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映画感想『ベルファスト』

原題「BELFAST」

◆あらすじ◆
1969年、北アイルランドの首都ベルファスト。ここで生まれ育った9歳の少年バディは、愛する家族と大好きな映画や音楽に囲まれ、楽しい日々を送っていた。ところがある日、暴徒化したプロテスタントの若者が、カトリック系住民への攻撃を開始した。以来、同じ街で平穏に共存してきたプロテスタント系住民とカトリック系住民の対立は激しさを増し、次第に街は暴力と恐怖に覆われていく。バディと家族にも危険が迫り、父親はロンドンへの移住を計画するのだったが…。

これは素晴らしかった!

ケネス・ブラナーの自伝とも言える幼少期の故郷を描いている。


まさに北アイルランド紛争がこれから激化しようとする只中、平和だった町が一変する様子がまさしく今この地球上で起きている事実そのものの様で規模は違うがその現実に向き合う市井の人々、延いては主人公の少年とその家族がどう行動するかがとても現実味をもって描かれている。

しかしそこには生活があり、その日常の営みを路上サッカーやバディの初恋、そして子供達が家族と観るTVや映画に託し表現しているのが巧い。


他者を否定せず疑い無く受け入れる無垢な子供達の平穏が宗教の違いに固執し排他的な大人達によって軽視され争いに浸食されていく様子は"何が正しいのか?"と問いかけている様に思える。何故、違いを認め合えないのか?何故優位に立とうとするのか?

何も分からず暴動に加担しようとする少女もまた闘いがただカッコ良くその眼に映ったのだろう。そんな年齢なのだ。

ただ、そう言う子供達の視点で描く事で決して悲観的では無く敢えて軽やかに躍動さえ感じるさせる。

バディが夢中で観る別世界、そこだけがカラーで希望の色だ。



監督の持つ映像技でモノクロとカラーの切り替えを絶妙に駆使し彼等の心情と情勢のリンクを表現している。

そんなバディの純粋さを通して描かれる家族や近隣の姿もまたこの作品の大きな魅力だ。

貧困、出稼ぎ、子育て…そこにはお互いを補い助け合って来た町の姿がある。

個人的にはキアラン・ハインズ演じる祖父がバディと触れ合うシーンがとにかく素敵に映った。

未だモノクロの中に生きる大人達の世界。
お互いを尊重し、日々を積み重ねる事が本当の幸せなのだとしたらこの先の子供達の生きる世界は色彩豊かに映るのだろうか?


この町の変容から導き出される非常に価値あるラストに秀逸さが光る!


2022/04/03


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