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「気兼ねなく」が、できている

昨年末から出張が増えている。とある不動産メディアに掲載する、全国津々浦々の“イチオシ物件”を取材するためだ(私の仕事はWebメディアの編集です)。

2021年頭に前の会社を辞め、定職に就くでもなく1年ほど雑に暮らし、重い腰を上げて入った今の職場はほぼリモート、出かけるとしても都内の客先訪問がせいぜい。そんな生活を続けていたので、この出張の多さは久々である。

先週も突発的な出張が入ったが、たまたま実家が近いところだったので、そのまま数日のあいだ帰省することにした。こういうとき、リモート職と、文句も言わず迎え入れてくれる母のありがたみを感じる。

私は、年末年始や盆以外の時期に帰省するのが好きだ。いわゆる長期休暇のシーズンは、真夏か真冬に固定されてくるが、ともすれば帰省は「夏(冬)の風物詩」となり、季節性イベントに変わっていく。

でも、当たり前のことだが、実家にも地元にも、夏と冬以外の季節がある。今回のような時期に帰省すると、そんな当たり前に気づかされるし、浮き足立ってない日常の地元の方が、しっくりくると感じる。

帰省すると、母はいつものとんかつ屋に連れていってくれる。県内に数店舗あるローカルチェーンで、コストパフォーマンスが高く、おいしいのだ。

今回は、三連休中日の夕食どきだったこともあり、店内は混雑していた。やむを得ず、母も私も苦手な座敷の席を選択し、とんかつの到着を待っていると、近くの家族連れの中の子どもが、おもむろに窓のブラインドを下げた。

まもなく日の入り、という時間だったので、直射日光はほとんどない。それでもブラインドを下げたのは、外から見られないようにするためだろう。子どもは小学校高学年〜中学生といった様子で、ああそういうもんだよな、私は思った。ブラインドを下げたあと、その子は家族に席替えを要求し、通路側に移動していた。

見知らぬ子どもの思春期ムーブ(推定)を眺めていると、とんかつ定食が配膳されてきた。私は必ず、ロースかつと2尾のエビフライがセットになった定食を注文する。母がおひつに入ったご飯をよそい、私が玉ねぎ風味のドレッシングを千切りキャベツにふりかけ、和辛子を食器の端に添える。

やっぱりうまいんだよなあ。味噌汁おかわりいる? あんた、ご飯もう一膳食べる? とんかつを口いっぱいにほおばりながら繰り広げる、いつも通りの会話。30を超えた今、別に誰に見られたっていいし、こうして気兼ねなく、母ととんかつを食べられる日があることが嬉しい。

あの子にも、ブラインドを気にすることのない日が、早く訪れますように。また出張が入らなければ、次の帰省は、父の一周忌だろう。

<追記>
MVに据えている写真は、今回登場したとんかつ屋のものではありません。本当に気兼ねなくパパッと食べてしまうので、写真を撮ってこなかったようです。ちなみに写真のとんかつ屋(都内)も名店ですが、たぶん閉店してしまったようで…残念でなりません。

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