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【手塚治虫漫画全集】全巻紹介 第14弾!301巻~312巻編

手塚治虫と言えば
ギネスブックにも載るほど膨大な数の作品を残している作家であります。
だから「名前は知っているけど何を読んでいいのか分からない」と言う方も多いと思いますし、ファンの方でも全部読んでいる方は少ないと思います。
そこでこの【note】では講談社発行の手塚治虫漫画全集をベースに
手塚作品をガイド的に紹介しています。

手塚治虫漫画全集は全400巻あり、今回はその第14弾!

301巻~312巻までのご紹介となります。
それでは本編をお楽しみください。



「MW」


1976年作
閲覧注意 腐女子必見の禁断ガチBL作です。

今でこそBL(ボーイズラブ)というジャンルは一般化しジャンルとして成立してますけどこの時代に同性愛を描いているってほんとあり得ないです。
とても40年前の作品に思えないほどの先進性。

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いや~手塚先生こんな世界観も描けるんだと驚愕
信じられない守備範囲です。
とても「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」を描いた作者とは思えません
まさに図書館マンガの対比にある作品
手塚治虫と言えば良い子ちゃんのマンガというイメージがありますが
手塚治虫の本なら読んでいいという親御さんが見たら卒倒しますね(笑)

そのくらい凄まじい作品です
手塚先生も「ピカレスク」マンガを描きたいと言って取りくんだ作品なので
ピカレスク「悪」徹底した悪がテーマの作品です。

「従来の手塚カラーを打ち破りあっけにとられるような
ピカレスクドラマを描いてみたいと思って描いた」
。と言っていますが
もうあっけにとられてます(笑)はい。

そして「ありとあらゆる社会悪、暴力、裏切り、強姦
とりわけ政治悪を最高の悪徳として描いてみたかった」
とも語っており
その粋を味わえる作品となっています。

手塚マンガ史上でも間違いなくトップクラスの悪が存在しています
大人のマンガというより人間のマンガ
人間ってなに?人間って本当はグロイぜ~を描き切っている作品ですね。

そしてそのグロさが本作の本線でもあるんですが
この作品を究極に引き締めているのがBL
このBLがないとこの作品が成立しないくらい
重要なポイントとなってきます。

男同士の愛がそんなに…?
って思うかもしれませんが
そこが手塚治虫の恐ろしいところなんですよね。

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本作のメインは
バイオレンスサスペンスサイコパスアンドBLという作品になっています。

ストーリーは
日本のある島で起きた、
歴史の闇に葬り去られてしまった事件が核になります。
軍の化学兵器「MW」という毒ガスにより島民全員死亡
その島の生き残りである2人が本作の主人公
ひとりはエリート銀行員で容姿端麗の結城美知夫
もう一人は体育会系のガッチリ体型で真面目な賀来神父

結城は、その事件を闇に葬った犯人に次々と復讐していきます
彼の犯罪を止めようとする賀来神父も聖職者でありながら共犯の道を辿っていくというストーリー

この結城がすさまじいサイコパスで
表向きは超エリートで出世頭で女性にモテモテの美男子なんですが
裏では連続凶悪事件の犯人で残虐非道極まりないまさに悪魔のような男
そして復讐のためなら女子供であろうと容赦なく殺します。
手塚作品の中でもキレキレの悪魔です。ぶっ飛んでます。

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しかも誰とでも寝ます。男だろうが女だろうがおばちゃんだろうが
自らの肉体をも目的のためなら使う異常な男です。
というのも結城は大脳を毒ガスに冒されたらしく
良心もモラルももたない悪党になってしまったそうです

そんな冷酷な結城を止めようとする神父は過去にこの結城の身体を弄んだ事があり愛情と罪の意識から結城に逆らえなくなっています。

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犯罪という罪の意識を感じながら
法の裁き神の裁きに揺れ動く心理が
このBLという見えない鎖が演出しているんですね。

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聖職者として振る舞ってはいるが
凶悪犯罪者と知る結城の行動を黙認するし肉体関係を持つし
ときには共犯幇助まで行う
ダメとは分かっていながらも欲望に抗えない人間心理

この設定はまさに秀逸!
手塚治虫の真の恐ろしさが垣間見える設定です。

むちゃくちゃグロくて、エロくて、ダークでサイコで驚愕の問題作です。

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そして「MW」の存在を巡って隠蔽画策する政治家
社会の闇や政治腐敗、戦争の闇を痛烈に皮肉ったメッセージ

一見すると結城がサイコ野郎で悪なんだけども
政治も悪、権力者も悪、国も悪、戦争も悪
神父も悪、全部悪やん
という、凄まじい展開

人間の保身と欲望、そしてそれに潜む悪
抗えない肉体の快楽

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ドロドロの群像劇
それぞれの正義と悪が交錯した猟奇的サスペンスマンガです。


2009年には玉木宏さんと山田孝之さんで映画化されていますが
原作があまりにもグロすぎて映画では大分変更されているようですね。
ボクは見ていません。

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しかもあまりにも過激なので
このBLシーン、ベッドシーンや裸のシーンはカットされているようです
まぁいろんな事情があるんでしょうけど
この同性愛がカットされているのは
原作を理解していない証拠です。
あり得ません。

過激だからということではなくこの同性愛が先ほど述べたように
見えない鎖になっている部分なので
これがなかったらこの作品の根底が崩れちゃいます。

エロいから…グロいから…じゃなく
キモの部分なんで、これは当たり前にノーカットです。
これが描けないならMWは成立しません。

というか別の作品といっても過言ではありません。

ただの過激なサイコマンガじゃないんです。
バイオレンスな部分に
ガチBLが入っているから最高のサイコパスマンガになっているんです。

これ読まないと分からないよなぁ


「グリンゴ」

1987年作
『ルードウィヒ・B』『ネオ・ファウスト』と共に
手塚先生の遺作となった漫画の一つです。
病状が進行していく最中にも描き続けられ、
最後の6回はすべて病院のベッドの上で描かれたものだそうです。

絶筆ということで未完に終わっていますが
先生の死ぬ間際の執念が伝わってくる作品となっております。

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ストーリーは
高度経済成長期の商社に勤めるサラリーマン
日本 人(ひもと ひとし)の物語
大手商社・江戸商事の新しい支社長として日本 人が赴任する先は架空の都市になっていますがブラジルがモデルとなっています。

支社長として異例の出世を果たしますが罠により突然の解任そして左遷
左遷先は政府軍とゲリラが毎日のように市街戦を展開する
政情不安で危険な土地、そんな土地でも執念で希少金属=レアメタルの鉱床が眠っていることを発見し日本に輸出することに成功します

ところが成功も束の間、新たな謀略により逃げる羽目に
信頼する上司にも裏切られ、
家族をつれてジャングルを彷徨うところで、未完となります。

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タイトルの「グリンゴ」 (Gringo) にはスペイン語で「よそもの」という意味があります
これはひとりの商社マンの姿を通して
異国から見た日本人像を描き「日本人とは何か」を問うた社会派サスペンス漫画なんですね

手塚先生は
「日本人という民族は一体何なのか?」を描きたいと語っていたように
日本人という閉鎖的な民族が
日本人らしき人間がいない土地へたった一人放り出されたらどうなるかと。これを手塚治虫が日本人に問いただしているわけですね。

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ボクたち本来の「日本人らしさ」ってなんだろうと考えたときに
日本人らしさとは日本という環境にいるから発揮されているんじゃないか?
日本とは全く違う文化に紛れた時に、
ボクたちは日本人らしさを発揮できるのか?
という問いです。

赤信号みんなで渡れば怖くないと言われた時代
バブル期は言われたことだけやっていれば生活できた時代
自分のアイデンティティがなくても生きれた時代

そんな時代を生きてきた日本人にとって
日本人が通用しない土地に行ったときに日本人を貫けるのか?
自分の日本人としてのアイデンティティを貫けるのかというね。

本作では日本人らしさを捨てなければいけない状況の中
寡黙なまでに日本人を貫く男の姿が描かれています。
過酷な状況でも仕事をする日本人という
皮肉めいたメッセージも込められており非常に考えさせる内容です。

そして奥さんが白人の金髪美女で
日本人とは対極的な立ち位置として描かれているのもポイント。

身内だけど「他国から見た日本人」というバランスをとる重要な役割を担っており興味深いセリフを残します。

「日本ハ世界ノドコノ国ヨリモ変ワッテイマス」と。

ボクたちは全く気が付きませんが
世界から見た日本という異常さ、特異性というものを
手塚先生は主人公の奥さんを通じて表現しようとしていたように見えます。

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最後にこの「グリンゴ」の巻末には
ガリガリにやせ細った手塚先生が本作を執筆している様子が
マンガとして描かれています。
死の直前まで「仕事させてくれ」と言った手塚先生
このグリンゴの
主人公ひもと ひとしのようにどこに行っても仕事のことしか考えていない
日本人像を自らの姿に映した作品なのかも知れません…。


「どついたれ」

1979年 未完
手塚治虫の自分の半生をマンガにした自伝的作品
第二次世界大戦末期から戦後まもない時期にかけての荒廃した大阪を舞台に
たくましく生きてゆく男達の姿が描かれています。

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そして登場人物のひとり葛城製作所の若旦那の健二は
ベビーカーなどを製造するメーカー「アップリカ」の創業者、葛西健蔵が
モデルになっている話です。
アップリカと言えばコンビとならぶベビー用品の日本2大メーカー

その創始者、葛西健蔵とは
1972年に虫プロ商事及び虫プロ倒産の際に、
自ら債権者でありながら債務返済・整理に当たり、
手塚作品の版権を全て自分の名義に書き換え、債権者らから手塚先生を守り抜いたそうです。

そうしなければ、手塚作品の版権が勝手に持ち去られて処分され、
後に収拾がつかなくなる恐れがあったからと言われており
この件について手塚先生は大変な恩義を感じていると語っています。

まさに国民的キャラクター
「アトム」や「レオ」「火の鳥」を守り抜いた人

文字通り手塚治虫が最大の窮地に陥った時に支えた大阪商人なんです。

これは「鉄腕アトムを救った男」として書籍にもなっていますので
参考にされてみてください。

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この最大級の支援により手塚先生は感動し再び創作活動を再開
後に「ブッダ」「ブラックジャック」「アドルフに告ぐ」など
ヒット作を連発させ見事に復活します

「どついたれ」では若者たちの青春群像劇として描かれていますが
「漫画の神様」と言われた手塚治虫の苦悩の一面や
戦後の混乱期を生き抜いた男たちの絆、生き様も描かれています。
手塚先生と葛西健蔵の出会いも描かれておりこのふたりの絆を描く
当時の社会情勢を知る意味でもとても参考になるマンガです。

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すべてが真実ではありませんが
半自伝的作品として読んでみると宜しいかと思います。


今回はこちらまで。

また次回お楽しみに。


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