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『メジロマッチ』⑧

これまでのお話:六年四組リレーメンバーの自主トレーニングは、その様子を見た他クラスの担任にイジメと誤解されるほどの熾烈さだった。
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「違うねん! オレら間野ちゃんのことイジメてたわけやないで」
 町田が説明しようとしたが、的場先生は聞く耳を持たなかった。

「なに言うてんの! この子『やめて! やめて! 僕馬やあらへんで!』言いながら泣いてたやないの!」

「・・・・・・違うねん、先生、ボクイジメられてたわけやのうて、なんて言うか・・・・・・」
 間野がなんとか誤解を解こうとしたが、的場先生の圧に押されてしまい、怖じ気づいて言葉が詰まった。それでよけいイジメられっ子みたいに見えてしまった。

「あんた、恐がってこんな子のこと、かばう必要ないねんで」

 的場先生は私たちのことを職員室へ連れて行くと、担任の岡田先生にイジメを報告した。

「違うねん、先生、べつに間野ちゃんのことイジメてた訳やないねんで!」

 町田が必死に説明するあいだ、的場先生がずっと恐い顔で私たちのことを見ているのに対して、岡田先生は何だか笑っているような顔つきで、おもしろそうに、「ふん、ふん」と話を聞いていた。

「そうか、――花子はどう見えた」
 岡田先生は、呼ばれてもないのに私たちのあとに着いて来ていた花子に聞いた。

「楽しそうやった」

 花子ががそう答えると、岡田先生は満足げな笑みを浮かべた。

「そうか、勘違いして、疑ってかんにんな」

 岡田先生がボクらに謝ると、的場先生は「信じられない」と言った表情で彼のことを見た。

「でもなぁ、やっぱりお尻ペンペンは、いただけんなぁ。そらあ見てる人に『イジメてる』思われてもしかたないで。的場先生に心配かけたんやから、そこは反省してや」

 岡田先生が本当にそんなこと思ってるのか疑わしい、のんきな口調で言うと、間野も先生につられてしまたかのような、のんきな口調で、

「せやけどぉ、本当にお尻叩かれたら、ちょっとだけ、はよう走れてんで」
 と言った。

 その言い方が、なんだかおもしろくて、私と町田は“クスクス”と笑った。

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