記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

ブラックジャックの最終回ってどんな話?

今回は「ブラックジャックの最終回」をお届けいたします。


言わずと知れた巨匠手塚治虫の代表作
医者漫画の先駆け、金字塔ともいえる傑作短編シリーズ。
「生命」を扱ったドラマはどの作品も秀逸の一言で限られたページ数で表現するストーリー、構成力はもはや神業と言える完成度。
プロの漫画家や編集者たちが口を揃えて「高次元のクオリティ」と言わしめてしまうほどの日本を代表するマンガであります。

そんな日本漫画史に残る傑作の最終回はご存じでしょうか。
これほどまでに有名な作品でありながら最終回はあまり知られておりません

今回は「ブラックジャック」がどのような結末を迎えたのか見ていきますのでぜひ最後までお付き合いください。


-------------------------------

「ブラックジャック」どんな作品なのか?
義務教育を受けている日本人ならまさか知らないという方はおられないかと思いますが万が一のために過去記事ご紹介しておきます。


どれが最終回なのか?


最終回についての結論から言ってしまうと… 
「ブラックジャック」は短編形式であり
明確な最終回というのは存在しておりません。

しかし最終回と思われるものはあります。

それは1978年9月掲載の『週刊少年チャンピオン』での連載終了の回
第229話「人生という名のSL」というエピソードです。
(ちなみに今回は原作のみを対象としておりますのでご了承ください)

(ブラックジャック18巻 第229話「人生という名のSL」収録)

この第229話「人生という名のSL」は連載終了の回だけあって最終回とも受けとれる終わり方をしておりますが、
実はその後、、、『週刊少年チャンピオン』誌にて単発掲載で13篇のエピソードが描かれています。
その13篇を含めるとするなら1983年10月発表の「オペの順番」
事実上執筆における最後の作品となります。

(ブラックジャック22巻 「オペの順番」収録)

しかし

この単発掲載の13篇においては話数表記、いわゆる「第何話」という表記がないエピソードになっておりますので立ち位置的は正規の流れを組まないアナザーサイド的なニュアンスとも解釈できます。

となると一般的にはやはり第229話「人生という名のSL」
「ブラックジャック」本編の最終回と捉えて問題ないのではと思われます。

なぜ最終回があまり知られていないのか?


内容については後で解説するとして…

なぜこんなにも有名作品であるにも関わらず最終回が
あまり知られていないのでしょう…?

これは単純に短編だからという理由もありますが
ひとつには掲載順番収録作品が出版社によってバラバラであるということが挙げられるでしょう。

これが非常にやっかいなのです。
もう本当にファン泣かせというか
これぞ手塚あるあるの真骨頂といえます。


ブラックジャックは
正規エピソードが229話と、追加の13話と併せて全242話あります。

しかし講談社「手塚治虫漫画全集」には「219話」しか収録されていません。つまり「242話中219話」しか収録されていないのです。
全集という個人作家の記録とも言えるシリーズでさえ全話収録されていないのです。

ちなみに
秋田文庫版では、231話
秋田書店 少年チャンピオンコミックス版では、234話
講談社 手塚治虫文庫全集では、232話

とそれぞれ収録数が異なっております。

え?何ソレ?

マジで?
普通はそう思いますよね。
…実は出版社によって掲載されている収録数が全く違うんです。

さらには掲載順番もそれぞれ違うという奇天烈ぶり。
短編作品で収録作品順(連載順)が異なっていたら、もはやどの出版物の何巻に何話が収録されているかはオタクでも把握するのは困難な状況です。
(こち亀やゴルゴ13で収録話を入れ替えて分かります?)

そんな中、
2012年に復刊ドットコムから
「ブラック・ジャック大全集」なるものが発売されました。
これは雑誌連載時と同じ掲載順で、しかもB5判フルサイズ&フルカラー仕様、雑誌連載当時のクオリティを堪能できるまさにこれまでのブラックジャックの軌跡を網羅したファン待望の「完全版」と呼ばれる珠玉の逸品が発売されたんです。


ついに!
念願の
これまで連載でしか読めなかった伝説のブラックジャックが読める!
というマジでファンなら垂涎の一冊が発売されたわけですよ。

そんな本書ですら掲載数は239話なんです(笑)
(完全版ちゃうんかい!)

つまりですね、
「ブラックジャック」とは、これまですべてのエピソードが
単行本化されているものがない作品なのであります。

これ案外知られておりません。

ちなみに
第28話「指」、
第41話「植物人間」、
第58話「快楽の座」
は未だに単行本化されたことがなく、著作権者である
手塚プロダクションの意向により、今後も単行本収録の予定はありません。

これは表現の問題など色んな大人の事情がありまして
おそらく今後も世に出ることはないと言われています。
(「植物人間」単行本の4巻に収録されていますが初期のみ)
↓ こちらはタイトルが「からだが石に」に改編され収録されています

未収録作品については別記事もありますので併せてどうぞ。


…というわけで

続きものではない短編形式のマンガで
これまで全てのエピソードが収録されている単行本もなく
掲載順も違っていて
話数表記のない作品が存在する
マンガの明確な最終回なんて誰も気づけません(笑)


ここら辺が「ブラックジャック」の最終回がそれほど話題にならない理由のひとつでもあると思います。
ちなみに今回ご紹介する「人生という名のSL」も掲載順を変えられて収録本の真ん中くらいに入っていたらおそらく「ふーん」って感じでただのひとつのエピソードとしてスルーされちゃうと思います。マジで!

第229話「「人生という名のSL」



…という訳で前置きが長くなりましたが
この実質的最終回と言われる「人生という名のSL」
どのような作品であったか簡単にみていきましょう。
ちなみに全集版では18巻、
文庫版では11巻など収録巻数が違いますので注意を。


あらすじは…
ガランと空いているSLに乗っているブラックジャックの前に
恋人だった如月恵が現れます。

画像1


そして気づくとライバルのキリコも現れ、
なんと命の恩人の本間先生まで登場します。

画像2


そしてどこかで会ったことのあるような美しい女性が現れ
実はそれは18歳になったピノコでした。

そこでちょっとしたロマンスもあり…

しかし…

画像3


これは全部夢だったというオチなんです


ガーーーーーン!


はっきり言いましてボク…


夢オチ嫌いなんであまりこのエピソード好きじゃないんです(笑)
天下の手塚治虫が夢オチって…ねぇ…。
実際、手塚先生自身も「夢オチは認めない」との発言を残しておられながら
自身では夢オチをぶちかますという荒業を捻じ込んできておりますから
あえて本作もあんまり最終回っぽくしてないんじゃないかって
思うようにも見えちゃったりもします。
見ようによっては集大成的なニュアンスも感じさせてくれますが…。

というわけでブラックジャックの最後は夢オチということでございます。

この件については
「これは夢オチと呼ばない」「あえて最終回としないからいい」とか
賛否両論の意見があるのは知っています。
どちらが良いとか悪いとか議論するつもりもありません。
あくまでもボク個人の感想が夢オチが好きではないという結論ですので
あしからず…。


参考までに話数表記のない最後の執筆となった「オペの順番」
これは素晴らしい。

非常にブラックジャックらしいエピソードですね。
アニメ版では第一話で放映されているくらい「らしさ」を感じるお話です。

あらすじは
代議士の先生と赤ちゃんと猫がそれぞれケガをしていて
一刻も早く手当てをしないといけない状況
そんな中、代議士の先生が1000万円払うから治療してくれって頼むんですけどブラックジャックは 猫→赤ちゃん→代議士の順で治療するんです。

画像4


唯一お金を払っていた代議士は激怒してブラックジャックを訴えます。

このムカツク代議士にラストには会心のオチが待っているんですが
それはぜひ読んで
「気持ちいい~」ってなってみてください
めちゃくちゃ面白いですから。


こういう医療の在り方であるとか「命」の優先順位というものを
漫画を通して問いかけてくる作品ってめっちゃ大好きです。
この場合の優先度ってお金でもなく、地位でもなく、ケガの重症度
そして人間でも動物でもなく「生命の希少性」という尺度。

普通なら動物より人間でしょ…ってなるんですけど同じ命なら
より希少性が高いものを優先するブラックジャックの考え方。

代議士の代わりなんていくらでもいる、
でもこの猫は「天然記念物」であり代わりがいない
こういう手塚治虫の生命観って動物に限らず自然にも当てはまることで
自然破壊、環境破壊、かけがえのない美しい地球を大切にしようと訴えてきた手塚先生らしいエピソードだと思います。

以上最終回と言える2作品見てきましたがいかがでしたでしょうか。
ブラックジャックには本当に素晴らしいエピソードがてんこ盛りですので
ぜひその他にエピソードも下記よりご覧になってみてください。


これが伝説の最終回


今回は番外編でもう一作品ご紹介しておきましょう。

それは正式なエピソードではありませんが
1987年9月に描かれた「ミッドナイト」という別漫画の最終回です。
この「ミッドナイト」とはテーマがモグリのタクシードライバーであり
1話読みきり形式という非常にブラックジャックによく似た漫画です。


その最終回にブラックジャックがゲスト出演しています。
本作は手塚先生が亡くなる1年半前の作品ですから
実質本当に最後に描かれたブラックジャックということになります。

…でこの「ミッドナイト」の最終回ですが、
そのあまりにも衝撃的な展開と結末から、
手塚先生の意向により単行本化されませんでした

画像6

しかし亡くなった後に
文庫版とコンビニ本で衝撃のラストが解禁されております。
これが噂の解禁本 ↓


最終回の内容は本編の「ミッドナイト」というより
ほとんど「ブラックジャック」です(笑)
まさに独壇場です。
ブラックジャックがいないと物語が成立しない猛烈な内容で
完全にブラックジャックのエピソードのひとつになっています。
タクシードライバーどこ行ったん?って感じですけど…

そして本編ではブラックジャック史上最大とも言える恐ろしく冷酷な決断を下し神業中の神業が炸裂して大どんでん返しの結末を迎えるわけでありますが読者によっては衝撃度マックスのオチになっており非常に賛否両論のある最終回になっています。
故に手塚先生はこの最終回を生前に単行本化することはありませんでした。
ただ手塚イズムを知り尽くした手塚ファンからするともはやいつもの鉄板芸なんですけどね(笑)

気になる方はミッドナイト最終回解説記事と併せてどうぞ


ちなみにこの「ミッドナイト」にも未収録作品が11篇もありまして
この最終回も未収録のひとつになっております。
幻の最終回としてお蔵入りした作品としても有名で今でも復刻を望む声が後を絶たず真の「ブラックジャック」ファンはこの「ミッドナイト」の最終巻を揃えないとブラックジャックが完結しないとまで言われています。

こちらは文庫版に掲載されておりますし
最近では「ロストエピソード」も発売されましたので今では比較的容易に曰く付きの最終回を手に取ることができるようになりましたので是非チェックしてみてください。





…という訳で今回は「ブラックジャクの最終回」お届けいたしました

手塚作品は膨大な未収録があり素人には
何が何だかさっぱり分からないと思います。
でもね…それが手塚治虫のディープな世界なんです(笑)

玄人でも分からないことが沢山あるカオスな世界なのでそこが楽しくもあり
腹ただしいところでもあります
ぜひそんな手塚治虫ワールドを楽しんでいただければと思います

それでは!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?