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知らないおじさんと”通”な私


回転寿司でタッチパネルを操作する際、みなさんは一通り眺めてみる派だろうか。それとも食べたいネタのページだけを開いていく派だろうか。

私は、最終的には前者になる。1、2皿目まではなんとなく食べたいものが決まっているものの、あとは期間限定をチェックしたり恒常メニューでも何があったか確認してみたり。どうせ頼まないのにアルコールエリアも見て、お寿司は安いのにこちらは……? と思ったりもする。


なんやかんやで毎回似たり寄ったりなラインナップにはなるものの、急に何かが琴線に触れて注文したくなるかもしれない。そんな気持ちで一つひとつ丁寧に見ていき、やはりそのままスルーしていくのだった。



そのなかで、マグロのページになるといつも複雑な気持ちになる。何もタップせずに次のページへ移ろうとするとき、幼少期に知らないおじさんから言われた「通だねえ」という言葉が蘇ってくるのだ。


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知らないおじさんとは言ったものの、寿司屋でたまたま席が隣になった完全なる他人というわけではなく、葬儀関係の席に参加したときに出会った人である。とはいえ親族なのか故人の友人なのかもわからないので私にとっては”知らないおじさん”なことに変わりはないし、ひょっとしたら向こうも私が誰の娘なのかわかっていなかったのではないかと思う。


ちゃぶ台の上には大きな黒塗りの寿司桶が置いてあって、その前におじさんは座っていた。私はおそらく親にでも「お寿司を食べていいよ」と言われ、迷わず赤身のマグロを手に取った。そのとき、おじさんが「通だねえ」と嬉しそうな声をあげたのである。


もちろん通ぶりたかったのではなく(「通」という概念も知らないような年齢だった)、当時は赤身のマグロが本当に1番好きだった。

子どもの好きな寿司ネタといえばサーモンというイメージがあるが、その順位が逆転したのは少し後になってから。そして今もそのまま……。序盤に炙りサーモンや炙りマヨとか食べると幸せな気持ちになる。後半になるとクドくなるから気をつけて!


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言われたときは「通」が具体的に何かはわからなかったものの、とりあえず褒められているような気がして非常に得意げになったことは覚えている。マグロ好きであることはカッコいいことなんだとさえ思った。


しかし先ほど触れたように、いつしかサーモンのほうが好きになった。さらに学生になってからは「頭に良いから」というある意味邪な理由で青魚を食べるようになった(めでたく好物になりました)。つまりどんどんマグロの出る幕がなくなってしまったのである。


回転寿司なのだから好きなものを食べればいい。しかしマグロのページを見る度に「通じゃなくなっちゃったよ、おじさん」と思ってしまう。初対面から今に至るまで一貫して知らないおじさんなのに、この影響力たるや。




もう一生あの人が誰なのかわかる日は来ないだろうけど、私の心の中にはずっと居続けるのだろうなと思う。そしてマグロを見つけるたびにニコニコと笑うのだ。




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