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手塚治虫が語る「火の鳥」の正体!エピソード0解説!

今回は手塚先生の大傑作
ライフワークとも言われている「火の鳥」の正体

火の鳥とはいったい何者なのか?

そして「火の鳥」誕生の秘密に迫ってみたいと思います

その誕生の謎を解くカギがこちら


火の鳥休憩編

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この「火の鳥休憩編」ですが
正式には「火の鳥」(休憩)といいます。
編ではなく(休憩)というタイトルになっていますがここでは
休憩編として進めていきますね。

この休憩編、世間ではあまり知られていないのではと思います。
それもそのはずたった6ページしかないんです。

ですがこの「6ページ」に火の鳥誕生の謎が凝縮されており
まさに火の鳥のエピソード0とも言える作品なんです。

今回はこの6ページをガッツリ解説していきますので
ぜひ最後までお付き合いください。

それではいってみましょう。


火の鳥といえば超有名でまさに日本漫画史に残る不滅の金字塔ですが
その中のこの「火の鳥」の休憩編のことはあまり知られてはいないと思います。


それもそのはず
手塚先生の生前には単行本化されていませんでした。

そしてこれはマンガというより
エッセイ風短編漫画であり他の編とは明らかに異なる作品なので
まぁ作品というより補足みたいなものですから
あまり一般には知られていない作品なのです。


しかしこの6ページに秘められた内容というのが
「火の鳥の正体(火の鳥とはどういった存在か)」という核心を突く内容になっているのでファンならずともぜひ押さえておきたい代物です。
「休憩」と題された文字通り連載を一休みして
全体の構成を見直す意味で構成を整理しておくために書かれたとも言われている作品でもあり、このときに初めて最終回が「現代編」になるということが明確になったという意味でも火の鳥の重要な位置づけになる作品であります。

登場は1971年雑誌『COM』11月号。
そのあとにマンガ少年版にも同じ「火の鳥休憩」が掲載されましたが
なんと3ページも削られて修正されています。
削られたうえに文章も全て書き換えられています。
理由は不明ですが結構大胆にカットされていますね。
6ページの3ページって半分カットですからね(笑)


今回ご紹介するのは
手塚治虫エッセイ集6巻に掲載されておりますCOM版
いわゆる完全版(6ページ)のほうです。こちらのご紹介となります。


冒頭ちょっと読んでみましょう

「ぼくはときどきーそう1ケ月に1度くらい変な夢を見るんです。
ある小さなうすぐらい家に住んでいて窓から門や柿の木が見えます
雪がしんしんと降っています。
そしてぼくはシワクチャな年寄りになって火鉢にあたりながら
それを眺めているんです。」
「あまりたびたび見るんで、
ぼくの年をとって未来の予知かとも思いました。
だが、その家のつくりや、門や、火鉢など
あまりにクラシックでアナクロニスティックなので
なにか古い時代の感じがします。
両親にきいても、そんな家なぞ
ぼくの子供時代には住んだことがないといいます。」
「ただの空想よ」


とあります。


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手塚先生はかなり特殊な夢を見ていたらしく
しかもかなり鮮明にかなり数多く記憶しています。

霊なんぞは信じないと言っていますが
ここまでリアルな夢というか、霊なるものが見えるようになると
現実とのギャップに混乱したでしょうね
何が本当かウソかわからない、現実と非現実の境目があいまいで
それこそ他人と見えている世界が違うと言った表現が適切かもしれません

そんな少年時代を過ごした手塚先生は

「人間の想像できないエネルギーが生き物という有機物質にだけ吸収され
それが「生きる」という現象になるのかもしれません」

…ということを本作で語っていますが
もう何を言っているのかわけわかりません(笑)

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すごい世界観です。
まさにこの世のものとは分からないものを見て体験してきたような
口ぶりです。

続けて

「生き物が死ねばそのエネルギーは、離れてまた空中に散らばる
新しい個体が生まれればまた吸収される」
「そのとき前の生き物の肉体に大きな影響を受けていれば…
それが夢や現実にナゾの思い出として現れるんじゃないかと考えました」
「そんな子供だましのデタラメな無意味な空想壁やめろ!」
「でもそれが子供マンガだと思うんです」

と言っておられます。


自分が体験したことは荒唐無稽なことと言われてきたけど
それをマンガ化することは荒唐無稽ではない
そのデタラメこそがマンガの醍醐味だと言ってるわけですね。


ここら辺の現象のようなものはボクには見えないのでわかりませんが
手塚先生の描くマンガの世界には先生には何かしらのエネルギーが
本当に見えていたのかもしれません。

突拍子もない発想や世界観
そして「バーゲンセールするほどアイデアがある」という無尽蔵のアイデアの源泉はこのような現象が元になっている可能性がありますよね。

まさに見てきたように書いている
凡人には到底理解できませんが…

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そしてここからさらに
とんでない領域に入っていきますよ。


火の鳥とはいったいなんなのか?
その全貌が明らかになっていきます。

「デタラメついでにもっと大ボラを吹きましょうか
この銀河系宇宙が、いや大宇宙が創造されたとき
その大きなエネルギーは宇宙に充満し、
ちょうど原始宇宙核がくだけて飛んで一つ一つの星になったように
エネルギーも…無数のエネルギーに分かれました」
「それはもちろん僕たちの考えているエネルギーとは途方もなく
違うものかもしれない
しかしそれは宇宙が続く限りなくならず
生命とは宇宙エネルギーのほんの一瞬の仮の姿なのだろうか」
「ながいながい進化を続けているのかもしれない
その進化のほんのわずかなチャンスに有機物質とむすびついて生命になるときがある…」
「ぼくは火の鳥の姿をかりて宇宙エネルギーについて
気ままな空想を描いてみたいのです。」

…と


わかりました? これ?


凄まじすぎて意味不明ですよね(笑)
もはや文学的解釈を通り超えて哲学的なところにまで及んでいます。
ここら辺が作品の根底とすると
「そりゃあ火の鳥深いわ」「わけわからんわ」って感じです。

これをすっごい簡単な解釈してみますと

火の鳥とは
「手塚治虫の頭の中にある気ままな空想世界を
火の鳥というキャラクターを通して語ったマンガのこと」

と言えます。

そしてその世界観は
現実世界ではない特殊な夢から生まれ
描きたいという衝動によって成立している稀有なマンガであると


そしてその本質、空想世界とは
生命の誕生は宇宙エネルギーから来ており
有機物に吸収されたときに新しい生命体となってこの世に登場し
死ねばまた宇宙エネルギーに戻っていく

だから人間は生まれる前の記憶を持っていても不思議ではない
これが手塚流の輪廻であり
この宇宙エネルギーこそが「火の鳥」なのだと。

…とボクは解釈しております。

人間の想像の範疇を超えたエネルギーであるとか、宇宙論とか
そこにほんのわずかな奇跡が起きて生命が誕生するとか
もう途方もない世界観です


まったくとんでもないマンガですよ、ほんと。


そして最後のページに行くんですが
なぜ火の鳥を鳥の姿にさせたのか?を語っています

手塚先生曰く

「なぜ鳥の姿をさせたのかというと…
ストラビンスキーの火の鳥の精がなんとなく神秘的で
宇宙的だったからです」

と語っています。

ストラビンスキーとは
20世紀を代表するロシアの作曲家で芸術にも広く影響を及ぼした音楽家の
1人でその中の『火の鳥』というバレエ作品のバレリーナがあまりにも美しくその魅力にはまったからだそうです。

加えて鳥には

「何か超常現象、超自然的な生命力の象徴には鳥の姿がある」
「どんなに歴史が変わり時代が変わろうとも
つねに冷静に人間を見守っている」
「物語の象徴としては絶好なものでした」

と語っています。


自分の思い描いた超常現象的な世界観を生命力の象徴と感じた鳥の姿に
宿して生まれたのが「火の鳥」だったというわけです。

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そして最後のコメント

「だからこの「火の鳥」の結末はぼくが死ぬとき
はじめて発表しようと思っています」

として締めくくっています。

ですが
発表する前にお亡くなりになっちゃうんですよね。

これが残っちゃったがために火の鳥は「ああだ」「こうだ」
永遠の議論が続いているんですからほんと頼みますよ。先生…。

でもこうやって「話します」と断言しているあたり
確実に結末を用意していたわけで、
決していきあたりばったりで描いていたわけではないことがわかります。

手塚先生が用意していた「火の鳥の結末」めっちゃ気になりますよね。
しかし
この結末のない終わり方こそが「火の鳥の神髄」なのかもしれません…

でも
もしかしたら遺言のようにどこかに閉まってある可能性もゼロではありません。なぜならつい数年前に死後25年の時を経て手塚先生の書斎の開かずの引き出しが公開され貴重な資料が公開されたからです。

こんな感じで「火の鳥の結末」もどっかに眠ってませんかね
出てきたらとんでない大発見ですからね。


というわけで今回は「火の鳥」休憩編をお送りました。


今回ご紹介した「火の鳥」休憩は
角川文庫 火の鳥14 別巻 

手塚治虫文庫全集 火の鳥 ―少女クラブ版―

講談社 手塚治虫漫画全集 手塚治虫エッセイ集 6 

にて確認することができます。

この火の鳥14巻別館
めちゃくちゃ貴重な面白いんでぜひご覧ください

参考


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