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目川探偵事務所The GORK 3部「煙の如き狂猿」編

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The GORK  26: 「テントウ虫のサンバ」

The GORK  26: 「テントウ虫のサンバ」

26: 「テントウ虫のサンバ」

 阿木のアフロヘヤーの先端が、力のある夕日のせいで、陽炎のように揺らめいて見える。
 その襟元は黒いシャツで、さらにその上着は白いスーツだった。
 ただしそのスーツの袖口から出ている手は、金のチェーンで飾られているものの、コンビニのビニール袋が幾つもぶら下げているので、少し間抜けな感じがする。
 それは、俺達の数日分の食料だ。
 いやもしかしたら俺達ではなく、俺一

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The GORK  27: 「傘がない」

The GORK  27: 「傘がない」

27: 「傘がない」

 一日目は、何事もなく過ぎた。
 一度、阿木から例のホットラインを使って「何か用事はないか?」と連絡があった。
 ホットラインのテストも兼ねていたのだろう。
 その時、「あんたは何故、この倉庫の中に入ってこないんだ?」と訪ねたら、監視の死角を作りたくないからだという答えが返ってきた。
 俺は、倉庫の高い天井につけてある明かり取り用の小さな天窓を見て、その言葉を納得した。
 

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The GORK  28: 「人間狩り」

The GORK  28: 「人間狩り」

28: 「人間狩り」

 外の敵は、『十蔵とは違う。』と思った。
 十蔵には、あれ程の執拗性はなかった。
 第一、まがりなりにも自分が、昔受けた恩義を返す男なのだ。
 では十蔵が送り込んできた他の刺客なのか、、俺はそう考えながら、ホットラインで結ばれているスマホを取り出した。
 蛇食ならスマホをかけても問題ないだろう。
 何故それに早く気がつかなかったのかと、不思議に思ったのだが、考えてみればあの

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The GORK  29: 「ファンキー・モンキー・ベイビー」

The GORK  29: 「ファンキー・モンキー・ベイビー」

29: 「ファンキー・モンキー・ベイビー」

「君の所長さんは、煙猿にかなり肉薄していたようだな。煙猿は、一時期この国で半島のスパイもやっていたようだ。そこまで調べ上げている。私が、こうやって短時間のウチに煙猿にたどり着けたのは、所長さんの足跡をたどってのことだ。」 
 剛人さんは、そう言ってくれたけど、僕にはそれが慰めの言葉のように思えた。
 あの憎めないけれど、探偵としての実力は今ひとつの所長

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The GORK  30: 「夜へ急ぐ人」

The GORK  30: 「夜へ急ぐ人」

30: 「夜へ急ぐ人 」

 俺が、この数日ずっと潜んでいた小倉庫の壁面は、コンクリート製で、凹凸が殆どない。
 こちらから見ている限りでは、煙猿が屋上に上がる為に梯子を掛けた様子もない。
 自分の指先だけで山肌のわずかな凹凸を見つけて登っていく特殊なフリークライマーか、かぎ爪の付いたロープを天井に投げ込んで、それをスルスルと上がっていく煙猿の姿を想像してみた。
 やがてその姿に、オカマバーに貼り

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The GORK  31: 「モンスター」

The GORK  31: 「モンスター」

31: 「モンスター」

「助けてやらなかったのか、薄情な奴だな。」
 不意に背後から声がした。
 俺は振り向きざま銃を撃とうとしたが、下からすくい上げて来るような金属の打撃によって、銃ごと弾き飛ばされていた。
 目の前に、まさかりを肩に担いだ黒のセーターとパンツ姿の男が立っていた。
 セーターもパンツもタイトな物だったので、その体つきのスマートさが際立っていた。
 目立った装備といえば、背中に背

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The GORK  32: 「年下の男の子」

The GORK  32: 「年下の男の子」

32: 「年下の男の子」

 田沼工場地帯を縦貫する主幹道路からそれて、奥まった支道をしばらく走っていると、ヘッドライトの光の中に、東洋ケラミック製造山那工場と印刻のある大きなプレートが、厳つい門と共に浮かび上がった。
 道は門前から左右に別れている。
 それを見て剛人さんは、GT2000の進路を左にとった。
 車の窓越しに工場の煉瓦積みの壁が、延々と続くのが見える。

「さっきのは、此所の裏門だ

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The GORK  33: 「くちなしの花」

The GORK  33: 「くちなしの花」

33: 「くちなしの花」

 月の光りもない闇の中で、庭園の植え込みに潜みながら、博物館の様子を観察する。
 博物館の周囲の地面には、アッパーライトが埋め込んであって、その幾つかが未だに点灯していた。
 そのせいで、博物館は巨大な石碑のように見える。
 剛人さんは視線を左右に走らせると、迷わず右前方に進み出した。
 博物館の裏手の方向だ。
 僕も遅れないように必死でついて行く。
 博物館の裏手に回

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The GORK  34: 「氷の世界」

The GORK  34: 「氷の世界」

34: 「氷の世界」

 煙猿の説明によると、俺が受けた第一段階の注射では、身体の剥製化はまだ始まらないのだそうだ。
 ここでは極端な身体の不活性化だけが見られ、体内でプラスティネーションの準備だけが進められる。
 それも第二液を使わず、数週間その状態を放置しておくと、身体は元に戻ってしまうらしい。
 しかし、過去の複雑かつ大仰なプラスティネーション技術と比べると、この二薬の体内への注入だけですむ

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The GORK  35: 「我が良き友よ」

The GORK  35: 「我が良き友よ」

35: 「我が良き友よ」

『この仕事の報酬で、薬を何グラム購入するか、、』
 薬を大量に買い付ければ、薬に枯渇していると思われ、こちらの足下を見る判断材料に使われるだろうし、かと言って少量の購入では、半島からの影響を下げる為にストックを増やすという目的が達成出来ない。

 煙猿はそういった事を、ある人物を待つ間に、一人考えていた。
 これから、人一人を殺すというのに、その事に付いては、何の緊張感

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The GORK  36: 「勝手にしやがれ」

The GORK  36: 「勝手にしやがれ」

36: 「勝手にしやがれ」

 ボディガードの福西は、少しの間、目を閉じて、自分の耳に挿入してあるイヤホンから流れ込むムラヤマ達の猥雑音を締め出し、代わりに先ほど確認したトイレの中にある小窓の様子をもう一度思い出した。
 個室が外部に晒されている箇所は、ドアを除けばその小窓しかない。
 それは隣の空き部屋のものだったが、この手の建物では、しつらえが部屋ごとに変わる事はない。
 ムラヤマ達がいる背後

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