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20040916 腕時計の精度(3)

 機械式腕時計に搭載されているトゥールビヨンは精度の追求のためではない$${^{*1}}$$。トゥールビヨン$${^{*2}}$$とは懐中時計の姿勢による誤差の解消のための機構だ。現代において日常生活に使う時計の精度の追求は既に終わっている$${^{*3}}$$。従って装飾が目的なのである$${^{*4}}$$。機械加工の精密さ、動作や構造の美しさを表現するためだけに組み込まれる。その証拠にトゥールビヨンを搭載した腕時計は、分解しなくてもそれが必ず目に触れられるようになっている$${^{*5}}$$。

 トゥールビヨンを搭載した腕時計の殆どの価格は一千万円を超える$${^{*6}}$$ので、工業製品とは言え芸術作品みたいなものである。いつでも見えるようにしておかなければ、購入者は納得できないだろう。

 しかし純粋な装飾、芸術ではない。もともとは懐中時計の精度を向上させるための機構であった。トゥールビヨンの動きは面白い$${^{*7}}$$ので、それを腕時計に搭載することにより商品価値の向上に使ったのである。

 ところがトゥールビヨンは機械式腕時計において精度の向上には貢献していない$${^{*1}}$$にもかかわらず、実用性があるような雰囲気を醸し出している。完全に形骸化しているが、工学的な技術的な機能があるように見えてしまう。

 宝石をちりばめるのとは違って、何となく清々しさのない不純な装飾に思えてならない。最近は立体的に回転するトゥールビヨン$${^{*8}}$$が出現している。立体にしても精度が向上するわけでもないのに、腕時計がどんな姿勢になっても対応できるように機能を追求した結果だ、と言わんばかりである。

 こういった不純さを感じないようにするためには、日常にトゥールビヨンの腕時計を用いないことである。トゥールビヨンを製造するのは相当難しい$${^{*2}}$$らしいので、そのような時計職人の技能のすばらしさを純粋に楽しむには、その動きや構造の鑑賞に徹する他ない。身に着けて時刻を知るのに用いるのは芸術品を漫然と道具として扱うようで、無粋の極致だ。

 私はトゥールビヨンを手に入れても、絶対にそのような使い方は致しません。

*1 20040915 腕時計の精度(2)
*2 トゥールビヨン
*3 20040914 腕時計の精度
*4 Tourbillon boutique
*5 www.blancpain.ch : Blancpain - Manufacture of Watchmaking Art - Swiss Master Watchmakers since 1735
*6 20001010 高級腕時計
*7 CFB GIF - Find & Share on GIPHY Carl F. Bucherer Heritage Tourbillon Double Peripheral 00.10802.03.13.01
*8 Alberto goes to Genthoud

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