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さようならが言えない

さようなら。ありがとう。
別れは突然にやってくる。
大切な人との大切な思い出。

きっと誰もがあるものだろう。
良いことも悪いことも突然にやってくるのが人生だと思う。

だから私は人との出会いを大切にしたいし、しっかりと同じ空間を共有する時を思い出として大事にしたい。

世界でも日本でも悲しいニュースがある。
それは、今、この時をどれだけ思い出として大事にするかという教訓を私に改めて教えてくれている。

* * * * * * * *

新しい机、広々としたフロアのオフィス。

窓から見える風景はそうだけど、フロアの広さに奥行きがあるから匂いや空気も違ったように感じる。

同じように渋谷のオフィスから渋谷の場所に引っ越しただけだから、空気が違うわけでもない。

ただ、環境が変わるというのはそれだけ自分にも心境の変化があったということだ。

子会社から親会社に異動。
気持ちを切り替えられなくて落ち込んだりしたけれど、顔馴染みの人達が温かく迎えてくれた。ありがたい。

もう年末だ。
渋谷の街は相変わらず騒がしい、頬にあたるツンとした冷気と喧騒。木々のイルミネーションは、夜になるとより元気に明るく光る。

挨拶が終わって席に戻り、
引越しの荷物をあけて小物など机に並べながら、これからの自分を想像してみた。来年はどんな年にしようか。
考えていたら携帯が鳴った。
実家の母からだった。

嫌な予感がした。
仕事中にある家族からの電話で良い電話だった事はほとんどない。

電話に出ると母は言った
「お父さんが救急車で搬送されたって。意識もわからないって。今、お店から電話があって。」

父は都内の居酒屋で働いている。
頭の中が真っ白になった。
動揺している母の話を聴いてみるとビルにあるお店の看板を拭いていてバランスを崩して、落下したらしい。

新しい会社に異動して初日。
私は上司とチームに内容を伝えてすぐに会社を飛び出した。

病院に向かうタクシーの中で、父との思い出が蘇ってくる。

とにかく無事であって欲しい。
母よりも先に搬送された病院に到着。
医師から状況を聴いた。
何日も入院することになるが命に別状は無いとの事。

本当に本当に感謝をした。
良かった。
精密検査を得て、何日も入院して手術を行い、この年は年末年始とバタバタで大変な年だったけど目立つ後遺症もなく今日も父は元気でいる。

居酒屋さんには人が来なくなって仕事を引退してのんびり暮らす事を考えているようだ。

命があって、無事に暮らしてくれている事が私にとって幸せだ。

どれだけ先かわからないけど、父との別れの時には突然ではなく「さようなら」を言いたい。

* * * * * * * *

暑い夏が終わり秋の気配が近づいている。

秋が来ると突然に寒くなる。
あれだけ暑かった夏が、
一気に寒くなる。

まだ暖かいが、夕方になると冷える。
薄いコートでも羽織りたい。

会議を終えて、席に戻りコーヒーで体を温めた。

携帯が鳴った。
家からだった。

嫌な予感がした。
仕事中にある家族からの電話で良い電話だった事はほとんどない。

電話に出ると妻は言った
「長男が救急車で搬送されたって。意識もわからないって。今、スポーツクラブから連絡があって。」

長男は週1回スポーツクラブに通っていた。
頭の中が真っ白になった。
動揺している妻の話を聴いてみるとバスを待つ時になんらかの原因でバランスを崩して、後ろに倒れこみ縁石か鋭利な石が後頭部にあたり切れて血が出ているとの事。怪我の程度も不明だった。

私は上司とチームに内容を伝えてすぐに会社を飛び出した。

病院の最寄り駅には電車で向かった。
家から職場までを結ぶ地下鉄。人生で一番長く感じた地下鉄。
長男との思い出が蘇ってくる。

とにかく無事であって欲しいそれ以外ない。
タクシーを乗り継ぎ搬送された病院に到着。
医師から状況を聴いた。
あと数センチ。あと数ミリ。怪我した頭部の場所や深さがあったら、もっと大事故になっていたとの事。
バチンバチンと大きいホッチキスで頭部の傷を止めて止血した。

本当に本当に本当に感謝をした。
とにかく無事で良かった。
何日か安静で、簡単なリハビリなど心配したけど目立つ後遺症もなく今日も長男は元気でいる。

先日、小学校を卒業して今月からは中学生。

命があって、無事に暮らしてくれている事が私にとって幸せだ。

どれだけ先かわからないけど、長男との別れの時には突然ではなく、ちゃんと「さようなら」と言って現世から私を送り出して欲しい。

* * * * * * * *

桜が散っている。
例年のような桜が主役の花見やお祭りなどは全て延期や中止になった。

2020年4月。
世界が日本中がウイルスと戦っている。

子供達が通っていた小学校は3月から休校となり、
子供も家の中に籠っている。

学校が再開すれば、友達にも会える。
ウイルスが落ち着いたら、何にも脅えずに外で元気に遊ぶ事もできる。

1ヶ月の自宅での生活は子供達にどんな影響があるだろうか。

東京都では日ごとに感染者が拡大して登校の再開日がゴールデンウィーク明けまで延期となった。

色々な意見があると思うが私個人としては、ほっとした。安全が一番だ。

勉強はいつでもできる。
命があって、無事に暮らしてくれている事が私にとっては幸せだ。

長女のクラスの先生から学級だよりが届いた。

そこにはクラスで引っ越しをした子の名前が書いてあった。
長女と仲良く遊んでくれていたお友達だった。

長女なりにショックを受けたようで、私に絵日記を書いてくれた。
何か私に伝えたい事があると絵日記で伝えてくれる。

「さようならが言いたかった」

さようならを直接、言えなかった。別れと同じくらい寂しいと。

引っ越しの理由も場所もわからない。

大人になって、もっと前に高校生や中学生で再会できるかもしれない。

長女は再会を楽しみにしているようだ。

「どうかそれまで、さようならお元気で。」

どうかお元気で、笑顔であなたにまた会いたい。

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