見出し画像

20040915 腕時計の精度(2)

 機械式の腕時計$${^{*1}}$$の精度が水晶式腕時計$${^{*2}}$$などよりも大雑把なのは、一定の時を常に刻むためにひげばねを使った振り子$${^{*3}}$$を利用しているからである。温度や重力によるばねの変形や時計の姿勢の変化で簡単に振り子の周期が狂ってしまう。

 1795年にブレゲが重力による狂いを克服する仕組みを発明した$${^{*4}}$$。その仕組みはトゥールビヨン$${^{*5}}$$と呼ばれる。これは懐中時計用であった。懐中時計に組み込まれている振り子は、現代の機械式腕時計と同じ「てんぷ」と呼ばれる回転往復振り子$${^{*3}}$$である。

 てんぷは時計の文字盤に対して他の歯車$${^{*6}}$$と同様に平行に組み込まれている。重力の影響が一番大きくなるのは、てんぷが垂直になった時、つまり文字盤が地面に対して垂直になった時である$${^{*7}}$$。時計の姿勢によって輪状になった振り子のおもり$${^{*8}}$$の位置、重力によるひげばねの変形してしまう。十二時を上にした場合と下にした場合とでは回転往復振り子の周期が変わる。

 懐中時計をポケットに入れる時は十二時を常に上にしておけば、それに合わせて時計の調整$${^{*9}}$$を行うと狂いが少なくなるが、上手い具合にいつも十二時を上にしてポケットに収まってくれない。時計自体の姿勢を一定にできなければ、てんぷだけを一定にすればいい。てんぷを常に地面に対して静止させることは難しいので、一定の速度で常に回転させた状態$${^{*10}}$$で精度を調整しておけば、時計自体の姿勢が少々変化しても重力の影響を受けにくくなる。こういった発想でトゥールビヨンは生まれた。

 腕時計は腕にはめて使うので、地面に対して垂直姿勢が多い懐中時計と違って様々な姿勢を取る。従ってトゥールビヨンは精度の点で殆ど役に立っていない。

*1 機械式ムーブメント(カレンダー付き自動巻) | 時計に関する知識 | 日本時計協会 (JCWA)
*2 水晶式ムーブメント(アナログクオーツ)の部品名称 | 時計に関する知識 | 日本時計協会 (JCWA)
*3 時計の心臓部 <テンプ>
*4 Inventions and innovations
*5 20020303 トゥールビヨン
*6 動力の伝達部分 <輪列>
*7 等時性と姿勢差
*8 [ELGIN] What Is A Watch?
*9 時計の心臓部 <テンプの動き>
*10 Inventions and innovations A whirlwind for the wrist whose regular rotation times an erratic world...

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?