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ブラックジャックから読み解く手塚治虫の凄まじさ!

手塚治虫の関連本は山のように出版されていますが
今回はとんでもなく面白い本に出会いましたのでご紹介します。

こちら
「ブラック・ジャックの解釈学 内科医の視点」

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発売されたのはつい最近で2020年の4月17日です

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この本のすごいところは
タイトルの内科医の視点とあるように著者がれっきとしたお医者さんであり
しかも
単に
ブラックジャックのしたことやデータをまとめたりした本ではありません。
ブラックジャックの神業を解説するものでもありません。
俗にいうマンガ解説本でもありません。


なんと
これはれっきとした医学書なんですよ。


医学書なんて難しすぎて素人には立ち入れない世界で面白くないと
第一印象は思いましたが…

なんのことはこの本は面白い!
やばいです。
ほんとヤバイ!


著者の国松さんは本当はブラックジャックで「学術論文」を書こうと思ったそうなのですが
表現の仕方や自身の考えの述べ方の自由を考えたら書籍の方が良いと判断し
論文ではなくこうした一般書として書き留めたのだそう。
そしてこの本は
プロの視点から見たブラックジャックを「医学書的」に語っている1冊になっております。

「医学書的」だからって
医学知識は一切必要ありません。

とにかく著者が一般の読者へも楽しんでもらうために書かれた医学書だからです。
訳分かんないと思いますけど
「真面目に楽しくそして真剣に」ブラックジャックの医療行為を語っているんです。
というより語り尽くしています。


語り散らかしています。


専門用語とか出てきて意味不明なところもありますけど
その「こだわりと本気度」が破壊的に面白い!

しかもね
著者はブラックジャックをたかがマンガと捉えておらず
現代医学の水準でブラックジャックを見た場合
「かなり質の高い古典」であるという答えを示しています。

執筆当時にはなかった疾患概念が今の医学水準で見てみると
医療上の描写が極めて高いリアリティを備えているとか
手塚治虫の普遍性と先見性に驚きを持って伝えています。

いや…伝え散らかしまくっています。

これは
ボクらが他の手塚作品を見て「これ50年前のマンガなんてすげー」
「未来を見てきたような先見力だよね」
「手塚治虫の予言ってたくさんあるよね~」って言ってることの
まさに医学版だったってことです。


医学なんて素人じゃ分からない、気づかないから
いくら手塚先生が医者だからって所詮マンガでしょ、

これはさすがに創作でしょうよ、

…なんてスルーされてきましたけど
実はブラックジャックの世界でも
驚くほど現在にも十分通じることが描かれているという事が示されており
手塚治虫のその恐るべき「彗眼」について
内科医というプロの視点から存分に触れられているのが本書なんですよ。

これはすごいですよ。

著者は続けてブラックジャックは
病跡学(びょうせきがく)の分析対象になりえるとまで言い切っています。
病跡学とは
歴史的に傑出した人物の生涯を精神医学及び心理学的観点から研究分析し、
その活動における疾病の意義を明らかにしようとする学問のことです

ようするに手塚治虫がすごすぎて
実際の診療に役立てる研究対象になりえると言ってのけているわけです。


著者はブラックジャックのことを古典文学にも匹敵する傑作と言い
本書ではブラックジャックと手塚治虫の天才性を余すところなく分析しています。

どうですか?
こんな面白い本ないですよ。マジで。
しかも真剣に語っていますからね。


そして本書の読者対象として
医療従事者、そしてとりわけ医学生に最適な著作物だと言っています。

医学生にとって楽しみながらそして教養を身に着けるかのような感触で
臨床医学の一端を学べるような仕掛けがしてあるそうです。
どんな仕掛けだったのか読んでも分かりませんでしたけど(笑)
これからお医者さんを目指す若者にとっては先人たちから学んでほしい
ポイントが散りばめられているんでしょうね。


もちろん医学書だからといっても
一般のブラックジャックファンにも楽しめるつくりにもなっているので
ド素人でも十分に楽しめるレベルになっています

ブラックジャックを読んだことのある読者なら余裕で楽しめます。
とりわけ他の研究本と大きく異なるのは
漫画における面白さの解釈ではなく医学的見地から見た
医療についてのみ語られているところ

思わず本編ブラックジャックを読み返したくなる
いや、横に置いて一緒に解説を見ながら読みたくなる異様な説得力をもった
まさに医学書的な娯楽本になっています。

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そして本書の構成は
獅子面病や本間血種、体から木の芽が生えてくる奇病の話など実際の
ブラックジャックのエピソードを元に
連載当時の医療技術と現代医療を比較
そして現代医学からみて症例を再診断するといったものになっています。
この真剣さがとんでもないリアリティがあり面白いんですよ。

なんせ本書の1発目の症例があの「ピノコ誕生」の畸形嚢腫ですからね。
もう興奮です。あれはさすがに創作でしょうって思いますよね。


それを超大真面目に現代医学の視点から診断しています。

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詳しい内容は省きますが
この患者の病気は「畸形嚢腫」ではなく「胎児内胎児」と考えた方が良いという診断結果をしています。
しかし奇形脳腫の患者の周囲にあまりにも奇妙なことが起きていることを
鑑みると胎児内胎児ではなく奇形腫であったということを示しているんだそう。


しかし連載時の1973年当時にはこの「抗NMDA受容体脳炎」の概念がなかったそうで

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実は手塚治虫はホムンクルスを描きたかったのかも?
という結論に至っているんですが
なんだかうまく説明できないんですけど、とにかく面白いんです。

ボクのような専門家でもない拙い説明だと余計こんがらがるので
ここでは説明しませんがまぁ面白い。


医学知識を持っている方が語る
ブラックジャックの診断症例
そしてブラックジャックが行った医療行為
なにより医者手塚治虫として描かれた医療上の描写
これらを高次元で分析、診断している医学書であり娯楽書


時代を超えて読み継がれる名作ブラックジャックに文字通りメスを入れた本作、ぜひ一度目を通していただきたい一冊となっております。

なにやらまとまりのないまま
この興奮だけを語り散らかしてしまいましたが
いかがでしたでしょうか

今回は
手塚マンガというものを別の視点から辿った1冊をご紹介しました。


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