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20050603 温室効果(3)

 金星$${^{*1}}$$は、太陽からの距離が地球までの距離の$${3/4}$$ぐらいなのに表面温度が$${500℃}$$にも達しているらしい。金星はその大気の温室効果によって表面温度が高温になっていると考えられている。

 では金星の大気に温室効果$${^{*2}}$$がなければ、金星の表面温度はどれくらいになっていたであろう。簡単な計算で考えることができるようだ。

 金星の表面温度の原因は太陽からの放射のみと考える。太陽から金星の軌道の辺りには一平米当たり大体$${2600W}$$の熱が降り注いでいる。地球の辺りは$${1370W}$$である。太陽の放射は四方八方に広がるので放射の強さは距離の自乗に反比例する。従って太陽までの距離が金星は地球までを$${1}$$とすると$${0.72}$$なので、$${1370÷(0.72)^2}$$で大体$${2600W}$$になる。

 金星の昼間側に降り注ぐ熱は一平米当たり約$${2600W}$$になる。半球全体に降り注ぐ熱の総量は、金星の断面積に降り注ぐ熱の総量と同じなので、その量は$${2600×π×(金星の半径)^2}$$で計算できる$${^{*3}}$$。

 降り注いだ熱によって金星が温められる。金星の表面がある温度になった時、その表面から放出される熱の総量は表面温度の四乗に比例する。太陽から降り注ぐ熱は赤外線として宇宙空間を伝わってくる$${^{*4}}$$。金星が温められて宇宙空間に放出する熱も赤外線である。金星の表面温度が一定ならば、熱の出入りは同じになっているはずである$${^{*5}}$$。入ってくる熱の方が多ければ金星の表面温度は高くなり続け、出ていく熱の方が多ければ温度は下がり続ける。同じならば、太陽から降り注ぐ熱の総量と金星が放出する熱の総量とは同じになる。

金星の表面が赤外線を含むどんな波長の電磁波でも吸収してしまう仮想的な物質で構成されていると仮定する。こういった物質を黒体$${^{*6}}$$と呼ぶ。ある温度の黒体から放出される熱の一平米当たりの量は、$${5.7×10^{-8}×(黒体の絶対温度)^4}$$で表される$${^{*7}}$$。金星の全表面から熱が放出されるので、その表面積を乗じた$${5.7×10^{-8}×(黒体の絶対温度)^4×4π×(金星の半径)^2}$$が総量となる。本当の黒体はこの世に存在しないので、この式に放射率$${( < 1)}$$を乗じる$${^{*8}}$$が、ここでは金星を黒体と仮定したので放射率は1とする。

 実際の金星は硫酸でできた雲が全体を覆っているので$${^{*9}}$$、太陽の光をよく反射する。金星が良く輝くのはこの所為である。太陽の熱は全部地表に届かないので、$${1}$$以下の定数を太陽から降り注ぐ熱の総量の式に掛けておく。以上から

$${(1以下の定数)×2600×π×(金星の半径)^2}$$
$${= 5.7×10^{-8}×(黒体の絶対温度)^4×4π×(金星の半径)^2}$$

 これより

$${(黒体の絶対温度) = ((1以下の定数)×2600÷(4×5.7×10^{-8}))^{1/4}}$$

となる。金星の場合、 ($${1}$$以下の定数)は$${0.22}$$となる。これは金星の反射の度合い(アルベド)$${^{*10}}$$を$${1}$$から引いた値である。この値を入れて計算すると金星の表面温度は$${220K}$$となる。計算で出てくる温度は絶対温度$${^{*11}}$$なのでこれを摂氏に直すと$${-53℃}$$になる。金星の大気に温室効果がないと$${500℃}$$の灼熱地獄が極寒の世界になってしまう。同様に地球の場合を計算すると$${-18℃}$$$${^{*12}}$$でかなり寒い。

 だが考えてみると変である。地球より太陽に近い金星の方が温度が低くなってしまった。どう考えればいいのか。

*1 20050602 温室効果(2)
*2 20050601 温室効果
*3 火星の放射平衡温度を示す式とその説明をして欲しいのですが…【古典物理】
*4 第1章:リモートセンシングで得られるデータ
*5 20041228 ラジオメータ(4)
*6 黒体輻射
*7 温度計に関する一口メモ〈1〉
*8 USHIO LIGHT EDGE
*9 惑星を知ろう...[ 金 星 ]
*10 美星町 星のデータベース
*11 20031221 華氏
*12 地球惑星科学II第2回 2016年10月13日 2.大気圏と熱収支2–1惑星表層の熱収支の基礎

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