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【短編小説】友達に追加しました

僕には、一人も友達がいない。
通っている高校でも同級生とほとんど話したことがない。

昔から人と関わるのが苦手だった。
それが悪いこととも思っていない。

誰も僕を理解しようとしないから、僕も誰かを理解しようとしない。
そう考えてこれまで生きてきた。

ただ、世の中それではまかり通らないこともある。

「お前、学校に友達がいないそうだな」

ある日、父親が僕に言った。
親というものは、時に非常にややこしい。
自分の子供を、世間の”普通”に嵌め込みたがるのだ。

「友達ならいるよ」

こういう時のため、僕は事前策を打っていた。

「同級生に、ユースケってやつがいてさ。
 そいつとだけは仲が良いんだ」

もちろんデタラメである。

「なら、証拠を見せろ」

僕は、”ユースケ”とのトーク画面を父親に見せた。

「どうして、友達がいないって決めつけるの?」

そう聞くと、父親は苦虫を噛み潰したような顔で僕の前から去っていった。
我が父親ながら、本当にデジタルに疎い男だ。
僕は、LINEの友達リストから”ユースケ”を削除した。

“ユースケ”は、僕の家にある置物同然のiPadで作った架空のアカウント。
実在しない人間だ。

こんな日が来ると思って、偽アカを作って設定まで練っていたんだけど。
こうもあっさり躱せるとは。なんだか拍子抜けしてしまった。

そう思った直後、スマホに通知が届いた。

ユースケがあなたをLINE IDで友達に追加しました

文字列を見た瞬間、寒気が走った。
こんなこと、起こり得るわけがない。

僕は再度、”ユースケ”を友達リストから削除した。
続け様に、自分の机の引き出しに入れていたiPadを取り出してLINEを開く。
慣れない手順を踏みながら、僕は”ユースケ”のアカウントを消し去った。

これでいい。
治らない動悸を感じながらも、僕は一度眠ることにした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

朝、スマホの画面に目を落とした僕は愕然とした。

ユースケがあなたをQRコードで友達に追加しました

アカウントごと削除したはずなのに。
戸惑う僕に、一通のLINEが届いた。

そう、“友達が一人もいない”はずの僕に。

震える手でメッセージを確認する。

ユースケ:ブロックすんなよ?話を最後まで聞け!

内容的には、そこまで怖いわけではない。
…いや、送り主の正体がわからない時点で怖くはあるんだけど。

呼吸を落ち着けて、僕は返信を打った。
考えてみれば、両親以外に初めてLINEを送ったかもしれない。

大樹:あなた、誰ですか?

間髪入れず、返信が届く。

ユースケ:ユースケだよ。お前が考えた架空の友達

…そんなバカな。
もしかして、父親にしてやられたのかも。
僕はそう結論づけて返信を打った。

大樹:父さん、冗談ならやめて

すぐに返事が来る。

ユースケ:父親にこんな遊び心ないことぐらい、お前が一番わかってんだろ

もっともだ。
父は、こんなことするタイプじゃない。

大樹:じゃあ、あなた誰なんですか。
ユースケ:だからユースケだって言ってんだろ!何回聞くんじゃアホ!

なんだか恐怖感が薄れてきた。
というか、こいつ。
僕が考えた”ユースケ”の設定に忠実だ。

“ユースケ”は、僕とは正反対で。
相手を理解しようと努力し、自分も理解されようとすることを惜しまない。
底抜けに明るくて、僕みたいに浮いているやつにも分け隔てなく接する。

大樹:何が起こってるのか理解できないんですけど
ユースケ:お前、そういう傾向あるよね。理解できないものを受け入れない感じ
大樹:この状況は大半の人が受け入れられないでしょ
ユースケ:それは一理ある

…よくわからないけど、論破してしまった。

大樹:何が目的でこんなことを?
ユースケ:本当はわかっちゃってるんじゃないのー?
大樹:わからないから聞いてるんです
ユースケ:そう怒るなって
大樹:何がしたいんですか?
ユースケ:本当は友達欲しいんだろ?

一瞬、胸の奥がヒヤッとした。

大樹:別に
ユースケ:ウソつけ
大樹:何でそう思う?
ユースケ:俺の設定考えてる時、めちゃくちゃ楽しんでたじゃん
大樹:必要だったから
ユースケ:恋に悩んでる俺に大樹がアドバイスしたって設定、いつ必要なんだよ

なんで、僕しか知らない情報を知ってるんだ。
設定ノートは、今僕の机の中にあるはずなのに。

ユースケ:友達欲しんだったら、素直になれよ
     誰かに理解されようとする努力も必要だよ
     なんだかんだいって、
     人間一人じゃ生きていけないんだからさ

…そんなこと、僕だってわかってる。

ユースケ:この会話だって、楽しいと思い始めてるだろ?
     友達いれば、毎日これができるんだぜ
     俺はそろそろ行くから
     頑張ってリアルな友達作れよ
大樹:行くって、どこに?
【ユースケがトークルームから退出しました】

その後、何故かiPadの電源がつくことは二度となかった。
修理してもらったりバッテリーを入れ替えてもらうことも考えたけど、そうはしなかった。

あれから数年が経って、僕にも何人か友達ができた。
でも、iPadも設定ノートもまだ机の中にしまってある。

結局、あの出来事の真相はわからないけど。
僕の人生を変えるきっかけをくれた”最初の”友達から、いつか連絡が来るかもしれないから。

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