見出し画像

20020303 トゥールビヨン

 トゥールビヨン脱進機$${^{*1}}$$という機構がある。機械式の懐中時計や腕時計に組み込まれる仕組みで、時計の姿勢によって生じるほんの僅かな誤差を解消するためのものである。

 機械式の時計を規則正しく時を刻ませる仕組み$${^{*2}}$$は、ばねに錘を付けて振動させると一定の周期で錘が往復運動する現象を利用している。普通の蔓巻ばね$${^{*3}}$$に錘をぶら下げて振動させていては時計を傾けた時、錘がどこかに当たってうまく均等に往復してくれない。

 そこで錘を直線的な往復運動ではなく、回転往復運動にして軸の周りで錘を回転させる様にする。蔓巻ばねではなくひげぜんまい$${^{*4}}$$と呼ばれるばねを使う。これで時計の姿勢によって錘の回転往復運動時間が大きく狂う事はなくなる。

 実は厳密に言うと回転往復運動にしても往復する時間は時計の姿勢によって誤差が生じてしまう。懐中時計や腕時計の回転往復用の錘は輪状になっていて、テンプ(天府)$${^{*5}}$$と呼ばれる。輪の部分だけは天輪という。このテンプの重さが部分的に僅かに違っている$${^{*6}}$$だけで重力の影響で往復運動の時間が変化してしまう。テンプは時計の中の他の歯車と同じように文字盤に対して平行な面で回転往復運動をしている。時計の文字盤が地面に対して垂直になるとテンプも垂直になって、テンプの重さが不均一になっている部分の位置によって往復運動の時間が変わってしまう。

 例えばテンプの輪の6時の位置が重くなっているとする。12時の位置を上にして時計を垂直に立てた時はテンプの重い部分が一番下になっているので往復運動しやすいが、3時の位置を上にすると重い部分が真横に来て如何にも往復運動しにくいだろう。回転往復運動の角度が小さければ姿勢の差はあまり出ないだろうが、小さすぎるとアンクル$${^{*2}}$$を動かすことが出来なくなる。

 テンプの重さを均一に作れば問題はないが、実際にはそのような理想的な工作は不可能だ。そこで考え出されたのが「トゥールビヨン$${^{*7}}$$」である。時計の姿勢によって時を刻みが変わってしまうのならば、時計の姿勢を一定の速度で常に変化させてやれば、誤差が平均化されて狂いが小さくなる。時計自体の姿勢を変化させる必要はなく、時を刻む心臓部であるテンプとガンギ車とアンクルとの部分のみを一緒に一定速度で回転させる$${^{*1}}$$。こうすることによって重力の影響を平均化することが出来る。

 このトゥールビヨンで解消できる誤差は文字盤を地面に対して垂直にした時である。例えば12時をずっと真上にした場合と3時を同じように真上にした場合との誤差が無くなるだけだ。文字盤を地面に対して水平にして、文字盤を上にした場合と下にした場合$${^{*8}}$$との誤差は解消できない。

 従って懐中時計の場合はポケットに入っている場合が多いので、文字盤が垂直となってトゥールビヨンの効果が出そうである。腕時計の場合、腕にはめている時は様々な姿勢になるのでそれによる誤差はトゥールビヨンでなくても平均化されているのではないだろうか。

*1 トゥールビヨン脱進機について
*2 時計の心臓部 <テンプ>
*3 https://dictionary.goo.ne.jp/img/daijisen/ref/113214.jpg
*4 ●ヒゲ
*5 20010604 シリコンの歯車
*6 ●天輪の片重り
*7 Breguet - The technical Challenge
*8 等時性と姿勢差

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?