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#10 デザインのデザイン 著:原研哉(私の本棚④)

「私の本棚」の第四弾目はこちら、「デザインのデザイン」 初版の発行は2003年、原研哉さんというデザイナーの本です。

私にとって、もっと早くに出会っていれば私の人生も変わっていたかもしれないと思える本で、デザインに関する大学・仕事を志す高校生や大学1年生に読んでもらいたい本でもあります。

著者の原さんは出自としては主にグラフィックデザインの領域の方ですが、企業のブランディング戦略(後で述べる無印等)や展覧会のキュレーター、武蔵野美術大学の教授など、様々な場所で活躍されている日本で一番有名なデザイナーと言っても過言ではありません。前回記事で「集落の教え100」を紹介した際に、

巷に溢れているデザインの本は、哲学的あるいはデザイン理論のような堅いものか、著者の自伝的なもの、あるいは「プレゼン必勝法」のようなハウツー本のどれかである場合が多く

と書いたのですが、この本は1章で20世紀のデザインの歴史をさらい、2章で自分がキュレーションした展覧会の紹介、その展覧会の意図を通して「デザインとは?」ということを考えた後に、3章以降で自分が携わったプロジェクトとその時に考えていたことが書かれており、上記でいうところの「著者の自伝的なもの」ジャンルに分類されるものかと思います。

少し内容を紹介していきます。

第2章「リ・デザインー日常の21世紀」では「デザインとは何か?」ということについて、原さんなりの回答が書かれています。

アートは個人が社会に向き合う個人的な意思表明であって、その発生の根源はとても個的なものだ。(中略)一方、デザインは基本的には個人の自己表出が動機ではなく、その発端は社会の側にある。社会の多くの人々と共有できる問題を発見し、それを解決していくプロセスにデザインの本質がある

と書かれています。こういった考えが根底にあるため、原さんの作品はいつも社会と向き合い、日常にひそむ様々な違和感や気づきをきっかけにデザインを進められています。そのため、原さんがデザインされたものを見たり、触ったりする人は、そのものを通して、新たな日常を「発見」したように感じるのだと思います。

第4章「なにもないがすべてある」では無印良品のブランディングのプロジェクトについて書かれていますが、それについては以前の記事で少し触れたことがありますので、今回は割愛します。過去記事はこちら。

今回話がしたいのは特に第5章についてです。第5章のタイトルは「欲望のエデュケーション」 この章の中で原さんは「デザインという営みはどこに向かえばいいのだろうか」と読者に問いかけます。

原さんは、日本の自動車メーカーを例に挙げて、「国産車は外車と比べて美意識が足りないとか哲学が不足している」という話があるが、これは日本の自動車メーカーがこれまで、マーケットを精密に「スキャン」し、その要望に応えて品種改良を行ってきた結果であり、日本人の欲望の水準がその程度だということの裏返しでもある、と述べています。さらにズバリのところとして、

センスの悪い国で精密なマーケティングをやればセンスの悪い商品がつくられ、その国ではよく売れる。センスのいい国でマーケティングを行えば、センスのいい商品が作られ、その国ではよく売れる。(中略)問題はいかにマーケティングを精密に行うかということではない。その企業がフランチャイズとしている市場の欲望の水準をいかに高水準に保つかということを同時に意識し、ここに戦略を持たないと、グローバルに観てその企業の商品が優位に展開することはない。

と書かれており、これが章題の「欲望のエデュケーション」の主旨です。他にも日本人の生活環境という点で、建売住宅の水準の低さなんかについても語られて、うなずくばかりです。

私は大学の4年間で建築を学び、それまでの「建築」や「住宅」に対する価値観が大きく変わりました。自分の価値観が変わり始めると、日本の住宅街の街並はなぜパッとしないのだろう、もっと建築家が設計した住宅や気合の入った住宅が増えれば面白いのにそれができないのはなぜだろう、ということが疑問になってきます。(そういった課題意識からも、卒業設計では「生活」や「住む」ということに焦点を当てたものを制作しました)

そんな疑問をモンモンと考えながら、大学院に入るか入らないか、くらいでこの本を読んだので、この日本の住宅街の街並の問題について「消費者側のセンスの問題マーケティングの手法の問題が大きく関係している」という視点は完全に目から鱗でした。この本をきっかけに「住教育」を研究テーマにしようと思ったくらいです。

自分が研究したいテーマをより明確にできなかったこともあり、紆余曲折を経て、まちづくりや地域コミュニティに関するものに落ち着きましたが、この本は今でも私の本棚にあって、何か「もやもやした探し物」があるときに、たまに読み返すようにしています。

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過去記事はこちらから


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