MMS163野末さん2

第163回MMS(2018/4/6対談)「哲学科出身の哲学者がエンジニアとして飛び込んだ製造業について語る」(有)イージー・エンジニアリング 取締役 野末雅寛さん

●ご挨拶と出演者紹介

画像1

三木:マイクロモノづくりストリーミング第163回、本日は富山県にあります(有)イージー・エンジニアリングさんのほうにお邪魔して、zenschool卒業生の野末さんに哲学カフェとか3Dプリンターを今色々作られているということで、そういうお話も中心に聞いていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

野末:よろしくお願いします。


●enmonoとの出会いについて

三木:我々enmonoと野末さんの出会いってどんな感じでしたっけ?

宇都宮:最初zenmonoに問い合わせが来たんですよ。2015年12月に。

野末:ええ。そうですね。

三木:どういうメッセージでしたっけ?

野末:その直前までは仕事がものすごい受注があってポンと受注が下がった時があって、その時に今まで忙しくてやりたかったことがほとんどできなかったんですけど、前向きに考えてやりたいことが色々できるなと思った時に3Dプリンターやりたいなと思って、やってるうちに結構こいつの出来が良かったので、これをもとにビジネスを展開できないかなということで色々調べてると、enmonoさん…

宇都宮:クラウドファンディングの仕組みとか?

野末:そうですね。検索するとenmonoさんであったりzenschoolであったりの取り組みが一番おもしろそうだなと思って問い合わせをしたんです。

三木:どの辺がおもしろそうに見えた感じなんですか?

野末:ワクワク起点はおもしろそうだなと思って。

三木:他の講座とかないんですか?ワクワクしたいっていうのは。

野末:なくもないんでしょうけど、自分の内なる源泉から内観することによって、ビジネスの種を見るアプローチが他にはないおもしろいところだなと思いましたね。

三木:元々内観とか興味があったんですか?

野末:そうですね。私自身が元々哲学科の出身ということもあり、物を考えるのはすごく好きだったので、しかも対象論理というと難しい言葉ですけど、客観的に見ることも大事なんですけど、主観的に内観ということで自分の中を掘り下げるというアプローチがすごくおもしろいなと思って。しかも主観的になるとビジネスはまた客観的な一面もありますから、そのバランスをどうすればいいのかなと悩んでる時に、ただ独りよがりになってもダメなので主観と客観のバランスを取りながらビジネスを展開していきたいなと思った時に、今のzenschoolやenmonoさんのアプローチが一番自分に合ってるのかなと思って問い合わせをしました。

三木:私は哲学が専門ではないんですが、哲学ってどっちかと言うと内観的に見る客観的なものなのかなという印象があるんですけど。

野末:両方ありますね。

三木:そうなんですね。

野末:よく対象論理と自覚論理という言い方をしますけど、要は主観を掘り下げるアプローチと客観を掘り下げるアプローチと西洋哲学でも両方ありますね。


●製造業に飛び込んだきっかけ

三木:野末さん元々大学で哲学を専攻されていていきなりなぜ製造業に?

画像2

野末:大学院は中退…挫折というか、最初は哲学の研究者になりたくて大学院に進んだんですけど、大学院の惨状を見るにつれて…

三木:惨状!?

野末:惨状という言い方をしたら業界の方に失礼に当たるかと思うんですけど、それでは食べていけないというか大変だなと思って。

三木:某京都大学でも惨状だったんですね。

野末:そうですね。だからざっくり言うとちゃんと(哲学の研究者として)就職できる人が3分の1ぐらい、もう3分の1が就職する人、もう3分の1が非常勤講師という結構大変でした。

三木:就職ってどういうところにみんな行ってるんですか?

野末:就職はマスコミかお役所ですね。そういうのはおもしろくないなと思って、大学院京大行って何かダメだなと思ってドロップアウトしたのはもう25歳とかでしたから、ちょうどその時期はまだ就職氷河期でしたから。

三木:ドクター何年目で?

野末:私はもう修士1年でドロップアウトしちゃったんです。

三木:もう何か続けてもみたいな感じなんですか?

野末:そうですね。精神的にもちょっと参った面もあって両方ですね。そういう生活の面と精神的な面と両方相まってこれはダメだなと思って。

三木:他の学生さんとかどんな感じだったんですか?

野末:私の身の回りの人は割と就職うまくいったほうなのかな?それでもみんながみんな研究者として就職したわけじゃないので、お役所に勤めた人とか塾の先生になった人とか、研究者として就職するのはドクター出てから何年も非常勤やったりとか結構皆さん苦労されてたので、それが嫌だなおもしろくないなと思ってもう修論も書かずにドロップアウトして。

三木:家に戻って来たっていう?

野末:そうですね。その後京都で4、5年ほど塾の先生をやりながらプラプラしてたんですけど、それも何かおもしろくないなと思って、こっち(富山)帰って来てそれで今父と一緒にこの仕事を始めました。父がちょうど会社を定年退職だったのでそのタイミングで、父はもう生粋のエンジニアでその経験をもとに何かおもしろいことしたいなというので、私もせっかく帰って来たし何かおもしろいことできたらいいなと思ってこの仕事を父と一緒に立ち上げたという感じですね。


●(有)イージー・エンジニアリングの紹介

三木:実際に戻って来られた時はどういうお仕事がメインだったんですか?

野末:会社としては最初は機械設計から始まって、「設計だけじゃなくて機械も作ってよ」ということで機械のモノづくりもするようになって、自動機・省力化機械全般を今やるようになってます。

三木:それは何年ぐらい前ですか?戻って来られたのは。

野末:戻って来たのは2004年だったのでもう14年前です。

三木:全然哲学からモノづくりって違うじゃないですか。どのぐらい修行というか…

画像3

野末:設計っていうのは意外とハードルが高くなかったですけど、モノづくりするようになって理論と現物が全然合わないという、むしろそういう文系理系の壁よりも理論と実際のギャップにすごい苦労しましたね。設計した時に全然動いてくれないという…

宇都宮:公差とか出ますからね。

野末:そうですね。

三木:そのギャップで色々悩んだのはどれぐらい?

野末:それは最近まで悩んでました。やっと3、4年ぐらい前からそのギャップに慣れてきたというか…

画像4

三木:こう設計すればこうなるなみたいなのが何となく分かってきた?

野末:そうですね。公差よりも設計して機械として動かしてみると予想もしないことが次から次と起こるんですよ。

宇都宮:CADでシミュレーションできると言っても現実は違いますものね。配線があったりとかエアチューブがあったりとかそこまでたぶん再現してないですよね。

野末:3DCADを使って設計もしてるんですけど、3DCAD使ってだいぶよくなりましたけど、それでもやっぱり予想もしないことが次から次と起こるので、それへの対応というかこんなに現物と理論って隔たりがあるのかっていうショックのほうが大きかったですね。

宇都宮:お父様もそういう知見はあんまりなかったんですか?

野末:父はむしろ大専門家で、父はむしろそういうのはへっちゃらっていうか…

宇都宮:でも教えてもらえなかったんですか?

野末:教えてはもらったんですけど、やっぱり実感として…

宇都宮:理屈が先行しちゃうわけですね?

野末:そうです。

三木:哲学っていうのは頭の中の世界のことで、モノづくりはリアルな物質の世界、そこをジャンプするのは結構大変なんですか?

宇都宮:時間かかりますよね。体感としてっていうのは。

野末:そうです。あとは現場のおっちゃんの言うことが理解できなかったというか…

宇都宮:感覚的な部分が多いからね。

野末:現場のおっちゃんは感覚で物を言うので現場の専門用語も色々ありますし、最初もう外国語聞いてるような感じ。ノコでハックソー(金ノコ)ってあるんですけど、「ハクソ、ハクソ」って言うんです。ハクソって何だろうなとかそういうことから始まって、現場の専門用語を学んで現場のおっちゃんの言うことも理解してっていうのに慣れるほうが大変。理屈はむしろそんなに難しくはなかったですけど。

宇都宮:でも分かると逆に感覚的なほうが早く伝わるし、分かってしまえば理屈なんてどうでもいいっていう風になって。

野末:そうなんです。そういうことが受け入れられるようになったのはほんの数年前ですね。

宇都宮:時間かかりました?

野末:かかりましたね。それが本当の技能の習得っていうことなのかもしれないですけど、むしろ理屈はそんなに苦痛じゃなかったんですけど。

宇都宮:そっちがむしろ得意だったっていうことですね。

三木:現実が得意じゃない?

野末:ええ。


●3Dプリンターの開発と需要について

三木:それから3Dプリンターに興味を示されたのがいつぐらいですか?

野末:2015年の末ぐらいで、その前年ぐらいがメーカーズブームですよね。その時は結構冷ややかに見てたんですけど。

宇都宮:2012年に本が出ましたよね。

野末:その頃はヤマダ電機で売ってるやつのしょぼいやつしか出ないでしょって結構冷ややかな目で見てたので、ただそうは言ってもこの機械っていうのは試作がすごくたくさん発生して試作コストを減らしたいなっていうのが前からの課題で、それで3Dプリンターをやって試作コストを減らしたいなという想いはずっと持ってて。

三木:会社にどっかから買ってきたっていうこと?

野末:買ったらおもしろくないなと思って、機械屋さんなんだから機械自分で作りたいなとずっと思ってて。

三木:それでこちらのものをちょっと説明してもらっていいですか?

画像5

野末:3Dプリンターでも色んな方式があるんですけど、こちらは光硬化型の3Dプリンターでこれのキットを最初買ったんです。組み立て前のキットを買って自分で組み立ててこのプロジェクターを付けて、このプロジェクターの光を使って一層ずつ固めていくという…

三木:その液はどこから?材料はどこから入っていくんですか?

野末:材料はここにシャーレを入れてトトトっと入れて、余計な光が入って来ないようにこれを被せてプロジェクターの光で…本当はやる時暗室にしてるんです。暗室って言ってもそんな厳密な暗室じゃないですけど蛍光灯の光ぐらいは消してカーテンして一層ずつ固めていくっていう。ミラーが斜面になってて、ここに垂直に光を当ててシャーレに液体を入れてあるやつが一層ずつ持ち上げると固まっていくという。

三木:でも下から光を当てると全部固まっちゃわないですか?この光がコントロールされてるってことですか?

野末:そうですね。

三木:そのプロジェクターの画面みたいな感じで動くんですか?

野末:そうです。断面図を一層ずつピカッと当てて固めて上げてピカッと当てて固めて上げて…

三木:そういうことね。それでこれ(3Dプリンター)で作ったのがこれですね?すごい精度が…

画像6

野末:これは100分の5ミリの層を積み上げて作ったやつですね。

三木:このプロジェクターかなりの光の強さが必要ですね。よく考えたものですね。

野末:このキットを作った人はすごいなと思いましたね。

三木:何人が考えたんですか?

野末:アメリカ人じゃないですかね。リトルRPっていう名前のラピッド・プロトタイピングでRPだと思うんですけど。

画像7

三木:これは何か特許化されてるのかな?

野末:特許はないんじゃないですか?

三木:プロジェクターで作るみたいな。

野末:オープンソースだと思いますよ。これを使って何か展開できないかなっていうのが最初の問い合わせのきっかけですね。

三木:なるほどね。その後この3Dプリンターは自社の中でどういう風な展開をして?

野末:ちょっと今まさに生産中で動いてる最中なんですけど、ヤマダ電機でも売られてるようなパターンの積層式の一番よく見かけるタイプもやって、あれが今うちの部品試作の主力になってます。いきなり金属を切削する前にあれで一応検証してみるっていう。

三木:それはもうオーダーメイドで作ったんですか?

画像8

野末:そうですね。それも積層式のキットを中国から2万円ぐらいで仕入れて自分で組み立てて理屈が理解できたので、今度完全に自分で設計して2号機を作ったっていう感じです。

三木:意外とオーダーメイドの3Dプリンターってニーズがあるんですか?

野末:ありますね。

三木:大きさとかなんですか?

野末:そうですね。サイズもすごい重要な要素でサイズと材料ですね。よく言われるのはエンプラ=エンジニアリングプラスチック。よくあるのは「POM(ポリアセタール)とかPP(ポリプロピレン)とかそういうので作れるようになるといいね」「塩ビとかで複雑な形状が成型できるようになるといいね」っていう引合いがあるんです。あと「ゴムで成型できるといいね」とか。

宇都宮:でも材料が必要じゃないですか。3Dプリンター用の。繊維にするのか液体にするのかは分からないけど、そっちは材料メーカーか何かを巻き込まないと…

野末:そうなんです。ところがそれも非常に良い話になって材料メーカーさんはすごい熱心ですね。私もオーダーメイドで独自のエンプラで3Dプリンターやるってなったら材料屋さん巻き込まないといけないから大変かなと思ってたんですが材料屋さんは親切ですね。むしろそういう3Dプリンターというネタだと協力的ですね。

三木:1回できたらそれを横展開したいからでしょうね?

野末:そうそう。材料屋さんはそうしたいんでしょうね。

宇都宮:色んな素材があるじゃないですか。柔らかい素材もあれば固いのとか耐熱もあれば透明度とか色々…

野末:それはこれから盛り上がっていくネタになるんじゃないですかね。水面下ではものすごい期待されてますね。

三木:「こんなおもしろい素材を使いたいよ」っていうのはあるんですか?

野末:1つ代表的な例を言うと、これまで夢物語みたいなものですけど、今金型を使って成型しているような部品を、ダイレクトで3Dプリンターで作れるようになりたいっていう…

三木:それはプラスチック?

野末:プラスチックですね。エンプラ。エンプラも色んな種類があるんですけど。

宇都宮:射出じゃなくって?

野末:射出じゃなくとあるエンプラを…

宇都宮:射出には射出の特性があるじゃないですか。その機械特性を実現するための3Dプリンターってことですか?

野末:要は多品種小ロットを3Dプリンターで生産したいという。それは大変じゃないかなと思うんですけど、その開発過程でエンプラの3Dプリンターを作れるので、それだけでも十分画期的なんじゃないかなと思いますね。

宇都宮:金属系の3Dプリンターは航空企業とか使い始めてますけど、樹脂はそう聞かないですよね。

野末:まだですね。今金属の3Dプリンターがペイするのは航空業界だけだと思います。機械本体があまりにも高すぎるので。

三木:1億円ぐらいしますよね?

野末:そうです。減価償却回収できるのは航空部品だけでしょうね。

三木:お客さんは一般の3Dプリンターじゃなかなかやりにくいんですか?

野末:一般の3Dプリンターだと材料が限られている。ABSとPLA(ポリ乳酸)ぐらいしかできない。一般的な3Dプリンターだとすごく安いですけど材料がショボいので…

宇都宮:製品にはならないということですか?試作としては使えるけど。

野末:試作としては使えるけど製品にはならない。

宇都宮:耐久性の問題とか意匠性の問題とかそういう辺り?

野末:そうですね。耐久性と意匠性両方でしょうね。あと精度と。

三木:お問い合わせがあるのはこの北陸エリア?

野末:北陸とは限らないですね。関東からも問い合わせはありますね。

宇都宮:どういうツテで?

野末:それこそzenschool経由でもありますし、私はFacebookで色々情報発信してますのでFacebook経由で色々引合いはあります。

三木:日本中にそういう特殊3Dプリンターのニーズは結構あるかな?

野末:ありますね。

宇都宮:日本以外はどうなんですか?海外からはまだそんな…

野末:海外から問い合わせはないですね。ただ3Dプリンターで言うと海外のほうが進んでますね。日本は結構遅れてますね。ただ水面下での期待は日本でもすごく高いです。ところが日本の3Dプリンターを扱ってる人っていうのは、結構おもちゃ志向になっちゃうので、全然日本国内のニーズには応えてないだろうなというのは思います。

宇都宮:この前ラトビア製の3Dプリンターとか買ってませんでした?

野末:そうなんですよ。来ました。

三木:どんな感じですか?ラトビア製は。

野末:ラトビア製はまだちょっと運用してないんですけど結構すごいですね。いわゆるゲンコツロボット(ファナック株式会社)方式、パラレルリンクで背が高いんです。だから結構これぐらいのモノが作れちゃいますね。

宇都宮:そうなんですか?Z方向が高い…

野末:Z方向もすごい高いですね。

三木:この三角方式?こういうやつ?

野末:デルタ式っていうやつですね。あれだとスピードも速いし。

宇都宮:まだ来ただけですか?

野末:来ただけです。早く使いたいんです。

PR


●zenschoolを受講したことについて

画像9

三木:野末さんがzenschoolでどんな体験をされたのかというのを聞きたいんですが。

宇都宮:富山の美術館で開催されましたzenschool富山の第1期生として参加されまして。

三木:最初どんな感じでした?

野末:自分1人の内観というよりは、参加者5人の話をそれぞれ聞くっていうのがおもしろかったです。自分のことよりも人の話を聞くのがおもしろかったです(笑)。

画像10

宇都宮:おもしろい話が聞けました?

野末:濃い話もあったのでそれがおもしろかったですね。

三木:野末さんが来た時すごい暗い表情をされていて、初日、2日目の途中ぐらいまで暗めな感じですね。2日目の真ん中ぐらいで瞑想終わってその後ワクワクトレジャーハンティングチャートっていうのを使って対話をしている時に何か来たものが?

画像11

宇都宮:急に声のトーンが変わったんですよね。キーが上がるような。

三木:あの時どのようなことが起きたんでしょうか?

野末:その時に私が元々追求してた3Dプリンターと富山県という土地を掛け合わせて「越中富山の置き3Dプリンター」っていうのができないかと、そのコンセプトが出てきた時に「あ~それは結構おもしろいな」と思って楽しくてテンションが上がっちゃったんです。

宇都宮:でも置き3Dプリンターは置き薬の模倣ということですが、置いちゃうわけですか?無償で。

野末:ええ。

宇都宮:それが何かイメージとして出たんですよね?語呂とかですか?

野末:語呂ももちろんおもしろいなと思ったんですけど、富山県ならではというかそれこそ3Dプリンターみたいなグローバルなモノをローカライズするというか。

三木:ローカライズですね。それがポイントですね。

野末:そこが結構イケてるなと自分では思ってたんですけど。

三木:僕もそのアイデアがこれからどんどんイケると思ってるのは、世の中が二極化してて、Amazonみたいに超安くて超効率的なビジネスは、グローバルに広まるんだけど、彼らの得てる利益ってめちゃくちゃ薄いわけですよ。だからすごい範囲に渡ってのビジネスをしないといけない。一方もう1個の流れはお客さんと延々と対話していく。対話の結果何か価値のあるモノが生み出されるビジネスモデルになってきて、その中間がごっそり抜けるっていうイメージなんですね。野末さんがやろうとしているのはおそらくその後者のほう。

画像12

お客様のところに(3Dプリンターを)置いて、対話をしながら来たら稼働させるだけじゃなくてそこから出てくる設計案件とかを受注したりとか、あるいはお客様のニーズに応じて3Dプリンターをカスタマイズしたりとかいうような、対話っていうのが1つポイントなのかなという気がしています。他の色んなビジネスの流れを見てても、みんなモノとかサービスでいくら競争してもどんどんお互いに利益が薄くなっちゃうので、そこをついていってももうしょうがないっていうのが分かってきて、じゃあどこにお金を払ってもらえるのかというとたぶん、誰と対話するかにお金を払うというような流れがあるんじゃないかなと思います。その1つの良い例で某家具会社があって、お父さんは対話を重要視して娘さんが来て「もう効率だ」みたいな、でも「効率だ」って言っても元々その会社は対話をベースに作られた会社だからいきなりAmazonとかニトリみたいになれないわけです。だから全然自分の体に合ってないことをやろうとして逆に業績が落ちちゃってというようなところだと思うので、元々持ってる対話っていう価値に気づいてそれをいかに高めるかっていうところが実はポイントなんじゃないかと思ってるんですが、いかがでしょうか?

野末:そうですね。3Dプリンターってまさにそういうモノで、グローバルに安いモノは中国なんかで量産されてますから、3Dプリンターというモノを売るっていうのはもう無理…

三木:そこで戦ってもね。そうなってきたら何を価値として提供するのかっていうのはたぶん対話、お客さんのニーズにフィットしていくとか?

野末:そうですね。ローカライズ、カスタマイズですね。

三木:そこにたぶん利益の源泉が移ってくると思ってるので、それって既存のメーカーとかサービスはもうどんどんその辺に気づかないとどんどん利益が薄くなってきてますよね。そこがたぶんこれから中小企業が生き残っていく1つのポイントなのかなと。モノとかサービスじゃなくて対話からお金をもらうという、zenschoolはその対話を重要視しておりますので。

宇都宮:野末さんは今色々3Dプリンターの開発のお話とかは対話しながらという感じなんですか?お客さんのニーズを聞きながらというか…

野末:そうですね。置き3Dプリンターというチャンネルを通さなくても、お客さんから直接ニーズを聞いて、お客さんのニーズに合ったモノを最適な価格で開発すれば、ニーズはあるなというのは分かりましたね。

宇都宮:それってどうやって広めていくかとか、でも逆に今仕事が多すぎて、これ以上ちょっと受けれない状態なんですよね?

三木:どの辺がターニングポイントでそうなったんですか?

野末:持ち上げるわけじゃないですけど、zenschoolの受講申し込みを期に不思議な現象…私だけじゃなくて会社のスタッフの頑張りもありますし、マクロ経済の良さもありますし色んな要素が絡んでるんですけど、私個人のことを話すと、それをきっかけにっていう面はありますね。

宇都宮:何か変わりました?野末さん自身はzenschoolの前後で。

野末:自分個人のことだけを言うと、ワクワクの取り扱い方が、以前よりは良くなったなっていうのは思いますね。

宇都宮:以前は何か違った?

野末:以前はワクワクと現実っていうのをもうちょっと分離させてたっていうか、現実は現実だしワクワクはワクワクでと分けてたとこがあったんですけど、うまく連動させられるようになったっていうのはあります。

三木:それを仕事にしてもいいという?

野末:そうですね。これを仕事にしていいんだという…夢と現実を分けてたところがあったんですけどだいぶ融合してきました。

宇都宮:ますます増えるんじゃないですか?ワクワクが。

野末:そうですね。楽しいです。


●現在の会社の仕事状況と今後について

画像13

三木:問い合わせは3Dプリンターの引合いがほとんどですか?

野末:いや、今90%以上の問い合わせは、従来からの自動機・省力化機械の問い合わせですごく増えましたね。

三木:半導体系?

野末:それこそリーマンショックの以前とかは、半導体だったり自動車であったりっていうのが非常に多かったんですけど、震災後の2012年ぐらいからは割と内需系の企業、富山県だったら製薬業とかも来て、あと富山県は建材の会社も強いので建材関係とかの仕事が多いですね。

三木:その業界が盛り上がってるんですか?

野末:盛り上がっているというよりは、おそらくは人手不足じゃないかなと思うんですけど。

宇都宮:内需はあるけども生産ができないから省力化して継続できないかっていう?

野末:そうです。だから内需が激減しているわけじゃないのに、働き手が激減しているので…

宇都宮:今は人手でやってるってことですか?

野末:従来は人手でごまかしてたのを、もうごまかしていれなくなってきたっていう感じはしますね。だから内需系の会社の引合いがすごく強い。

宇都宮:省力機械と言いつつ「ロボットに近いモノも作って」っていうニーズもあったり?

野末:ありますよ。「ロボットやってほしい」とか、今どきの流行りで言うと「画像処理やってほしい」とか、それこそ今どきの人工知能じゃないですけど…

宇都宮:機械学習的なやつとかね。

野末:そうですね。「そういう安いオープンソースを使って、安い値段で画像処理をやってほしい」っていうニーズがありますね。

宇都宮:領域がメカだけじゃなくなってきてるってことですか?

野末:そうです。

三木:その辺はどっかと組んでいくんですか?

野末:そうですね。そういうのに長けてる人と協働してやっていければなというのはあります。そういうニーズは確実にありますね。

宇都宮:先日も農業系ベンチャーさんの仕事でIoTとかって言ってましたもんね。

野末:それは割と流行りの部分は先方の会社さんが強いので、むしろ弊社の場合はコテコテのメカのところをお手伝いしたっていう感じですね。

三木:それでしばらく仕事は潤沢な感じですか?人手がどんどんなくなればなくなるほど…

野末:大まかな流れで言うとそうだと思います。

宇都宮:そうすると今度は野末さんの会社の生産性を高めていかないとっていうことになってくる。

野末:そうなんです。

三木:今何人でやってるんでしたっけ?

野末:ほとんどは家族経営ですけど4名ですね。社長である父とあとは事務を手伝ってもらってる母と、もう1人メカじゃなくて電機担当の人が1人で4人です。

三木:野末さんも設計を?

野末:私はもう完全に設計と機械の調整とですね。

三木:なるほど。すごいですね。家族経営ですね。

宇都宮:増やしていく予定は?

野末:こういうのをおもしろがってくれる人に、スタッフに入ってもらったらすごくうれしいです。3Dプリンターとかをおもしろがってくれる人、省力機械はちょっと地味ですけど、仕事に面白味を感じてくれる人に来てくれるとすごくうれしいです。

画像14


●富山県の製造業について

三木:富山県の製造業について何か思うところがあれば。

宇都宮:一応ここは富山県の新潟寄りですよね?

野末:そうですね。富山県の東寄りっていうのは割と製造業が盛んなところで、産業基盤っていうのは整ってはいるんですけど。

宇都宮:そういう横のつながりもあるわけですか?工業会とか。

野末:そうですね。そういう人のつながりとかすごくありますね。

三木:盛り上がってるんですか?富山県の製造業はどうなんですか?

野末:今皆さん本当に忙しいですね。人手不足ですね。

三木:どんどんまた仕事が増えると。

宇都宮:どんどん省力化のニーズが。

野末:そうですね。特に今困ってるのは工作機械を扱って加工してくれる人がいないっていう、去年の年末ぐらいからその傾向が顕著ですね。

宇都宮:それは廃業していかれるから?

野末:それもあると思いますね。廃業される方もおられるし、新規に就業してくれる人が少ないっていう面はあると思いますね。明らかにキャパシティ不足になってますね。


●“哲学カフェ”とAI時代の仕事について

画像15

三木:zenschool富山で梶川さんのとこで始めた“哲学カフェ”、これはどういうものなんですか?

野末:これは私が元々哲学科出身だったっていうこともあって、「あなたがそういう経歴あるんだったらやってほしい」っていう依頼を受けたところから始まったんです。

三木:いきなり「やってほしい」?

野末:ええ。そういう流行ものが好きな人が一定数おられて、「日本国内で哲学カフェっていうのが流行ってるけど富山県ではまだない。あんたやってくれ」という依頼を受けて。

三木:どういう風にやってるんですか?その哲学カフェは。

野末:色んな流儀があるらしいですけど、私は自己流で自分がやりたいようにやってますね。

三木:毎回お題を決めるんですか?

野末:毎回だいたいのお題を決めてそれをもとに皆さんと会話するという。

三木:何名ぐらい参加するんですか?

野末:従来は3~7名の感じだったんですけど、梶川さんのところでさせてもらうようになってからはもう10~16、7名でものすごい増えましたね。

宇都宮:満員御礼とか出てましたもんね。

三木:なかなかそんなたくさんいると議論が分散しちゃうんじゃないですか?

野末:だからあまりにも議論が逸れるようであれば、私が茶々を入れながらっていう感じで。

三木:ファシリテーション?

野末:そういうカッコいい言葉を使えばファシリテーション役として私がやってるって感じですね。

三木:16人いたらグループに分けるんですか?それとも全体的に…

野末:輪になってやってますね。

三木:対話をする感じですか?

画像16

野末:そうですね。何人か積極的に喋られる方がおられるのでその方達が中心になりますけど、そういう方達と対話しながらっていう感じですね。

三木:どういう方達がいらっしゃるんですか?

野末:年齢層も性別も様々です。20代から60代まで。

三木:どういうことに興味・関心があるんですか?

野末:人それぞれだと思うんですけど、ざっくり言うと物を考えたり表現したりするのが好きな人が多いですね。

三木:なかなかそういう人珍しいと思うんですけど。どこで見つけてくるんだろうか?

野末:主にSNSでの告知だけなんですけど。

三木:それで16人も集まる?

野末:そうなんですよ。それは驚きですね。

宇都宮:この地域ですよね?

野末:富山県内が多いですけど、県外からzenschoolネットワークで来られます。

三木:会費はいくらなんですか?

野末:1,000円ですね。

三木:ちなみにこの地域で1,000円払って来るってなかなかないんじゃないですか?「もうお金がタダだったらいいよ」とかそういう人達が…

野末:私も結構高いんじゃないかなと思って始めたんですけど、それでも来ていただけるというのはすごくありがたいことで。

宇都宮:満足度も高い感じなんですか?

野末:そうですね。リピーターの方が結構おられるのでありがたいですね。

宇都宮:次も決まってるんですか?

野末:4月15日までは決まってますがその先はまだ決まってないです。(収録時は決まっていませんでしたが、5月13日(日)に第4回「人工知能x倫理」、6月10日(日)に第5回「幸福とはなにか?」が開催予定です。)

宇都宮:4月15日はちなみに何を?

野末:4月15日は人工知能が普及する時代において私達の仕事がどうなっていくのかっていう…

三木:私達の仕事は太陽になるみたいな(笑)。

野末:そうですね。大まかに言うとそういう方向性の話になっていくんじゃないかなと思います。

三木:本当に最近そう思って、安いものと効率の良いものをどんどん大資本がやっていく形になって、仕事がなくなっていくので仕事がなくなった文明は次何をするかっていうと…

宇都宮:仕事って概念を変えていかないと、たぶん機能的なものと役立つものがどんどん値段が下がるから、役に立たないものとか形のないものとかにお金を払うようになっていかざるを得ない。

三木:役に立たないもの、抽象的なもの。体験とか。

野末:そうですね。究極には対話なんですけどオーダーメイド製のもの、手がかかって仕方がないものっていう、超面倒くさいものとか。

宇都宮:効率の逆ですね。

野末:そうそう。超効率悪いものとかになっていく感じがしますね。機械のカスタマイズというか現場のラインにあった機械を設計するという今の仕事はまさに超面倒くさいですね。

三木:まさに一人ひとりが職人、モノづくりだったら職人になるし、図面とか絵を描く人だったらアーティストになるし、もう職人とかアーティストとかそういう人達の時代になるっていうイメージがある。

野末:そうですね。抽象的に言うとそういうことだと思います。

宇都宮:エンジニアっていう職種もアーティストかなと。哲学アーティストみたいな。

野末:だから抽象度を上げないとというのもありますね。

宇都宮:今は肩書は代表取締役とかですけど、ちょっとバージョンアップして野末さん抽象度上げましたみたいな(笑)。

三木:哲学するエンジニアとかね。

宇都宮:逆にそれで飯が食えるようになればね。1つの道筋として。

野末:そうですね。『教養としてのテクノロジー』って本がありましたけど、

だからエンジニアっていうのは教養のほうに関心を持っていかないとこれからなかなか大変だと。

宇都宮:知識とかだけだともうどんどんAIとか機械学習のほうが得意ですからね。分析にしても。

野末:そうそう。機械学習とかAIとかまでいかなくてももう大変だなという感じがします。

三木:感性とかその辺ですよね。エンジニアとしての感性とか美意識とか。

宇都宮:設計もたぶん美しさじゃないですか?装置も。

野末:設計ってデザインですからね。設計者っていうのはデザイナーですからね。近年お客さんの要求っていうのは感覚的になってますね。つい数年前までぐらいだったら「安全基準満たしてたらいいでしょ」みたいな感じだったんですけど、「インターフェイスが使いにくい」とかそういうニーズがすごく…

宇都宮:UXってことですか?ユーザーエクスペリエンスのほうにシフトして…

三木:機能じゃなくてもっとその先だよねみたいな?

野末:そうですね。「この設計だったら何回もあちこち行ったり来たりしなきゃいけないでしょ?」とか「面倒くさい」とか、客観的に言うと工数が増えるという言い方はあるんですけど、よりニーズが感覚的になってます。

宇都宮:でもそこを汲み取れる…

野末:そうですね。そこを汲み取らなきゃいけないんですよ。

三木:zenschool卒業生のあるエンジニアがいて、その人もその人が持っている美意識を人工知能に教え込んで、プログラムのコードを書ける方なんですけど、そのコードを見た瞬間に完成度が高いコードかそうじゃないかを彼は判断できる能力があってそれをAIに教え込んで、そうすると悪いコードか良いコードかっていうのを瞬時に判断できる人工知能ができたんですけど、元々持ってる職人としての美意識とかそういうものを生かして次の産業につなげれるようなシステムを開発したんですけど、そんな感じで一人ひとりのエンジニアが持ってる感性の力をこれから発揮していくのが、たぶんAI後の人々の求めるところになるんじゃないかなと。そういうのを発掘していくためには対話が必要ですねと。対話の場としての哲学カフェとかzenschoolとかが未来を創っていくということでよろしいでしょうか(笑)?

野末:そう思いますね。


●野末さんの考える「日本の○○の未来」に対する想いについて

画像17

三木:野末さんの考える「日本の○○の未来」、○○は自分の中で決めていただいてもいいです。哲学でもいいですし製造業でもいいですが何かあればちょっと聞かせていただきたいと。

野末:そうですね。AmazonであるとかFacebookだとか中国でもIT化がすごい勢いで進んでるっていうのと比べると、日本の技術動向っていうのは、グローバル基準で見ると落ちぶれてると思うんですけど、その一方でグローバルな技術だけあってそれをローカライズするっていうのは、まだ全然日本だけじゃなくて世界においてもなされてないんじゃないかなと思ったので、グローバルの技術をどうローカライズして現場に落とし込めるかっていうことは、落ちぶれてるように見えてまだまだできることが山のように残されてるなと思うので、3Dプリンターなんか典型例だと思うんですけど…

三木:そっか。そういうグローバライズ化されたのをローカライズするっていう?

野末:現場に落とし込むというかそういうのを…

宇都宮:擦り合わせみたいな表現に近いですね。

野末:そうですね。そういうことは日本人にできることってまだまだたくさん残されてるだろうなと。むしろグローバル競争についていこうっていうのはもう諦めて、現場に落とし込んでいくっていうのが日本の強みなのかなって。

宇都宮:そういうのは大企業がやって、中小企業はもっと擦り合わせというか会話して優しい感じで…

野末:そうです。まだまだできることは山のようにあるなというのは思いますね。

三木:大企業のほうが逆に疲弊しちゃうかもね。むしろそんな厳しいとこいかなくてローカルで楽しくみんなと仲間になってやるほうがいいんじゃないですか?そういうメッセージですか?

野末:そういうことだと思います。

三木:そういうことでございますので、皆さんぜひローカル・地域と対話しながらモノとかサービスを生み出していく、これが日本の新しい未来。

宇都宮:もし自分一人じゃ生み出させなそうであればzenschool富山が高岡にありますので、そういうところに来るとこういう先輩もいらっしゃるので、野末さんのような…

画像18

三木:今日はお忙しい中ありがとうございました。

野末:ありがとうございました。


対談動画


野末雅寛さん

:⇒https://www.facebook.com/nozuem


イージー・エンジニアリングWEBSITE


■「enmono CHANNEL」チャンネル登録ねがいます。

■MC三木の「レジェンド三木」チャンネルもよろしく

■MMSアーカイブページ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?