を狂気とも言える執念で鮮やかに分析しており、作品に対する理解が一段と深まった。


3、ロシアのドラマを使った聴解と発音練習
私がロシア語圏に留学していたとき、よく見ていたロシアのコメディドラマがある。Универ Новая общага というモスクワのとある大学のとある寮に住む男女3人の生活を中心に描いたテレビ番組だ。

基本的には一話完結で、たいしたストーリーラインもないのだが、本場のロシアンジョークとも言うべきユーモアが随所で炸裂しており、かなり気に入っていた作品だ。もう10年以上前の作品なのだが、私がちょうどロシア語の勉強を再開した2023年の11月くらいに、このシリーズのyoutubeチャンネルが開設され、順にエピソードが配信されていた。最初、私は郷愁に浸りながらこのチャンネルを息抜き程度に見ていたのだが、12月は学習教材として使うことを決めた。
このドラマを教材にするために使ったサイトが、LingQ というサイトだ。

LingQ はいわば「語学学習でよくあるリーダーの図書館」のようなものだが、このサイトの真価は、ネット上にある動画や記事をサイト内にインポートできる点にある(有料)。インポートされた動画の音声は字幕が付けられる(これいったいどういう仕組みなんだろう?)し、聞きたいセンテンスをクリックするだけで何度でも局所的に音声を聞くことが可能だ。さらに単語をクリックするだけで、オンライン辞書の訳語を表示してくれる。LingQ については機会があれば記事を書いてみたいが、一言で言うと自分の好きなマテリアルで学習用に教材を作成することができるのだ。私は youtube にあげられた Универ を LingQにインポートし、スクリプトを一通り見て、自分が気に入った表現を何度もリピートして完コピするまで繰り返し発音した。その際、ボイスレコーダーアプリを使って自分の発音を音源と比較して、モノマネ芸人がオリジナルを研究するように自分の音声を修正していった。このあたりの具体的なやり方は、以前も挙げただいじろーさんの動画が大変参考になる。

私はロシア語ネイティブのようにロシア語を話すことが学習の目的ではないのだが、ロシア語ネイティブの話すロシア語はなるべく聞き取れるようになりたかった。ネットで回ってくるロシア語の音声が苦もなく理解できるようになれば、理解できる情報の量はぐんと増える。これは他の外国語でも同じだ。それで、外国語の発音を身につけるための練習が聴解力の向上に上がるのか、という疑問がわくが、実感としては yes だ。モデル音声をまねようとすると必然的に耳を澄まして聴くことになるので、結果的にリスニング力は向上する。別にソースがあるわけではない。しかし「話すためにはまず聴かなければならない」という当たり前のことが、発声と聴解の関係性を裏付けている。

ロシア語に関してはこの3つをルーティンとしていた。毎日だいたい4~5時間くらいだろうか。週に一回は休みにしてロシア語に触れない日を作っていた。

B ポルトガル語


2023年7月ごろに2年半ぶりくらいに再開したポルトガル語は隔日で語学学習に組み込んだ。主にやっていたことは二つ。

1、Ensaio sobre a lucidez の精読
11月はロシア語に圧迫されてないがしろにしてしまったポルトガル語だが、心機一転、新しい原書を読解の教材にした。José Saramago "Ensaio sobre a lucidez" だ。ジョゼ・サラマーゴの『見ること』がその邦題。

サラマーゴは文体は一文が長くて難しく感じるので、今回私はこの作品を読破することを目標にするのではなく、精読の対象とすることにした。具体的には一回に一文だけ読み、訳読していくという方法。『ロシア語一日一善』と同じように、読解のプロセスを言語化したものを note に書いていた。

ポルトガル語は私にとっていつまでも難しく感じる言語だ。辞書や参考書が他言語よりもいまひとつで、本格的な文学を読もうとすると、解釈に頭を抱えることが多い。もちろん、文法書の類が少ないから原書が読めないなんてことはなく、ひたすら自分で悩んでひとつひとつ仮説を立てて読解していくしかない。そういう意味でやりがいはあるのだが、なかなか上達しないので内心忸怩たるものがある。サラマーゴの作品は内容的にも難しく、気軽に読めるようなものではないので、多読よりも精読向きと言える。この記事を書いている時点でまだ小説が始まったばかりの2段落目にいるので、読破はできないと思うが、読解の練習としてサラマーゴはいい相手になってくれている。

2、ポルトガル語でのニュース聴解
サラマーゴとの格闘は精読なので、多読・多聴寄りでポルトガル語のニュースを教材にしていた。よく教材として利用していたのが、Fala Portugal というyoutubeのチャンネルだ。

ポルトガルでどのような位置を占める放送局なのかはちょっと分からないが、主にポルトガル国内のニュースを発信しており、特に暮らしのニュースはポルトガルの文化を知るきっかけにもなる。季節柄、クリスマスや新年の過ごし方に関したニュースをよく読んでいた。(動画は Bolo-rei というこの時期にポルトガルで食べられるケーキについて扱ったもの)

これも前述のLingQにインポートして音声教材として繰り返し聴くという方法を取っていた。厳格なルーティンにはせず、とりあえずテキストの内容をざっと理解して、興味深いと思えば発音練習に進む、そうでなければ別の動画に行く、のようにしていた。

ポルトガル語の勉強の頻度は二日に一回で、この二つを合わせて一度にだいたい3時間くらい。また寝る前とか散歩中のような耳が暇な時間には、なんでもいいからポルトガル語を聞いていた。ポルトガルの国営放送であるRTPのサイトにいけば、ポルトガルのポルトガル語はなにかしら聞ける。


C フランス語


11月の半ばからなし崩し的に始めてしまったフランス語だが、おそらく今が一番語学として楽しい段階にいるので、12月はロシア語の次に勉強した時間が長いかもしれない。ポルトガル語という親戚言語の予備知識はあるものの、フランス語を本格的に勉強したことはなかったので、とにかく基礎を徹底的にやっていた。ルーティンは主に三つ。

1、Duolingo
私がフランス語を本格的にやることになった元凶である。このアプリについては知っている人も多いと思うが、ゲーム感覚で外国語の勉強ができるアプリで、どうしたら継続してプレイさせるかを念頭においてデザインされており、非常に(いい意味で)中毒性のあるアプリとなっている。練習問題の配分が、読む・聴く・話す・書くの4技能にバランスよく振られているところもポイントが高い。新しい外国語を始めた際にしばしば壁となる「覚えるしかない基本事項を脳にひたすら叩き込む」というのをゲーミフィケーションできているし、忙しい現代人のために隙間時間にできるように設計されている。大変優秀なアプリだ。私はちょっとした隙間時間にもやっていたが、フランス語の日は1時間くらいがっつり学習の中に組み入れた。今はChapter 2 の Unit 5 あたりにいる。

2、発音の積み上げ
フランス語の基礎となる発音を習得するため、youtube の「ふら塾」さんの動画で発音を体系的に学んだ。

第二外国語の定番というだけあって、フランス語について解説している動画は多い。ふら塾さんの動画は、どちらかというと「硬派」な印象で、正確性を犠牲にせずに要点がぎゅっとまとまっている。特に「カタカナ表記の勉強はやめて発音記号で勉強すべし」という主張には全面的に私も同意見だ。「とっつきやすさ」を重視すればカタカナ発音は「ウケがいい」のだが、すぐに限界が来る。「フランス語の発音ってどんな感じなのかな」程度ならいいのだが、本格的にフランス語を学びたい私にとって「独学できるフランス語」をコンセプトにするふら塾さんの動画はピッタリで、発音に関する動画をルーティンとして毎回視聴していた。回数をこなしていくと本当に発音が聞き分けられるようになってくるから面白い。またこの動画視聴ルーティンを始める前には、youtube に見つけたフランス語の歌をプレイリストの最初に組み入れて、モチベーションにしていた。

定番とも言えるダニエル・ビダル『オー・シャンゼリゼ』

初心者が最初に習うフレーズが何度も出て来る hélène je m'appelle hélène

3、 ニューエク
オーソドックスに市販のフランス語の教材にも取り組んでいた。白水社の『ニューエクスプレス フランス語』だ。

白水社のこのシリーズはメジャーな外国語からちょっと聞いたことのない外国語まで幅広く扱っており、私もこれまで何か外国語を勉強してみたいと思ったら、まずはニューエクを買って取り組むことが多かった。「はじめにニューエクありき」と個人的には思ってる。全20課で構成され、1課は4ページにおさまっている。テキストとその訳と語彙で2ページ、文法や語法の解説が2ページといった具合。2課ごとに練習問題が挟まれる。私は練習問題はやらず(Duolingo で十分と判断)一回につき2課ずつ進めていって、現在は第16課まで終わった。良くも悪くも文法事項がコンパクトにまとまっているので、基礎文法をとりあえず押さえるのにはいいだろう。読了したらもう少し本格的な文法書に進みたいと考えている。

フランス語も勉強頻度は隔日で、ポルトガル語を勉強しない日にやっていた。フランス語とポルトガル語は語彙が共通のものが多いから、同じ日にやるとごたまぜになるかなと思って配慮した。フランス語は学ぶ人が多いためか教材も充実しており、外国語としては今まで自分が経験したことのない速度で身についているのを感じている。今が楽しくて仕方のない段階にいるので、これからは学習頻度を増やすと思う。フランス語で読みたい文学作品もごまんとある。

D ドイツ語


大学生のときに中途半端にやっていたドイツ語もこの機会に勉強ルーティンに組み込んだ。私はドイツ語をメインで勉強していたことはなく、第3外国語として取っていたり、ロシア語圏に留学していたときに日本語を勉強しているドイツ人と交換作文をしてたくらいで、常に「サブ」としてドイツ語に接していたため、中級レベルも自称できない。かといってまったくの初学者でもない。文法書を一冊終えたレベル、といったところか。

ドイツ語は優先度が高くないので、何日かに一度やる程度だった。「カジュアルにやれればいいな」くらいに考えていたので、先述の LingQ の中に最初から用意されている ministories を少しずつ読んでたくらい。また,
矢羽々 祟『読んで味わう ドイツ語文法』を勉強の一環として読んでいる。

この本はドイツ語圏の文化方面からドイツ語にアプローチする本で、教科書的な教材とは言えないが、予備知識としてドイツ語の文法が学べるようになっている。今の私は間違いなくこの本のターゲット層だが、果たしてこんな人間がそんなにたくさんいるのかは少し疑問だ。
あと、ドイツ語の勉強を始める前はこの動画を聞いていた。

ジブリの音楽は不思議とドイツ語とマッチする。ドイツ語を勉強していないときも定期的にこの動画を聞いていたので、勉強を始めてからはだんだんと歌詞が分かってくる自分にワクワクが抑えられなかった。フランス語の場合もそうだが「ずーと本格的に勉強したいと思っていた」期間がドイツ語はあまりにも長いので、その間に触れた言語文化が知らないうちにこういうところに蓄積されているように思える。語学学習は興味を持ち始めた時からすでに始まっている、と言い換えられるかもしれない。

E 英語


12月に勉強していた外国語のなかでは一番優先度が低かったが、英語もちょっとだけ勉強した。やったことは、Homo Deus: A Brief History of Tomorrow を読んでたくらい。

邦訳の『ホモ・デウス』を読んで、なかなか面白かったので英語でも読んでる、といった状態。著者のハラリはイスラエル人なので、ネイティブの書いた英語ではないが、読んでるとなんというか「国際人が書いた英語」の典型という感じで、語彙は簡単ではないけど、持って回った言い回しが少なく、スラスラと読める印象だ。英語はあくまでも読書の一環として関わっていた感じだった。

まとめ


12月はロシア語、ポルトガル語、フランス語、ドイツ語、英語の5言語を勉強していたことになる。ロシア語は毎日、ポルトガル語とフランス語は隔日、ドイツ語と英語は隔日かそれ以下という感じ。「ロシア語・ポルトガル語・ドイツ語」の日と「ロシア語・フランス語・英語」の日を表向きは交互に繰り返していた感じだが、ロシア語で5時間、ポルトガル語(フランス語)で3時間くらいは勉強するので、必ずしもドイツ語や英語まで勉強ルーティンは回らなかった。結果としてドイツ語と英語は三日に一回くらい、一回の勉強時間は1時間程度といったところ。複数の外国語を勉強する場合、その配分をどうすればいいのか、というのが悩みの種だ。やはり一日に三つも外国語を勉強するというのは、いくら働いていなくて時間があるといっても時間が足りない。また、語学は毎日勉強しなければならないという鉄則も複数の外国語学習では再考を迫られる。優先度で言うと、『罪と罰』を読破するまではロシア語が一番高く、それと同じくらいモチベがあるのが初級文法を吸収しているフランス語、2000時間以上学習に費やしているポルトガル語はがつがつとした食欲があるわけではないが、じっくり息長くやりたい。ドイツ語も初級を突破したいのはやまやまだが、あくまでエンジョイ勢。英語は読書の手段、隙間時間で十分、といった感じか。1月はとりあえず、ロシア語とフランス語を隔日にして、ポルトガル語とドイツ語と英語を三日に一回の頻度でやるという一日二言語体制で行きたいと思う。週に一回は語学しない日にして、勉強法や外国語の小ネタなんかを note に書きたいと思ってはいる(書くとは言えない)
腕が完治しても労働に戻るのは春先と考えているので、今年の冬は語学実験期間となりそうだ。





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