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20070312 般若

 般若とは、もともと梵語$${^{*1}}$$で「智慧」という意味らしい。仏教用語では悟りを開いた時の根源的な智慧とも解されている。般若心経$${^{*2}}$$の般若はまさにこの根源的な智慧という意味であろう。

 能楽に使う鬼女の面で「般若$${^{*3}}$$」と名付けられたものがある。「般若」というと仏教用語や般若心経ではなく、まず面の方が頭に浮かぶ。

 この面の名前の由来は何か。怨みや悲しみを表現している面なので、本来の「般若」の意味とかなり食い違っている。これは昔、般若坊という有名な面打ち$${^{*4}}$$がいて、この鬼女の面を作るのが特に素晴らしかったので、面その物がそう呼ばれるようになったらしい。これは庖丁や出刃庖丁の語源$${^{*5}}$$によく似ている。

 別の語源説もあった。$${^{*6}}$$の「葵の上$${^{*7}}$$」に、僧が鬼女を祓って「那謨三曼荼羅云々」と唱えると鬼女はそれを聞いて「やらやら恐ろしの般若聲や」と叫ぶ場面がある。これが誤って解釈され、鬼女の面の名前になったという。僧が唱えたのは般若心経で、鬼女はその経によって成仏する。

 もう一つあった。梵語の怪物を意味する「般荼(ハンツア)」が転じた$${^{*8}}$$、という。

 どれもしっくりこない語源説である。

*1 梵字字典・辞典・事典・梵語・ぼんじ・bonji
*2 般若心経
*3 異相 (老体・女体・男体) | 面 | 能楽とは | 能楽事典 | 社団法人 能楽協会
*4 能面について/能面師 倉林 朗 能面 展示室
*5 20070311 庖丁
*6 20060306 謡
*7 葵上
*8 稱名念仏九旬供花一夏持斉禪律斗藪行人等接待千僧供養非人施行等也〔至徳三年本〕稱名念佛九旬供花一夏持齋禪律斗藪行人等接待千

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