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不動産屋さんのIT化が進まない理由

不動産屋さんといえば、アナログでちょっと怖いイメージないでしょうか。不動産営業は、電話・FAX・チラシ撒き・飛び込み営業がきつそう、休みも少なそう。こんなイメージもあると思います。

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私は、現在大阪のとある不動産屋さんで売買の営業として働いていますが、元々は全く畑が違うITベンチャー企業にいました。

不動産業界に入るまでは、FAX、自動車運転、電話、ポスティングなどと縁遠い世界でしたが、そのツールを使いながら働いているのが現状です。使わざるを得ないのです。

不動産テック・IT重説(オンライン型の重要事項説明)・IoT不動産等々の言葉はありますが、実際に働いてみると、取り巻く環境全体がアナログであることを日々実感しています。

今回は、不動産営業マンはリアルな現場で日々何をしているのか、業界のIT化に地道に取り組む一人のプレイヤーとして体験を交えてまとめたいと思います。

※今回は私が行なっている住宅系の不動産売買仲介を中心としたお話をします。

不動産営業の役割

不動産には、住宅系・商業系・ホテルなど様々な種類があります。その中で「住宅の仲介」は馴染みがある方が多いのではないかと思います。

新築の住まいを立てるために、土地を探す。中古物件を買いたい。そうなった時には、まず不動産屋さんにいくことが多いのではないでしょうか。

不動産屋さんは、

家(土地)を買いたい人に対して、不動産情報を提供する

家(土地)を売りたい人に対して、買い手を紹介する

売り手さんと買い手さんを繋いで、取引をまとめ、仲介手数料という形で利益を得ています。

または、自社で不動産買取(仕入れ)を行い、再販することもあります。

その場合、再販価格 ー 原価が自社の利益になります。

重要になるのは、「仕入れ」「販売」です。

「仕入れ」を強化するためには、地主さんに土地を売っていただいたり、一般ユーザーさんの家や土地を売りたい、というニーズを広告やチラシなどで拾っていく必要があります。

売り物件求む!という広告がロードサイドに良く貼ってあると思いますが、その一種です。

「販売」は、チラシやSUUMO、 HOMESなどに物件を掲載して問い合わせをもらったり、対象物件に「売り物件」という看板を置くことで、反響を獲得します。

私たち不動産営業マンは、その地道な販促活動を経てお問い合わせをいただいたお客様のところに訪問し、日々不動産にまつわる相談を受けています。

そうなると「お問い合わせをいただいたお客様に、いかに的確に素早く対応していくか」が不動産営業マンとしては命題なわけです。

この素早く対応する必要がある理由は、不動産はこの世に同じものが存在しないためです。

つまり、お客様が欲している不動産は、この世でただ一つしかないので、早い者勝ちになります。

不動産売買の現場は、基本「現地確認・電話・FAX・郵送」

それでは、不動産を売りたい人や買いたい人はどのような方なのでしょうか?

「売りたい方」でいうと、理由も様々ですが、資産整理目的・相続その他プライベートに関することなど、様々です。そして、どちらかというとご高齢の方が多いです。

「買いたい方」は、新築の土地を探している、であったり、住む目的の時もあれば、投資用で買いたい方など、その目的は様々です。

私たち営業マンはお客様ありきの商売になります。そのため、「ChatworkやLINEでやりとりしましょう!」とか「ZOOM使いましょう!」と提案したいところですが、メールアドレスをお持ちでなく、固定電話のみお持ちのケースもあります。

全ての方に共通するコミュニケーションのキーは「電話」になります。

また、先述したようにスピードが求められるため、早く回答が得られる電話が用いられること。売り手側と買い手側の不動産業者が違うケースもあります。その場合は、その業者間でも電話が多いです。

更には、不動産売買には「行政(市役所など)」が関わってきます。行政は、基本的には電話対応になります。

また、次の項でも挙げますが、とにかく業務量が膨大です。

そのため、ほとんどのプレイヤーは電話を主なコミュニケーションツールとしています。言い換えれば、既存のベテランプレイヤーはIT化の必要性を感じていない方は多いのではないかと思います。

実際の仕事

不動産は、専門知識が必要で、かつ自分一人で完結する仕事ではありません。そして、会社に入社すると、当然業界経験がある先輩・上司が教育係としてつくことになります。そのやり方を真似ながら、ここでは一例ですが、不動産営業マンの仕事をご紹介します。

①媒介(仲介)契約

仲介の現場では、「不動産を売りたい」方から物件をお預かりします。これは「媒介(仲介)契約」と呼ばれるものです。媒介契約をお客様と結ぶことで、お客様はその不動産営業マンに販売活動を委託するわけです。

②媒介契約をするには?

媒介契約をするためには、「物件の査定」が必要になります。お客様の物件を査定させていただき、査定額を算出します。ご希望や事情を伺いながら、適正な価格(3ヶ月で売れるであろう確率が70%前後である価格)をご提案し、その価格で売却をお考えであれば、媒介契約を結んで販売活動がスタートになります。

③物件の調査

物件を預かってそのまま販売するわけにはいきません。きちんと調査をして、購入を希望される方に説明する必要があります。

・市役所で対象エリアの取引が問題ないかを調べる

・道路に問題がないかを調べる

・下水道局で、下水道に問題がないか調べる

・ガス会社にガスが通っているかを確認する

・ハザードマップなどの災害区域に入っていないかを確認する

などなど

これも基本的には、現地確認・電話・FAXいずれかの方法で確認をすることになります。

④広告活動

お預かりした物件を広告します。これには、ネット広告のSUUMOやHOMESに掲載したり、自社のホームページに登録を行ったりします。

みなさんが見かける不動産物件情報の裏側では、不動産営業マン(事務)が広告の出稿を行なっています。

また、どの営業マンも通る道が、ポスティング(手まきチラシ)です。

不動産は、一つの取引が決まると、何千万・何億と金額が動く世界です。

ポスティングは気の遠い広告活動ですが、効果があり、不動産仲介会社の大手をはじめ、様々な業界のプレイヤーがポスティングに大きな広告費用をかけています。

そして、これには「道を覚える」といった意味合いもあり、営業マンが自らポスティングするケースが多いようです。私も業界に入って初めてポスティングをしましたが、1万枚程巻き続けて初めて反響があった日には嬉し涙を流しました。

⑤購入希望者の現地案内

現地を見たいと問い合わせがあったお客様の対応を行います。実際に現地の物件に車でご案内することが多いですが、現地集合のケースもあります。ここで、自社で預かっている物件であればスムーズですが、他の不動産業者が保有している物件を見たい、となった場合は、その不動産会社に「今は案内可能か」「案内可能な場合鍵はどこにあるのか」「鍵が会社にある場合は、その現地まで行く」ことを、これも電話で確認します。

お客様が「今から見れますか?」と聞かれるケースもあるので、その会社に直接電話するのが一番早いからです。

※不動産業界には、業者専門の不動産閲覧システム「レインズ」と呼ばれるものがあります。「レインズ(REINS)」とは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営しているコンピューターネットワークシステムです。不動産流通機構は不動産業者等により構成され、不動産取引の適正化と円滑化を目的としています。レインズは、不動産業者のみが登録・利用できる不動産ネットワークで、登録すると全国の不動産売買物件の情報が閲覧可能となります。業者専用の不動産ポータルサイトのようなもので、不動産流通にはかかせないインフラ(基盤)となっています。

そのため、他社の物件情報であっても、レインズを通してご紹介することが可能になっています。

⑥重要事項説明書の作成

物件を買いたい、という方に対して、対象不動産の説明をする必要があります。この説明は「重要事項説明」と呼ばれるもので、国家資格である「宅地建物取引士」の独占業務になります。この重要事項説明を作成するために、先述の行政調査や売主様へのヒアリング業務などがあります。

もちろん書面です。

⑦契約書の作成

重要事項説明書と契約書は別です。各項目も重複する部分はありますが、別です。営業マンは重要事項説明書と契約書をそれぞれ作成します。

もちろん書面です(2回目)

⑧重要事項説明・契約

重要事項説明にご納得いただけたら、契約へと進みます。これも長い時には半日かかることもありますが、大切なことなので、しっかりと時間をかけながら行なっていく必要があります。

⑨ローンの手配

お客様がローンを組まれる際、そのローンのお手伝いをすることもあります。金融機関に対して、融資を行う際のサポートをし、書類作成や必要書類の取りまとめなどを行います。

⑩決済

また、不動産取引には「決済」と呼ばれるものがあり、銀行で行われるケースが多いです。

当日は、売主様・買主様・不動産業者・銀行の方・司法書士等が揃い踏みする必要があります。

そして、書類の不備や印鑑の不備が一つでもあると、その際に決済を行うことができません。

平日の午前から行われるケースが多く、この決済を経て、所有者が変わることになります。

◉引き渡し・アフターフォロー

決済を終えて、引き渡しを行います。また、実際に住まれて主要な部分に欠陥があった場合などのアフターフォローも欠かせません。ここまででようやく一つの取引を終えることになります。

まだまだあるこんな仕事

☆物件の管理

これは、会社によりけりですが、特に空き家や空き地を管理していると「草」がボーボーと生えてきます。草の繁殖力や生命力というのは半端ではありません。外注しないと手に負えないこともありますが、不動産営業マンが自ら草むしりをすることもあります。 

☆現地看板・のぼりの設置

現地に「売り物件」と書かれた不動産を見たことがあると思います。あの裏側では、当然設置している人もいるわけで、不動産会社が看板を設置しています。

☆ゴルフ・飲み会・麻雀・ギャンブル

私はほとんどしませんが、休日にはゴルフ・麻雀活動に勤しまれる方も割と多い気がしています。そこから人脈も繋がるのかもしれませんが、趣味の範囲であれば大事なことかもしれませんね。

最後に・これからの業界のIT化を願って

売買契約をまとめるために、日々行なっていることを簡単にまとめてみました。見ていただくとお分かりいただけるかもしれませんが、紙・FAX・郵送・電話、などの出番は多いです。

不動産業界は歴史も長く、市場規模は約46兆円(2019年)と非常に大きなマーケットです。また、様々なアセットが揃っており、不動産投資を一つするにしても、管理会社などを通してほぼ全てアウトソーシングが可能です。

そして業界を取り巻くステークホルダーと足並みを揃えてやっていく必要があるため、どこかでIT化の動きが分断されてしまうのが実態です。

それゆえに、変わらない点も多く、まだまだIT化を進めていくためには、コツコツやっていく必要がありそうです。

しかし本質は、「お客様に喜んでいただくこと」

私は不動産業界に入るまで、とにかく効率を求めて合理化を図ってきましたが、それだけで商売、上手くいかないものだと肌で実感しています。

IT化で労働時間が減ることも大切ですが、それ以前に私たちがやることは顧客満足の追求。

そのために不必要だと感じることは、どんどん削ぎ落としていき、そこが結果としてITに置き換えられるよう、また頑張っていきたいと思います。

私が入って、やっと社内でチャットツールが浸透してきました。導入してみて電話が減りました笑


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