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本棚に常駐させたくなった、「玉手箱」


とある小説を探しに、図書館を訪れた。


その本はめでたく発見されたが、せっかく来たのにそれだけでは味気ないと、他の棚もついでに覗いていく。


こういうとき、エッセイコーナーは必ずと行っていいほど立ち寄る。ここんところ、図書館に行くのはエッセイ本を探すためか、ほかの本を選ぶついでにエッセイを探すという2パターンだ。



現在行きつけの図書館はこぢんまりしているが、エッセイというカテゴリーによるものなのか、そのときの心の具合によって目に入りやすいタイトルが変わってくる気がする。そのため、実は前から並んでいたとしても「こんな本あったんだ」と新鮮な気持ちになれるのだった。


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今回、一目惚れした本は、ヨシタケシンスケさんの『欲が出ました』(新潮社、2020年)である。


気づいたらブームになっていて、書店やメディアでどんどん取り上げられ、その確かな技術と勢いのまま「定番」の立ち位置へ君臨された作家さんというイメージ。しかし、ブームに乗り切れない性分の私なので、ちゃんと読んだことは今までなかったように思う。


しかし、この日は急に「借りて帰らなきゃ」という衝動にかられた。実はこの『欲が出ました』は続編で、1冊目の『思わず考えちゃう』も隣にあったのだが、フィーリングを優先させていただいた。「はじめに」でも、「前作を読んでいなくても大丈夫です」と書かれていたのでセーフということにしたい。


内容としては、あの素朴でかわいらしいタッチのイラストがあって、それについての解説がエッセイとして書き留められているというもの。1つひとつが長くても3ページなので、寝る前とかスキマ時間に読める。と言いつつ、私は一気に読んじゃったのだけど。



読み始める前は、ヨシタケさんのイラストに癒やされたい、と思っていたのだが、最終的には彼の言葉にも心を包み込んでもらっていた。


毎朝つぶやきたくなるフレーズ、心にストンと落ちた言葉、作品を作る上で忘れないようにしたいこと、お題になりそうなこと、そして大げさかもしれないけど、人生のめあての1つにしたいこと……まるで、玉手箱のようだった。



例えば作品作りについて。イラストは、ラーメン屋さんの寸胴に入ったスープの表面をおたまで撫でているようなシーンである。

スープを器に入れるとき、最初に寸胴の表面に浮いているネギなどの材料をおたまでどかす。欲しいものは下にある「抽出されたもの」で、そのためには上にたまった不必要なものを取り除かねばならない。そしてそれは、作品を作る上で、本当に伝えたいことを表現しようとするときと同じなのだという。

 ついつい何か表側の余計な部分も、すくっちゃったりするんですよね。でも、そういうのをどかさないと、本来のものが伝わらなかったり、おいしくなかったりすんじゃないか。
 その一連の作業をきれいにできたら気持ちいい、作品作りにおいても、そうだなって考えました。

ヨシタケシンスケ『欲が出ました』27ページ。



余計な部分を排除すべし、というのは以前から頭ではわかっていたことだが、それがラーメン屋さんのスープと絡んで表現されたとき、私のなかで鮮明度が1つ上がったような気がした。そうだよね、色の抜けた細かい野菜が混じっていたら「あれ?」ってなるもんね……。


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手元に置いておいて、定期的に確認したい。そんな本だった。読み終わったあとは付箋がいくつも飛び出ていて、その箇所を書き留めるのも楽しい時間だったし、ここから自分の思考が広がっていくような、晴れやかな気持ちにもなれた。

とりあえず、前作も確実に借りに行きます。





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