バックパッカーズ・ゲストハウス㉕「五百メートル先のトイレを借りに行く生活」
前回のあらすじ:ゲストハウスの二階は女性専用ルームで、坊主頭の帰国子女とライブハウスでバイトする韓国人。私の前には一度も姿を現さないメイドが住んでいた。【これまでのお話https://note.com/zariganisyobou/m/mf252844bf4f2】
三階には、背が低くて髪の毛がやたら硬そうな村田と、浪人生みたいなナリのフリーター三津谷、このゲストハウスでは珍しく、ちゃんと社員としてサラリーマンをやっている石田という二十代の男が三人と、先に書いた高田。――高田はこの年八月におこなわれる衆議院選挙に東京で立候補するために、前年、四国から出てきていたが、委託金がまだ用意できていなかった。――それと、陰で「犯罪者」と呼ばれる三十代前半ぽいカップルがいた。カップルは二人でひとつのベッドを使っていた。ワケありに違い無さそうだったが、他の住人とコミュニケーションをとるタイプではなく、結局素性は分からない。
四階には初日私にゲストハウスを案内してくれた大男の中谷さんがいた。彼は寮長みたいな感じで、こまごまとしたゲストハウスの雑務をおこなっていた。ビギンの部下というわけでも無さそうだったが、たぶん手伝いをする代わりに、家賃を安くするとかそういう特典を受けていたと思う。他には生粋のオタクで、給料が安くて拘束時間の長いIT関係の職場で働いている吉野。インドネシアから勉強に来ているニキ。ニキは国へ帰ればそれなりに裕福な実家があるが、親からの仕送りは受けずに、マクドナルドのバイトで月二十万稼いでいた。調理関係の専門学校を、この春卒業したが、国へ帰った後に自分でビジネスをやるため、更に役に立ちそうなことを学ぼうと、今度はコンピューター関係の学校に入学していた。
五階にはヘビースモーカーの仰木と秋葉原で拾ったものを、ヤフオクとレンタルBOXで売りさばいて収入を得ているギョロ目の斉藤がいた。それと、セカンドハウス的な使い方をしていて、たまに現れるデカいニューハーフ。このニューハーフも、「犯罪者」と同じで余りコミュニケーションをとらないタイプだったので、どんなヤツだったのか詳しくは知らない。
入居した当初に居た面子はこんな感じだった。私がゲストハウスに入る少し前に、オレオレ詐欺で住人が五、六人まとめて逮捕されたらしく、空いているベッドは多かった。
トイレは各階に一つずつあり、他の階は覚えていないが三階は和式だった。先にも書いたが私はメシとクソとフロが遅い。その上クソには神経質だったので、ここのトイレは気に入らなかった。駅の東側、昭和口にあるデカい「ヨドバシカメラ」のトイレが綺麗で個室も多いことを発見してからは、緊急事態でもないかぎり、毎回五〇〇メートル歩いてヨドバシカメラまでトイレを借りに行った。
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