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20060829 一兆マルク

 三菱東京UFJ銀行の貨幣資料館$${^{*1}}$$に行った。大判$${^{*2}}$$小判$${^{*3}}$$や世界の古い貨幣$${^{*4}}$$が展示してある。

 中でも興味深かったのは、第一次境大戦後に超インフレ状態のドイツで発行された一兆マルク硬貨$${^{*5}}$$である。写真だと金貨に見えるが、実際はくすんだ銀色をしていた。世界最高額面の硬貨らしい。

 いくらインフレ$${^{*6}}$$だといっても「一兆」というのはすごい。普通の感覚から完全にかけ離れて過ぎている。普段の生活では一兆なんて数字を使わない。冗談でも出てこない。「これ、結構高かったぞ」「へぇ?一兆円ぐらいか?」と言われてもピンと来ないのである。余りにも桁が大きいので感じが掴めないから冗談にならない。

 物の値段が急速に上がる、貨幣価値が急速に下がる$${^{*7}}$$というのが判りにくい。極端に言えば、午前中はどこの店でも百円だったのが午後には百五十円になっている、という状態なのだろう。1920年代のドイツでは実際にそんな状態になっていたらしい。1923年の七月から同年の11月の間に物価が370万倍$${^{*8}}$$にもなってしまったらしい。五ヶ月間毎日10%も物価が上昇した計算になる。一割というのは大したことがないような気がするが、今日は百円だったのが十日もすれば2.6倍の二百六十円だから凄まじい状態である。

 売買する物資の量がそれ程変わらないのに貨幣だけは増刷され流通するので、物価がどんどん上昇する。物価が上昇するので額面が小さいままだと数日後には商取引に多量の紙幣が必要になり不便だから$${^{*9}}$$、次から次へと新しく高額面の貨幣を発行$${^{*10}}$$する。既に出回っている小額貨幣を回収する暇などないだろうから市中には更に貨幣が増えることになってインフレが進行したのだろう。百兆マルク紙幣$${^{*11}}$$というのも発行された。この紙幣には「Hundert(100) Billionen(女性名詞、複数形)」と書いてあるが、ドイツ語ではBillionは一兆を意味する$${^{*12}}$$らしい。十億はMilliardeと言うようだ。西欧語では数詞が少し混乱している$${^{*13}}$$ので判りづらい。

 1923年には一兆マルク硬貨$${^{*14}}$$の他に、一万マルクや五千万マルク硬貨$${^{*15}}$$も発行されたらしい。同じ絵柄で額面に一億倍も差がある硬貨というのも凄い。それにマイセン$${^{*16}}$$で作った陶器の貨幣$${^{*17}}$$も発行されていたらしい。

*1 三菱東京UFJ銀行貨幣資料館:三菱東京UFJ銀行
*2 天正大判:三菱東京UFJ銀行
*3 江戸時代の貨幣1(小判・丁銀):三菱東京UFJ銀行
*4 代表的な展示貨幣:三菱東京UFJ銀行
*5 Notgeld_1923.jpg
*6 ハイパーインフレ - [マネー用語集]All About
*7 ドイツの超インフレについて
*8 Hyperinflation in 1923 Germany
*9 When hyperinflation drove Germans to use money as kindling | Mashable
*10 World Paper Money Catalog and History
*11 100 Billionen Mark 1924. Rosenberg 137a.
*12 10 trillion mark note (note that \"Billion\" in German = \"trillion\" U. S.) from German inflationary period of 1920s | Germanic tribes, Marks, Notes
*13 20000514 million
*14 Notgeld_billion_mark.jpg
*15 Notgelder_1923.jpg
*16 Meissen
*17 German coins and currency

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