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【火の鳥鳳凰編】てんとう虫に隠された秘密!漫画史上最高のラストシーンを刮目せよ!

手塚治虫の最高傑作ともいえる「火の鳥鳳凰編」

ちょっと深すぎるのでどこまで解説できるかわかりませんが
今回は最高級の複製原画【漫画再生叢書】も絡めて
手塚治虫先生の伝えたかったことを読み取っていきたいと思います。

複製原画【漫画再生叢書】もご興味ある方は
感動の開封記事もありますのでぜひご覧になってみてください。


そして今回の本編はこちら ↓
音声だけでもお楽しみいただけますのでぜひどうぞ。

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ではいきましょう。
まずは火の鳥とはを軽くご説明しておきます。

火の鳥とは人類の誕生から滅亡までの壮大な歴史を辿り
過去と未来とが交互に描かれながら
永遠の生命体である火の鳥の視点から
「生きるとはなにか」
「死とはなにか」
「人間とはなにか」
を問う手塚治虫のライフワークにして
最高傑作の呼び声高い
日本漫画史に燦然と輝く不滅の金字塔マンガであります。

詳しくはこちらで


そのシリーズの内のひとつが今回の「鳳凰編」であり
火の鳥の中でも特に完成度が高く屈指の名作といわれておりまして
非常に人気の高い作品です。

あの中田敦彦さんも「中田の人生史上No.1マンガ」としてご紹介しているくらい超絶に激熱のマンガなのでございます。
中田さんがとんでもなく熱く語っていて非常に面白いのでぜひご覧になってみてください(より一層理解が深まると思います)



それでは早速どんな物語なのかあらすじを…。


舞台は奈良時代
政治の混乱により民衆が翻弄され飢饉のため苦しんでいる人々が
たくさんいる激動の時代

主人公は不幸な生い立ちにより片眼・片腕となってしまい
世の中を恨んで盗賊になった青年我王

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この我王、悪行の限りを尽くしていたとんでもない悪党で
ある日殺人事件を起こしてしまったことで
村を追われることになります

そして逃亡中にひとりの若者に出会うのですが
彼こそもう一人の主人公、将来を有望視されたエリート仏師、茜丸
この対照的な2人を通して物語が進んでいきます。


まず
我王は2本の腕があることが気に入らないという理不尽極まりない理由で
茜丸の右腕を斬りつけます。
いきなりヤンキーにカツアゲされるというレベルを超えるとんでもない悪党です。

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幸い茜丸は命に別状はありませんでしたが
仏師の命ともいえる利き腕を傷つけられ将来を絶望します
(仏師とは彫刻家の中で特に仏像を専門に作る者のこと)


一方我王はその後、速魚(はやめ)という女性と無理やり結婚したり
ウソをつかれたとして
その速魚を殺したりむちゃくちゃな人生を送ります。
完全にやさぐれてます。

そんな折に良弁僧正(ろうべんそうじょう)という偉いお坊さんに会い
この出会いが我王のやさぐれ人生が少しづつ変化していくキッカケになるんです。

良弁僧正と共にある村に流れついたとき
その村では、原因不明の病にかかり村中の人々が死にかかっていました。
そこで我王は魔除けの彫刻作品を作ることになります。
すると村人から感謝され人の役に立つということを初めて実感するんです

初めて感じた感謝されるということ。

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自ら手掛けた彫刻が人々の生きる希望になっていることを知り
なおかつ良弁僧正に
「お前は仏像を彫る才能がある使命を全うしなさい」
と言われ
その後は各地で黙々と仏像を彫っていくようになります。
このあたりから我王の考え方が大きく転換していくんです。


一方、右腕を傷つけられ絶望していた茜丸ですが「もう一本の腕がある」
前向きに精進してどんどんお偉いさんの目に留まっていくようになり
そしてついには東大寺の大仏を作る国家事業の責任者に任命されるにまで昇りつめていきます。

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当時の大仏殿事業といえば非常に名誉ある仕事
茜丸は地位、名声を得ていく半面、このあたりから
徐々に純粋な心を失っていき
自らの私欲のためだけになっていくようになります。

そしてついに大仏の完成後、
最後の仕上げとして鬼瓦の作成を依頼されることになります。
東大寺大仏殿の鬼瓦作成という一大国家プロジェクト
最終最後の要ともいえる大仕事。

しかしその依頼は
茜丸ともう一人の今話題の彫刻師との作品の出来を競い合い、
優れた方を選ぶという決戦方式になるんですね

競うことになったもう一人の彫刻師とは…

なんとあの我王だったのです

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その昔、右腕を斬りつけられた因縁の男

しかし我王にはかつて悪党だった姿はもはやなく
今や民衆に慕われるようになった我王
権力の欲に溺れていったエリート仏師茜丸
という大きく変わってしまった両者

もはや正反対の人間になってしまった勝者はいかに!

…というのが本編のおおまかなあらすじです。


この数々のドラマの末の最終決戦、興奮しないわけありません。
マジで激アツな展開です
めちゃくちゃ興奮しますし
何より深く考えさせられる描写がたくさん出てきます。

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数々の試練、苦難に立ち向かう正反対の2人の主人公を通して
人間とはなにか、生きるとはなにか、死とはなにかと問いかけてくる
文学作品にも匹敵する超大作がこの鳳凰編の醍醐味です。

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それほどまでに深く重厚な作品であるにも関わらず
なんとわずか388ページしかありません。
講談社漫画全集では2巻、単行本だとわずか1巻

たった1冊の本に
どこにこんな壮大なロマンを詰め込めるんだと思えるくらい
凝縮されたマンガであり手塚治虫の天才的な技量が迸ってます。

現在のマンガ連載を引き延ばすスタイルだと気づきにくいですが
限られたページ数で描いている本作は
無駄なコマが一切ない洗練された様式美を感じます。
そしてこれにより
コマの大きさ、配置による作者の本当に描きたいものが見えてきます

例えばこの輪廻転生の見開きは圧巻です。
もうなんなんですかこの圧倒的存在感
気持ち良すぎますよね(笑)

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伝えたい何かがないとこのような贅沢なコマの使い方はできません。


反対にラストの我王が片腕を切り落とされるシーンがあるんですけど
これなんて一瞬です。
あっさり「ザッ!」って半コマ(笑)

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これね今の現代のマンガなら腕を斬られるところを大々的に
めちゃくちゃページとって書かれると思います。

でも手塚先生ってもうあっさり。

え?そうなの?って感じ。

つまりさほど重要じゃないんですよ。こんなの。

物質的な表現より内在する心理的表現の方を大切にしているという証です
ここら辺を意識して読み取っていくと
この火の鳥鳳凰編の本質が見えてくるんです。


まずは
「因果応報」と「輪廻転生」

因果応報でいえば
我王と茜丸の生い立ちの違い
未来への希望の違い、
あらゆるものが対照的な2人として描かれています。

因果応報とは
「すべての結果には必ず原因がある」という考え方ですが
我王はその不遇な生い立ちにより「自分がこうなったのは世の中のせい」だと責任転換してずっとやさぐれていたんです。

一方茜丸はエリート街道まっしぐらで将来も有望
我王に右腕を斬りつけられ一時は絶望するも
現実を受け入れ前向きに立ち直ります。

非常に対照的な2人です…


因果応報って最終的には「すべてを受け入れて生きていきなさい」
という意味も含まれているですけど
この考え方の違いによって2人の人生が大きく交錯していきます。

この交錯していく表現が見事なんです。参った!
正に表現の極致!
もうほんと気持ちいい…

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特にこの二人のラストシーンなんか
完全に善悪が入れ替わってますからね
マジでとろけるような読後感を味わえますよ
手塚治虫って本当にとんでもない化け物だったんだなって実感できると思います。


そして「輪廻転生」
この圧倒的な連綿と繋がる生命連鎖
これは火の鳥全編通しての一環したテーマなので
手塚先生もかなりのページ数をとって表現しています。
ほんとね、この鳳凰編だけでなく火の鳥全編を通してみたときに
初めてこの輪廻転生の本当の意味がわかってくると思います。

むしろこの鳳凰編だけではその奥深さは伝わらないので
ぜひ全編読んでから改めてこの鳳凰編を読んでみてください。

するとさらに火の鳥の奥深さが実感でき
アレとコレが繋がってアソコとココがあああああっって
超絶に気持ちいい体験できると思います。

「火の鳥」ってやつはほんと手塚治虫好きとか抜きにして
書棚な並べておくべき作品だと思います。
買わないまでもお近くの図書館にも絶対置いてあるんでぜひ足を運んでみてください
置いてない図書館見たことないですもん。
これってある種、日本国民読めってことですよ(笑)

手塚先生自身も
「延々と続く大河ドラマでぜ~んぶ繋がっているんで
一話だけ見て判断しないで」

「一部だけ見ても分からない」と言ってますからね。

はい、というわけで読んでおきましょうね。

さ、話戻しましょう。


あと注目は「人の本当の幸せはなにか」ということを見つけるこのシーン

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いつも何かのせいにして生きてきた我王が
初めて人から感謝されるんです。
この時の高笑い、この笑いには自身の考え方が
まるで反対だったことに気づいた笑いを意味しています。
今まで自分のことしか考えていなかった、
自分の幸せしか考えていなかったものが
誰かを幸せにすることで自分の幸せが満たされることに気づくわけです。


反対に勤勉だった茜丸は地位、名声、嫉妬や野心に生きるようになり
どんどんダークサイドに堕ちていきます。

最初は
「うまくいかないことを悩むのではなく今をどう生きるか」
滴る水滴で石造を彫るお坊さんに感銘を受け
前向きに捉えていた彼(茜丸)がどんどん欲に溺れていくんです。

それはそれは見事なまでにダークサイドに堕ちてゆきます。
そんなダークサイドに堕ちたクソ茜丸に
ブチは文字通りクソ垂らしますからね。
大仏殿にクソをするという大胆不敵な反抗精神

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国家の一大プロジェクトだろうが
民衆の苦しみも知らず私利私欲のためだけの
ハリボテの大仏なんてクソだと言わんばかりのバチあたりな表現

ここら辺の対比描写も見事ですね。



そして物語のラスト
太陽を見上げ「美しい」とこぼす我王の一言。

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とても最初の我王からは想像できないシンプルにして究極の一言です。

「美しい」って3回言いますからね。
3回ですよ

ここに至るまでの様々なドラマを見ているからこその
超絶に美しい激ヤバな一コマなんです。

漫画史上こんなに眩いラストはないですね。


現代はね伏線回収がすごいマンガの特徴なんて言われますけど
火の鳥はこのラストの美しさを描くための物語全部が伏線


生きるとはなんだ?
死ぬとはどういうことだ?

という疑問を
追い求めた我王のたどり着いた境地がここに完結するというね。

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我王が最初にテントウムシの命を助けて
それが速魚という女性となって現れるシーンがあります。

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憎しみと恨みから速魚を殺しちゃうんですけど
これが間違っていることがわかり
そこから我王が命について考え始めるキッカケになるシーンなんですが
なぜこれがテントウムシだったのかってことですよ。


日本では、てんとう虫を「天道虫」と書きます
テントウムシとはまさにお天道様のことです
「太陽や天の神」などの意味があり、太陽の神の使いとして、
これから起こる幸運を知らせる天からのメッセージという意味があります。

つまり
ここでは速魚は我王が改心するためのメッセンジャーとして現れます

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そして
天道とはすなわち人知の及ばぬ
天然の自然の摂理です
自然物とは何事にも頓着せずただただ純粋なものであると。


目に見える何かに心奪われて生きるのではなく
心穏やかに今あるものに感謝する
今ある幸せに目を向けなさいというメッセージに他なりません。

我王はそこに至ったからこそ、
ラストのドデカイお天道様の姿を見て
この言葉をこぼすわけですよ。


「美しい」と…

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いや~しびれますね。
こんなマンガないですよほんと。
漂ってくる気配が尋常じゃないですもん

まさに漫画の枠を越えた「比類なきマンガ」だと思います。


我王が導かれるように民衆の救いの為に仏像を作ったり
茜丸のような純粋に仏師になろうとした若者が、
知らず知らずの内に嫉妬や野心に飲み込まれていったり
過酷な時代を生き抜いた
対照的な彫刻家2人の人生が絡まり合う壮大なカタルシス

いや~参りました。


何がすごいって読者が成熟していない1969年当時にですよ
まだマンガは子供が読むものとされていた時代に
これほどの難解なマンガをぶち込んできた手塚治虫って変態ですよ。

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今読んだら
答えを欲しがる現代マンガに慣れている読者にすれば
読者に判断を委ねてくるマンガは邪道に映るかもしれませんが
時代とともに語り告がれ
読む者を魅了し続ける作品ってそう多くはありません。

「火の鳥」を小さいころに読んで意味不明だけど
なんか圧倒された、なんか記憶に残っているという読者は多いです。
なにより「火の鳥」の特徴として
どの年齢になっても感じ方が変わるし
むしろ
人生経験を重ねていくごとに読み応えが変化していくことにあります。

読者が年を重ねることで知識や経験を積み重ねていくことと同時に
「火の鳥」も年齢と共に成長していくんです。
信じられないような本当の話なんです。
だからいくつになってもみんな「火の鳥」を捕まえられないんです

捕まれられない「火の鳥」をいつも追いかける
なぜなら「火の鳥」は常に読者の半歩先にいるからです

こんな体験ができるマンガってないんじゃないですかね。

親から子へ子から孫へ
継承できる非常に素晴らしいマンガだと思います。


少しでも興味が持てましたらぜひ
鳳凰編以外の火の鳥も読んでみてくださいね。
全部読むことで全部繋がってきますよ
きっと超時空的世界観を持った気が遠くなるぶっ飛んだ作品にドタマカチ割られると思います。

そしてご自身の人生のライブラリーに
火の鳥シリーズ加えていただけたらと思います。


というわけで今回は火の鳥鳳凰編お届けしました。

次回は
鳳凰編のもう少し踏み込んだお話をしようと思います。
これは意味不明になりそうなんで無理に見なくてもいいです。
時間がある人だけ見てくれればそれでいいです。はい。

では!



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