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手塚治虫の最高傑作「火の鳥」の読み方ガイド

さて今回は手塚治虫の最高傑作「火の鳥」の読み方ガイドをお送りします。

火の鳥がスゴイのは何となくわかるけど
いったいどんな作品なの?
どれからよめばいいの?
上級者でも複数の出版社から出ているので
ちょっと混乱するという声もあります。

そんな悩みを一挙解決する動画を作りました。


この動画を見れば火の鳥をどう読めばいいのか
火の鳥はどう楽しめばいいのかわかるようになっておりますので
初心者から上級者まで
ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。


それでは名作「火の鳥」の世界スタートです。


●「火の鳥」とはなんぞや?


ということですが
火の鳥という主人公らしきものが一応設定されていますが
火の鳥はほとんど出てきません(笑)
立ち位置として火の鳥とはストーリーテラーであり物語の案内役です。
ですから火の鳥という炎まみれの不死身の鳥が大活躍するようなマンガではないということです。

時代背景も3世紀後半から3404年まであり
もう途方もない世界観です。
普通は戦国時代とか現代劇とかいろいろ時代設定ありますけど
火の鳥ってそんなんすらも超越しちゃってるドエライ漫画です。

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そして火の鳥が各時代で何をするかっていうと…

「特に何もしません」

その間ずっと生き続け人間を見守っています。
たったそれだけ?って思いますよね

それの何が面白いの?って思いますよね。


初心者の方、大丈夫ですか?

まぁそういうマンガなんです(笑)


何が面白いねん。って感じでしょうけど
これが面白いんですよ。

この『火の鳥』って手塚先生のライフワーク的作品とも言われているだけに
火の鳥を掘り下げることで「天才手塚治虫」が見えてくる部分があります。
すべての手塚作品の源泉であり根幹
ここに手塚イズムの集大成が込められており
それが読む人の心を打ち夢中にさせているんです。


手塚先生は
「火の鳥を通していつの世も変わらぬ人間の生への執着
それに関連しておこる様々な欲の葛藤を描きたい」

と語っておられるように

『火の鳥』とは文字通り
人間の欲望とか執着などを描いており
壮大なロマン、ドラマが描かれています。
それを火の鳥という鳥がそっと見守るというマンガなんです。

話だけ聞いていたら余計訳わかんなくなりますよね…。
そもそも
火の鳥を一言で理解しようとするのは無理なんであきらめてください(笑)
もうね、これは読んで体感するしかないんです。

というわけで四の五の言わずとにかく読め!
これが正解

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●火の鳥のどれを読めばいいのでしょうか?


手塚作品の特徴として
文庫や単行本、全集、豪華本と種類がいくつもあって、
どの本で読んだらいいのか迷います。
「え?一緒じゃないの?」
…って普通の方は思うかもしれませんが
一緒じゃないんです。
一緒じゃないからややこしくなるんですよ。

だからね
手塚作品はコレクションしないほうがいい
ややこしすぎてマジで頭おかしくなりますから…(笑)


例によってこの『火の鳥』でも、
新しく単行本が出るたびに内容の編集を繰り返したのでもう大変です
一応おすすめとしては
講談社発行の手塚治虫漫画全集版とアサヒソノラマ版

これは、かつて虫プロから刊行された雑誌サイズの単行本をベースに
手塚先生自身編集したもので今一般的に流通しているスタンダードなバージョンです。

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もしくは
復刊ドットコムの『火の鳥《オリジナル版》復刻大全集』(全12巻)です。
こちらはちょっとお高いですけど
未完のエピソードなども含めて最初の雑誌掲載時の形に限りなく近づけた
完全復刻版ですのでファンや上級者向きといえますね。
『火の鳥』のすべてを知りたい方はもはやコレ一択です!

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まぁとにかくややこしいので
まずこの2点だけ抑えれば問題ありません。


●どこから読めばいいの?


ってことですけど
まずこの年表を参考に説明しましょう。
こちらの画像が非常にわかりやすいので利用させていただきました。
(時系列画像)
ギックスの本棚_火の鳥/田中 耕比古(たがひこ)さんの記事参照です。

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エピソードは全部で12編、
それぞれに「○○編」というタイトルがつけられています。

『火の鳥』は各エピソードごとに完結しているので
基本はどこから読んでも問題はありませんが
並びが少しいびつで普通のマンガと異なっています。

左から①黎明編→②未来編と並んでいますがこれは出版された順番です。
だからこの順番で読むのが普通です。

しかしこれをマンガの描かれた時代、
舞台背景順に並べること下記のように異なります。

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これを見比べてみると
2番目に発表された②未来編が最後になっていることがわかりますよね。
そして3番目の③ヤマト編が①黎明編の次の時代設定となっています。

つまり発行された順番は
「過去」「未来」「過去」「未来」と交互に描かれており
徐々に現代に近づいて行き
最後に現代編を描いて終わりという構成になっているんです。

めちゃくちゃ昔を描いて
めちゃくちゃ未来を描いて
それを交互に連載して
段々時代の幅が狭くなっていき最後には現代編にて完結するというわけ。

どうですかこの壮大な構想。

そしてすべての物語が繋がっているので
どこから読んでも問題ありません。
もちろん発行された順番で読んでも面白いのですが、
最初の方は壮大すぎてちょっと難しいかもしれません。
実は手塚先生自身も順番に読むことをあまり勧めていないようなんですね。

そこらへんの解説も踏まえて
今度は発表順と各作品の立ち位置をザックリ追ってみましょう。


●発表順を時系列でいくとこうなる

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参照(手塚治虫オフィシャルサイト)

昭和29年、漫画少年に初めて連載開始されたのが『黎明編』です。
日本建国神話のイザナギ、イザナミの物語で
不老不死の火の鳥の生き血を飲んで死ねなくなるという設定なんですが
実はこの話、以前より構想があったそうなのですが
先生が案を出したときは、戦後まもなくの頃だったので

「神話をマンガにするなんて言語道断!掲載できない!
SFでも書いてろ!」

といわれボツになった逸話があります。
そして急遽書き直されて誕生した作品が、かの「鉄腕アトム」なのです
実はアトムは火の鳥のロマンの中のひとつであり
ボツになった中から生まれた作品だったんですね。


話を戻しますが…
記念すべき『黎明編』が連載されたものの
掲載雑誌である漫画少年が廃刊になってしまいます。
1年後に
「少女クラブ」に連載していたリボンの騎士が終わって
その後釜として手塚先生は「火の鳥」の連載を考えていました
しかし
「別の出版社に掲載された続きをウチの出版社で書くのは困る」ということでエジプト編と名前を変えて連載をスタートします。
(それでも強行突破して描いちゃいます笑)


ただしこれは、「少女クラブ」に掲載されたこの3編のみで完結しており、
「漫画少年版」の黎明編とも、
後の「COM版」以降の作品とも、内容的な繋がりはありません。

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しかもこの時超多忙のため
あまりにも締め切りが遅いという理由で途中打ち切りになるんです。

しかし手塚先生の中で、
なんとかして書きたくて書きたくてしょうがない衝動がありすぎて
なんと自身が立ち上げた雑誌で決着をつけたいと決意。


そして自身が発刊した雑誌「COM」を創刊させ
満を持して
ついに「火の鳥」が復活します。

なんせ自分の雑誌ですから編集長も、作家も、連載陣も全部自分!
やりたい放題の雑誌でついに「火の鳥」をスタートさせるわけです。
いかに手塚治虫がこの火の鳥に並々ならぬ思いがあることが伺えますね。


そして火の鳥の本当のスタートがここから始まるんですね。
この雑誌COM版の
1967年「黎明編」からが本当の伝説の出発点と言えるでしょう


実際それまでの火の鳥は正式なエピソードとしてはカウントされず
(少女クラブ版として収録されてはいますけど)
エピソードの羅列としては除外されています。(12編には入っていない)


ついに自身のやりたいようにできる環境を得た手塚先生
満を持して再出発した「黎明編」
自身の雑誌でなければ猿田彦やスサノオ、ヒミコ、大和朝廷、神武天皇などをアレンジして表現することはできなかったでしょう。
先にも触れましたがそういう時代だったんです。

所説あると思いますがここが手塚治虫の転換期
日本漫画界に一縷の風穴をあけた瞬間だとボクは思ってます。
マンガという娯楽が物語と高次元で融合された奇跡の瞬間ですよこれは。

マンガというただのイラストだったものが
物語として読み物として
文化の発展の原点と言っても過言じゃないでしょう。

これについては面白い逸話があり
火の鳥を読んだマンガファンの三島由紀夫さんが
「手塚治虫もついに民青の手先となりはてたか」と批判します。

すると誤解されちゃ困るとして
手塚先生が三島由紀夫さんに直接電話をし
「とにかく最後まで読んでから批評してほしい」と伝えたそうです。
それくらい当時は影響力のある作品であったことがうかがえますね。


こうして雑誌COMで連載が続き
ここでちょっと休憩編が入ってます。
この休憩は文字通り一休みなんですけど非常に重要な役割を担っており
ぜひ目を通しておきたい代物になっています。

正式なエピソードではありませんが
手塚先生が火の鳥誕生の秘密を語っているまさにエピソード0的な作品。
詳しくはこちらの記事ご覧ください。


そして
休憩のあとの1971年12月この望郷編の羅列ちょっとおかしいですよね。
望郷編が3つも続いています(年表参照)

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これは
雑誌COM連載中に休刊となってしまったためで
再掲載の際には雑誌のスタイルがちょっとリニューアルしたことにより
手塚先生が新しいスタイルが「火の鳥」のイメージと合わないと判断し、
なんと連載中断を決断してしまいます。

そして月刊マンガ少年に移行して連載するのですが
書いた際には前回までの続きを完全無視して
全く新しい構想で望郷編を描いたため
先に書いた52ページは未完のお蔵入りになってしまいました。

続く乱世編は冒頭が完成していたにも関わらず
虫プロ倒産により
こちらも未完
後半部分は下書きのまま残されており
一部は紛失した幻の作品になってしまいました。

というわけでこの
1972年の望郷編と1973年の乱世編は正式なエピソードとして認められず
手塚治虫全集にも収録されておりません。

ちなみにこの2作品は「火の鳥別巻14巻」に収録されています

詳細はコチラでご覧ください

そして連載最後の太陽編へと続き
ついに構想段階の最終回である「現代編」を残したまま

巨匠死す!

という形で伝説は幕を閉じることになります。

手塚先生は最後に
自分の死の直前に現代編を発表して『火の鳥』は完結すると語っていました
…がその夢は叶わず…というのが火の鳥の全貌であります。


黎明編から遠い未来までの長い長い一貫したドラマ
一つ一つはてんでバラバラだけど最後にひとつに繋がってみたときに
はじめてすべての話が実は長い物語の一部にすぎなかったということが
わかるという仕組み

どうですか?
めっちゃ壮大じゃないですか。

世界で、いや全人類のマンガ史の中でも最も世界観、
時系列の飛び越えたマンガだと思いますよほんと。

●どれから読めばいいのでしょう?


発行順に読んでもいいし年代順に読んでも問題ありません。

特に正解はないのですが
手塚治虫専門youtuber某的におすすめするのは

未来編→鳳凰編の流れです。

もしくは鳳凰編のみ

この2択ですね

理由として未来編は
時系列でいくと最終回にあたるんですが
火の鳥とはなんぞや?と火の鳥の神髄を理解する上で最適かと思います

ただちょっと高度な面があるのでお子様や娯楽的に楽しむ場合は
鳳凰編からのほうが良いかなと思います。
ボクの火の鳥デビュー戦は小学2年の時の未来編でしたけど
「なんのこっちゃさっぱりわからず」

一時火の鳥恐怖症になって遠ざけてしまう大事件がおきましたので
その二の舞にならないようにして頂ければと思います

そして鳳凰編
なにより分かりやすい。そして火の鳥の中でも代表作であり
日本漫画史に残る不滅の傑作。
火の鳥といえば大概この鳳凰編のことを指すといっても過言ではないでしょう。これ読んでおけば間違いありません


というわけで未来編か鳳凰編から読むことがおすすめですね。

あとは何から読んでもいいと思いますがひとつ注意が「羽衣編」ですね
これは望郷編の前段階のお話なんですけど
先にも述べたように望郷編が書き直されたことによって
羽衣編との続きがちょっといびつになっています。
いわゆる伏線が回収されないままなんですよ。

羽衣編の謎が解明されないまま望郷編が進むので火の鳥としては単体作品みたいになっちゃってます。(せっかくの火の鳥の醍醐味が薄い)
全然問題ないんですけど深く読み込んでいる人にとっては「おや?」って感じになるので注意です


●さらに某的おすすめの方法をお教えします。


これは日本漫画の中で唯一「火の鳥」だけが使える手段かも知れません。
それは図書館で借りるです
最初から買わずにまずは図書館で読んでみる。これがベストです
図書館にも他のマンガは色々置かれていますけど
火の鳥だけは確実に置いてありますから。これはもうほぼ鉄板です。

しかも図書館ならタダですからね

はっきり言ってしまえば、このご時世
本屋より図書館の方が火の鳥の置いてる率高いかも知れません(笑)
しかも図書館は古いものが多いので大判であったりカラー版であったり
軌跡が起きれば初版なんていう
貴重なものに出会えるかも知れないのも魅力です
なんといっても大きな紙面で見る火の鳥はやっぱり違いますからね。

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そして
気に入って手元に置いておきたい本ならそこから購入しても遅くないと思います
そもそも火の鳥は1回で理解できませんから
1回試し読みするくらいでちょうどいいと思うんですよね
その後に自分に合った出版社やサイズ、を知って気に入ったら
購入して自分の手元に置いてじっくり読み込む…これがおすすめです

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そして仮に置いていない場合は図書館員さんに聞いてみてください。
実は図書館って全部置けないから倉庫に眠っている場合が多いですよ。
目ぼしい本がある場合は必ず声を掛けてみるようにしましょう。
さらに図書館なら「ない本」を注文することもできます
注文依頼書を書いて提出すれば導入してくれる場合があります
ここまでやれば必ず自分にあった火の鳥を探し出すことができると思いますので
ぜひ活用してみてください。


●そして手塚先生のおすすめの読み方ですが


先生自身が「こう読んだほうがいい」というコメントは残っていません。

しかし角川書店からハードカバーの単行本を出す際に手塚先生は
「羽衣編も収録には消極的だった」とかいうコメントを
プロダクション側の方が残されています。

これは単行本化する際に書き直しや手を入れる手塚先生のよくあるパターンで順番や余計なものをカットすることで
より読者に楽しんでもらえるようにするという思いのもと
修正作業を頻繁に行う作家でもありました。

ということは
裏を返せばこの角川書店版の発行リストが
手塚先生本人の読んでほしい意向なのでは?
…という推測のもと読み解いていくと面白いかもしれません。

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こうみると鳳凰編がトップに来ていますね。やはり自信作なんでしょうね。
乱世編上巻ときて下巻に行く前に「黎明編」を挟むというトリッキーな技を仕込んでいます。
ここら辺の意図がさっぱりわかりませんが(笑)
天才の考えることは理解できません…。

やはり何らかの意図があってやっているわけですからここら辺を読み解いていくと手塚先生が本当に伝えたかった火の鳥という作品の秘密が見えてくるかもしれませんね。


●全エピソード解説


ここに過去12編を解説した記事を貼っておきますので
個別で気になるものを参照なさってください。(連載順)

黎明編

未来編

ヤマト編

宇宙編

鳳凰編

復活編

羽衣編

望郷編

乱世編

生命編

異形編

太陽編


最後になりますが
先生曰く
「どうか「火の鳥」の評価はすべてが完結したあとにしていただきたい」
と述べています。

ぜひこれを読まれている方も短編だけでなく
出来る限りすべての火の鳥に目を通して頂き評価してみてくださいね

すべての火の鳥といっても
手塚先生が亡くなってしまった事により

「永遠に未完なので、永遠に評価できないマンガ」

になってしまったというわけですが…(笑)


以上火の鳥の解説でございました。

最後までご覧くださりありがとうございました



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