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「人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか?」手塚治虫の最高傑作「火の鳥大解剖」解説

人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか?

人類史において未だ誰も明確な解答を示すことができていない壮大なテーマ
その人類永遠のテーマともいえる問いにマンガという娯楽で表現した作品

今回は「火の鳥大解剖」のご紹介でございます。


手塚治虫の名を知っている人は多いけど
その作品に触れたことのある人は決して多くはありません。
手塚治虫を知る上でどの作品を読んだほうが良いのか、、、
代表作も多くジャンルもあらゆるジャンルを描いているので
正直迷ってしまいますが

その中でもベストを選ぶのであればやはり「火の鳥」でしょう。

マンガの神様手塚治虫が生涯をかけて描いた日本漫画史に残る大傑作
なんといっても火の鳥の凄みは、
これまではマンガとは「ワハハ」と笑うものという価値観しかなかったところに深淵なテーマをぶち込んだことです。
「火の鳥」の登場によってマンガでこんなことが表現できるんだと
世の漫画家、クリエイター、アーティスト
そして未来の若き漫画家たちがひっくり返りました。

まさにマンガという文化の震源地、グラウンドゼロ。
作家として文化人としてクリエイターとしてそして革命家として
漫画家だけに留まらないすべてに精通していた圧倒的な才能を持つ
天才手塚治虫の教養に裏打ちされた無茶ぶりが炸裂したことによって生み出された奇跡の作品群「火の鳥」

漫画としての完成度もはや言うに及ばず
鉄板中の鉄板キングオブ鉄板マンガ!

是非「火の鳥」の世界堪能して頂きたいと思います。



さぁそれではさっそく本書見ていきましょう。

まずは本作「火の鳥」とはどんな作品なのか。
「火の鳥」の秘密が紹介されております。

日本の名作漫画アーカイブシリーズ 火の鳥大解剖  出版社 ‏ : ‎ 三栄書房より


初心者にとっては、どんなストーリーなの?誰が主人公なの?
舞台はどこなの?時代背景はいつなの?
長編って聞いたけど短編なの?
と分からないことだらけだと思います。
そういう一番最初の疑問にやさしく解説してくれているのがコレ。

「火の鳥」とはどんなキャラクターなのか説明されているのですが、、、
詳しくは正体不明です。
「火の鳥」はタイトルにはなってはいるけど主人公ではありませんし
むしろほとんど登場しないレアキャラです。
ガイド的な役割をしたかと思えば全く何もしないときもあります。
ずっと愚かな人間を見守っているだけの
傍観者と言った方がいいかも知れません。

…かと思えばとんでもなく恐ろしい罰を与えるときもあるという
本当に自由気ままな鳥の物語なのであります。

そんなマンガの何が面白いねん?
って思いますよね(笑)

でも、これがめちゃくちゃ面白いんです。

不思議ですよね。
こんなむちゃくちゃな鳥のお話が日本漫画界の最高峰にいるって
ちょっと信じられないですよね。
これです。「百聞は一見に如かず」
これこそこのマンガの醍醐味、読んだ人にしか分からない魅力
これこそこの作品の醸し出している世界観なのであります。

「火の鳥を通していつの世も変わらぬ人間の生への執着
それに関連しておこる様々な欲の葛藤を描きたい」

と手塚先生は語っておられるように
本作では、人間の欲望や執着という人類の最も根源的な命題として
煩悩に振り回され続ける様々な人間の姿を描き散らかしてます。

そんな普遍的な題材だからこそ、時代を越え、世代を越え
これまで多くの読者を魅了してきたのだと思います。

マンガには「スポーツ」「恋愛」「ミステリー」「サスペンス」など今では数えきれないジャンルが存在しておりますが
「火の鳥」は「生命」という最もドデカイジャンル。

それは好き嫌いとかそういう類ではなく
生きとし生けるものすべてが関係するジャンルでありますから
誰にとっても自分ごととして読むことができます。

そして時代背景は卑弥呼の時代から古墳時代、奈良の大仏、と進み
最後は西暦3900年の人類滅亡まで。
正確には約30億年という聞いたこともないスケールに発展するわけですが…

その圧倒的な世界観の中で不死鳥「火の鳥」が常に愚かな人間を時に温かく時に冷たい目でガンを飛ばしてくるという完全なドSマンガ。

「火の鳥」がどんなマンガなのかについては「火の鳥」読み方ガイドの方で詳しくご紹介しておりますので是非ご覧になってみてください。


ここからは火の鳥をよりよく知るための本書のポイント紹介していきます。
まずは火の鳥年表12編のエピソードの立ち位置を紹介したこちらの図。

これは大変参考になります。「火の鳥」はマンガ史上最高といっても過言ではないほど時系列がぶっ飛びまくる作品なのでエピソードの羅列もこうやってみると非常に分かりやすいです。やはりある程度時系列を知っておくほうがより楽しめますのでこちらぜひ参考にしてほしと思います。


続いては各編ごとの登場人物紹介。
「火の鳥」は登場人物が多い上に一度読んだだけではほぼ理解できないので何度も読み返す際にこの相関図は非常に役立ちます。


加えて各編、異なる時代によってリンクしてくる伏線要素もあるので
こちらの紹介ページは大変便利です。

あと登場人物のモデルとなった「歴史人物列伝」
これはめちゃくちゃ便利です。


時代が古いエピソードの「火の鳥」においては日本の歴史をモチーフとして史実通りではありませんがそれぞれモデルが存在します。
卑弥呼、平清盛、源義経など有名な人物もいればマニアックなものもおりますのでこちらでチェックしておくと面白いと思います。

注目は「乱世編」に登場する手塚太郎光盛
「平家物語」に登場する斎藤実盛を打ち取った武将ですけど実は手塚先生のご先祖さんであります。
この斎藤実盛伝説、実は名シーンなんですけど以外と知られていないんですよね。

斎藤実盛とは昔、木曽義仲を幼い頃に助けてあげたことがあって木曽義仲にとって命の恩人でした。
でも戦乱の世は無常でいつしか二人が戦場で相まみえることになります。
その時、斎藤実盛はおじいちゃんになってて、相手があの木曽義仲なら…と負け戦と知りつつも武士の礼儀として恥ずかしくないよう白髪を染めて戦場に向かいます。
そして敗れるんです。
その時に斎藤実盛を討ちとった武将が手塚太郎光盛、手塚先生のご先祖でした、そしてその首を洗っているときにその首が恩人の実盛であることを知った木曽義仲が泣き崩れるという
平家物語の胸アツシーンなんですけど案外知られておりません…。

はい続いて…
個別キャラでいきますと「ロビタ」
何とも愛らしいロボット「ロビタ」の誕生のキッカケから最後まで紹介されています。これを初めて読んだとき衝撃でしたよね。
ロビタって「ええ?そうなの?」って感じで。
これはぜひ本編にてお楽しみください。


このページも注目です。
「素粒子と宇宙の旅」と題して
火の鳥の世界観に漂う概念を説明しています。

現存する我々人間社会で最も小さいものとされているのが「素粒子」
…でもさらにその先…果てしなき極少の素粒子世界が存在すると…。

その反対に位置する最大の世界、それが「宇宙」
極少の世界と最大の世界の両極の旅があってそこに存在する物質にコスモゾーンなるものがが入り込んだものを「生き物」と呼ぶという
火の鳥を読んだ人の中でもちょっとふわふわした感じで理解できてない概念「コスモゾーン」

コスモゾーンって何?という難しいものを解説してくれているので
ここを読んで理解しておくことでより火の鳥の世界を楽しめると思います。

そしてコレ「火の鳥未来編の原画」紹介。

これ見るだけでも正直買う価値あります。
原画から見る手塚治虫の曲線。

これはクリエイターなら一度は見るべきものだと思います。
現代の描き込まれたマンガと対比したシンプルな美しさ。
誤魔化しのない1本1本が潤いのあるペンタッチが拝めます。
さらに特筆すべきはスクリーントーン。
現代マンガでは当たり前のように使用されているトーンを一切使用しておりません。この描き分けは見事。
ぜひ購入して食い入るようにみて欲しいと思います。


そして「火の鳥名言集」
作中に登場した名言の数々、、、その一言一言が力強くそして生命力に溢れています。

「手塚治虫が描いた未来」
SF作家としての側面も持つ手塚治虫が描いた未来予想図。
今見ても圧倒的な世界観は、かのスタンリーキューブリックが「2001年宇宙の旅」製作の際にデザイナーとしてオフォーしたほど。
素晴らしい都市デザインを体験して欲しいです

そして「火の鳥」が伝えたかったこと
永遠の命より大切なこととして火の鳥のメッセージが紹介されております。


そして初期「火の鳥」少女クラブ版、ギリシャローマ編についての解説と
未完に終わった火の鳥の紹介
マンガ少年版「黎明編」とCOM版「望郷編」 COM版「乱世編」とお蔵入りになった火の鳥の解説です。


この未完作についてはこの「火の鳥14巻」で完全解説しておりますのでぜひどうぞ。


あとは出版社違いによるバージョン違いのご紹介。
どのバージョンの選んだらよいのか参考になると思います。

最後に「火の鳥 休憩」
正式エピソードでもなくたった6ページしかないアナザーサイド的な作品ですが手塚治虫がなぜ「火の鳥」を書こうと思ったのか、自身の幼少期の体験記なども含めて貴重なエピソードです。

こちらも下記にリンク貼っておきますのでどうぞ。


…という訳で「火の鳥大解剖」ご紹介して参りました。
大変読み応え十分な仕上がりとなっておりまして
「火の鳥」ファンなら確実にマストアイテムですし手塚治虫ファンもガチでもっていたい1冊です。
劇場公開される「望郷編」の予習としても振り返りとしても最適な1冊。

とにかく「人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか?」という問いに
応えられない全人類がマストな1冊なご紹介でありました。


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