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「Princess」

「雪よりもツリーよりも君が綺麗だ」

使い古されたような臭い謳い文句が私には憧れだった。

昨日見た映画でも似たようなセリフを聞いたような気がしたが、半分以上はホットケーキの夢を見ていたので定かではない。

ただあの映画のヒロインは、ヒロインという言葉に相応しいような美少女で。フレアのスカートを翻すたびにすれ違う男性は皆振り返る。そんな女性だった。

幼い頃はずっと大きくなれば私もああなって、王子様が迎えに来るのだと信じていた。

けれどある時、王子様の横にはお姫様しか並べないことを知って、お姫様になれるのは可愛いを手にした限られた人たちであると分かって、恋というものに興が冷めた。

それから私は目指すものを変えた、お姫様にはなれないがせめてもお姫様と同じ明るい街で笑っていたかった。

冬の冷たさを感じないように。

私は自らに催眠をかけて、ピエロになった。

冬の冷たさに麻痺するように。

一人であると気づいてしまわないように。

「危ない」

唐突に手を引かれてハッと顔を上げた。

つまらないお話を思い出していた。

顔を上げた先。イルミネーションの光は痛いくらいに眩しいのに、

目の前にいるその顔はその光さえ霞ませるほどにキラキラ美しくて息を呑んだ。

「綺麗」

言ったというよりは溢れたに近い言葉だった。

騒がしい人混み、けれど彼はその言葉を拾ってコートから出した左手で私の顔を包み込んだ

「一番綺麗」

血の流れが早くなってみるみるうちに体温が上がっていくのを感じた。

これから飲もうとしているホットチョコレートなんかより何十倍も甘い言葉に心臓だけじゃない指の先まで脈打っているのを感じる。

王子様の横には・・・。

コンプレックスを抱えた女の子はお姫様と比べられたくなくて顔を隠してピエロになった。

けれど彼女の前に現れた王子様は、お姫様には目もくれず、ピエロに恋をしピエロのお面を剥ぎ取った。

ピエロは数年ぶりに本当の自分を見た。

ピエロの中の女の子はお姫様になっていた。

人生で初めて恋をして、お姫様になっていた。

「雨降ってきた。」

冷めかけのホットチョコレートを飲み干した彼が空を見上げる。

雪だったらロマンチックだったのにな、なんてわがままにもそんなことを思って、

「また見に来ようね」

と彼の手を握った。

その時には雪が降っているだろうか。

「ねえ写真撮ろう?」

帰り際ツリーの前。

始まったばかりの柄にもない私の”プリンセスストーリー”を一つ一つ綴るように私はカメラのシャッターを切った。


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