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『メジロマッチ』⑪

前回までのお話          

 入場門の裏で間野は、汗をたらしながら“フーッフーッ”と荒い呼吸をしていた。

 私たちは心配になって間野を囲んだ。

「大丈夫やで、間野ちゃん」

「緊張せんでええからな」

「二十メートルや、トップから二十メートル以内に戻ってきたらなんとかなるさかい」

 私たちの言葉に間野は“ウン、ウン”と強く頷いた。よく見ると眼が血走っていた。

 緊張しているのかと思っていたが、どうやら違って、間野は気合がみなぎりすぎているようだった。

「サムライや! 間野ちゃんはサムライなんや!」と町田がおかしなことを言い出した。

「負けると分かっている、戦(いくさ)にのぞむ侍の眼や!」

 子供らしい想像力で大げさなことを考えて私たちは胸を高鳴らせた。

 快晴の空がなぜか、負けるのにもってこいの日だなという気分にさせた。それでもわずかに、なにか期待させるものがあった。

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