見出し画像

ブラックジャック外伝と呼ばれる「ミッドナイト」 ブラックジャックファンは必見!

今回は
モグリーのタクシードライバー「ミッドナイト」をお届けいたします。

本作はブラックジャックのスピンオフとも呼ばれるほど
ブラックジャックと類似する作品で、
しかもブラックジャック本人も登場しちゃうほど
ブラックジャックにゆかりのある作品となっております。

今回はそんな「ミッドナイト」を解説していきますので
ぜひ最後までお付き合いください。


-------------------------------
本作は1986年5月から
「週刊少年チャンピオン」にて連載された作品です。


さて本作は冒頭でも申し上げましたように『ブラック・ジャック』
似たような雰囲気を持った作品であり
主人公はタクシードライバーでしかもモグリという設定
行きずりの乗客との人情エピソードが展開するという1話読み切りスタイルの作品で、もはや「ブラックジャック」のタクシードライバー版といっても過言ではない作品です。

だからといって
「ブラックジャック」並みに面白いかと言えば
それはちょっと違います。

ぶっちゃけると「ブラックジャック」と比べるとかなり落ちます(笑)
この表現は難しいんですけど決して面白くない訳じゃなくて
「ブラックジャック」が凄すぎるってことだと思ってください。
比較する相手が強すぎるんでどうしたって霞んでしまうってことです。

画像2


ストーリーは
深夜の街を走る主人公のタクシードライバーと
そこに乗り込む乗客たちとのドラマで
お決まりのプロローグのセリフが
「夜はいろいろな顔を持っている。
その顔をひとつひとつのぞいていく男がいる。その名はミッドナイト」

という
この設定だけ聞いたらめちゃくちゃ面白そうなんですけど
読んでみると思ったより今一つなんですよね。

画像3

これはやはり手塚治虫の真骨頂である
「命」のテーマが薄いからだと思います。

ブラックジャックの面白さの源泉は「命」をテーマに
様々な人間ドラマが交錯していくところで
他の代表的な手塚作品、「火の鳥」や「アトム」「ブッダ」なども同様に
「命」や「生命の神秘」が描かれることで面白くなるので
この「ミッドナイト」にはそれがあまり感じられません。
だからそこまで面白くないじゃないかと…。


設定やプロットをいくら似せてもやはり根幹の部分でブラックジャックとは一線を画す作品であります

とはいえ
本作には「ブラックジャック」が登場する話が
3話あるんですがこれは抜群に面白い。
不思議と話が引き締まると言うか
ブラックジャックブランドがそうさせるのか分かりませんけど
ブラックジャックが出てくる話はどれも面白い。
それはやっぱり「命」のやりとりが描かれているからなのでしょうか。

画像1

最終回に至ってはもうとんでもない事になってます。
もはやブラックジャックの独壇場になっておりまして
普通にブラックジャックの一エピソードになってますからね(笑)

ブラックジャックの神業が炸裂する曰く付きのミッドナイトの最終回。
しかも最終回なのに
結末があまりにも衝撃的すぎたため、単行本には収録されないというね
(最終回はこちらをどうぞ)



…本編はなぜ「ブラックジャック」っぽくなってしまったのか

実は元々そんなに「ブラックジャック」色は強くありませんでした。

「ミッドナイト」は1981年から構想があたためられ、
1985年の新年号から『ドライブラー』というタイトルで連載予定でしたが
1984年11月に手塚先生が急性肝炎で入院したため連載が延期されます。

その後、『ブッキラによろしく!』『ゴブリン公爵』の2本の連載を挟みまして仕切り直しという形で連載が始まることになります。

しかし当初の構想では超能力を持つロボット自動車が活躍するというSF設定でこれは「ナイトライダー」に似てるなぁってことで
タクシードライバーの人情ものに変更されて1986年5月から連載となりました。

つまり何やかんや二転三転して始まったのが
この「ミッドナイト」なのです。


これは推測ですがやはり「週刊チャンピオン」側からすると
否が応でも「ブラックジャック」に匹敵するヒット作を期待するわけじゃないですか、それが直近で『ブッキラによろしく!』『ゴブリン公爵』と
随分ズッコケて挙句に新連載が「ナイトライダー」みたいなやつですから
「先生~マジで頼みます」
「ブラックジャックみたいなやつで行きましょう」って
なってたと思うんですよね(笑)

それで設定を変えてタクシードライバーの人情話になったと。

ヒューマンドラマを1話完結で描くのは手塚治虫なら間違いないと踏んでたはずなんですけど
それでもイマイチ盛り上がらない…
面白くない訳じゃないんだけど何かが足りない…


じゃあもういっその事、ブラックジャック出しておこう…って感じで
登場させたんじゃないかなと思っております(笑)

通常の手塚スターシステムの登場というより
こういう裏事情があったんじゃないかなと。
一応ここまではボクの推測ですけど。
実際のところ本当はどうなのか分かりません。
1987年ごろになりますと先生の晩年でありまして、
あまりその時の記事やインタヴューが残っていないんですよね
だからその時の心境が詳しく分からないのです。

手塚先生にとっても本作が最後の週刊漫画雑誌での連載作品となっており
個人的に見ても全盛期を過ぎた感が否めません。

やっつけ仕事ではないんですが
「輝きを失った作品になってしまったよね」と言われても
頷かざるを得ない事実であると言えるでしょう。


そんな中で今回はボクが好きな「ミッドナイト」のエピソードを
ひとつご紹介します。
これぞ「ザ・手塚」「ブラックジャック」の人情エピソードっぽさが残る一遍をご紹介しますね。


講談社の手塚治虫全集「ミッドナイト」1巻の2話目 ACT2のエピソード
ちなみにこの「ミッドナイト」ってエピソードタイトルがなく「ACT○○」って表記されているので
特定するのが難しいし、探すのも面倒くさいので注意です(笑)

さて…どんなお話かと言いますと…

重要書類を忘れたある社長が
社員にすぐに持ってきてほしいと電話しているところから始まります。

その場所は羽田空港で、あと2時間でフライトの時間
それまでに届けなければいけないんですが
ミッドナイトのタクシーに乗り込み時間を確認すると
「この時間なら間に合う」と安心するも…

道端で困っている急病人に出会ってしまいます。
あと20分で空港に向かわなくちゃいけない中
「急病人を病院に連れて行くか」、「放っておいて空港に向かうか」
究極の選択に出くわします…
やけっぱちで社員は
急病人を病院に届けることを選択、
そして病人を救ったのちに空港へ向かうも…

さぁ果たしてこの後感動のクライマックスを迎えるわけですが
これは本編を読んでのお楽しみであります。


このエピソードはまさに手塚治虫の構成力を発揮させた「らしい」エピソードだと思います。
1話の中にドキドキと爽快感がキレイに収まったお手本のような起承転結
このクオリティが毎回続けば「ミッドナイト」も「ブラックジャック」級の作品になったのでしょうけどそこまでは甘くなかったですね。

とは言え、面白さの定義とは人それぞれですので
まだ読まれたことがない方はぜひ読んでみて欲しいと思います。
そしてブラックジャックファンであれば
一度は読んでおいて損はない作品であります。

特に最終回は必見です
ブラックジャック外伝とも言える最終回
一体どんなラストを迎えるのか
ぜひご覧になってください


この記事が参加している募集

好きな漫画家

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?