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映画評「ミッドウェイ」

映画評「ミッドウェイ」(2020年/138分)

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「インデペンデンス・デイ」「デイ・アフター・トゥモロー」「2012」のローランド・エメリッヒが贈る!

という触れ込みでの映画体験、久しぶりで興奮しちゃいますね。

いろいろ思うことがあり、章立てで語ってみます。

大前提!
この上映作品が減ってしまっているコロナ禍においては特に、劇場でご覧になってみて欲しい作品です。
大傑作!というわけではないと思うんですが、、、真摯につくられた、これを逃すともしかしたら一生無いかもしれない、日米大激突映画ですし(日本兵大蹂躙映画ではない、てのが肝)、是非どうぞ。

※映画を「ミッドウェイ」、戦闘を「ミッドウェー」と表記します。


あらすじ

不要ですよね、ミッドウェーです。ミッドウェー海戦。


海戦映画、大好き

まず、この映画の出来がどうあれ、私は「海戦映画」ってやつが大好きである。
かわぐちかいじ(「沈黙の艦隊」「ジパング」「空母いぶき」)のマンガも大好物。

近年のガッツリ系だと、
「グレイハウンド」「バトルシップ」「ハンターキラー」
ちょろっと出てきたやつだと、
「X-MEN ファーストジェネレーション」
くらいだろうか。

「近年の」ってのが個人的に重要で、もちろん、記録映像とミニチュア&合成の特撮で構成された作品も好きだが、やっぱ最新技術をふんだんに使用した「かわぐちかいじの実写版」を映画館で観たいのである。

ただいかんせん。

軍艦・イージス艦が登場する作品。がっつり活躍してくれる作品ってのは、数が少ない。

そもそも、世界最大の艦船を有するアメリカにおいても、「海戦」と呼べる経験が少ないこともあるだろう。
というか、もしかしたら、日本以外に、アメリカと海戦をやった国って、無いんじゃないだろうか。
潜水艦・駆逐艦など、戦闘単位ではドイツがあるだろうが、「海戦」と呼べるものは記憶にないし、そうなると、全く架空の軍事スリラーでしか、活躍の場がない。
「バトルシップ」みたいに、宇宙人を引っ張り出してこないと、イージス艦すら活躍の場が与えられてない。

だから、最新の技術でかの有名な海戦を描いてくれた、本作「ミッドウェイ」には、基本感謝しかない。堪能しました。


本作は、「急降下爆撃映画」である。

じゃ、最新の技術を用いて、今回はどんな映像を見せてくれたのか。

「ミッドウェー」が舞台なので、日米両国とも、空母を中心とした機動部隊の描写はたっぷりと。

しかし、本作、もっとも力を入れて描かれていたのは、飛行機による
「急降下爆撃」
のシーン。

上空からほぼ真下へ急降下、慣性の力を借りながら、空母に爆弾を突き落とす。

映像化されてみると、果たして正気じゃない攻撃方法である。

空母を囲む船団より、雨あられと放たれる対空砲火をかいくぐり、というか弾幕に突入する。
無機質な鉛が直線に飛んでくる。その恐怖。

本作で再三強調される「急降下爆撃」のシーン。
このシーンあればこそ、日米それぞれの国としての思惑を越え、敬意を表する、全体テーマが活きてくる。

これは、本作の白眉である。


キャッチコピー「勝者も、敗者も、海に全てを捧げた。」

観賞前は、かっこつけ過ぎに感じたこのキャッチコピーだが、意外にも(といっては今思えば失礼だが)、本作の姿勢を良く捉えている。

アメリカ人には、我々が思うような「戦後」って感覚が無いらしい。なぜなら、建国以来、ずーっと戦争状態にあるからである。

自然、戦争を舞台にした映画も多いのだが、改めて考えると、アメリカ製戦争映画にはだいたい2種類のタイプ(もしくは2つのハイブリッド)が圧倒的に多い。

タイプ1
圧倒的な人数に囲まれつつ、奮闘する精鋭部隊。
なんとか耐えてると、最終的には航空支援により、派手に終わりがち。
「ワンス・アンド・フォーエバー」「ブラックホーク・ダウン」「ホース・ソルジャー」「ローン・サバイバー」

タイプ2
文句なしの物量を有し、有利に戦闘を進めるも、命を軽んじる敵に圧倒され、悩んだり病んだりする兵士たち。
命の価値、に想いを馳せがち。
「父親たちの星条旗」「プライベート・ライアン」「プラトーン」「アメリカン・スナイパー」

改めて考えると・・・、アメリカ軍、強すぎなのである。
純粋な敵味方がっぷり四つの戦闘を描いた作品、少ない。
そんな戦いが、そもそも少ないからである。

この点、「ミッドウェー」てのは、異色。

「この時点においては」
日米ともに、戦力はほぼ拮抗。経験のない、「本土侵略」に怯えるアメリカ側。
「米国の興廃、この一戦にあり」的、天王山。

この新鮮さ、本作でしか味わえません。


あれ?日米合作映画だっけ?

この戦闘を舞台に、豊川悦司(山本五十六)、國村隼(南雲忠一)、浅野忠信(山口多聞)と日本のキャストも揃え、バランス感覚取る気満々。

「ミッドウェー」であればこそ映える、憎しみの末の戦闘というよりは、どこかお互いに敬意を払った、カウボーイVS武士 なテイストです。

スポーツ感覚戦争映画といっても良いかもしれない。
普段はあまり見られない雰囲気ですので、ここは新鮮でした。

ま、まぁ、後で言及しますが、あまりにも日本を強大に描きすぎじゃないか・・・とは思うほどの、日本アゲぶり。
「この戦いに敗れれば、ハワイはもちろん、西海岸が空襲に晒され、占領される」と劇中で言ってくれますが・・・。

そういう危機感があったのは確かかもしれませんが、いくら日本が「ミッドウェー」で勝ったとしても、土台、「戦闘で勝っても戦争で勝てるはずはなかった」し、「高い城の男」みたいな世界線は存在しないと思うんですけどね。

日米合作映画でもないのに、かなり日本側に配慮された作りです。

これは、良くも悪くも。

おかげで、細かいアラにツッコミ辛くなるし、妙な描写にも口をつぐんでしまいそうにはなる。


圧倒的な徒労感

結果、得られたものは何か。
日米両国の歴史において、最大かつ結局最後(今のところ)な総力海戦を描いた本作。

非常にあほっぽい発言ですが、「戦争ってめちゃくちゃ無駄なプロジェクトだな・・・」という、圧倒的な徒労感。

莫大なお金・資材・労力を投じて、戦闘機・爆撃機・空母ほか艦船を建造し、
そこに多数の人員を割いて動かして
結局、それらが、使い捨てるように撃墜され、撃沈されていく。

こんなバカでかい機械作って、人間って何してるんだっけ。戦争なんか、正常なコスト感覚だとできないし、やるべきじゃないな。なんだかんだ。

直接的に描写されるのが、「人」が命を落とすところではなく、「機械」が破壊されるシーンが多いため、逆説的に、愚かしさ が際立っているように感じられました。

これは、以降により言及しますが、別に本作、「傑作」とは言い難い。
なぜって、肝心の「ミッドウェー」だけに焦点を当てられた構成ではないから。

「なんでミッドウェーで戦ってるんだっけ」という戦闘の理由が分かり辛いからです。
「ミッドウェーの日」も、なんかぬるっと始まっていくし・・・。


よりによって、USAが足りない

なんだかんだ褒めてきたので、ここからは欠点を中心に。

まず、よりによって、「USA!」が足りない。
どうしたエメリッヒ。「インデペンデンス・デイ」で、あんなにもアメリカ万歳だと批判されたのに、よりによって、その「USA万歳」要素が足りてない。

「ミッドウェー」において、勝敗を左右する要素だったのは、アメリカのヤンキー魂だった、と私は思っている。

俺たち、大和魂。アメリカ人ってのは、自由と民主主義に毒されているから、命を惜しむ腰抜け野郎たちだ。
と、ヤンキー魂を侮ったこと。これが、日本側の敗因だったのでは。

もちろん、暗号の解読やレーダー装置など、情報戦や技術的な側面も忘れてはならない。

でも、結果論かもしれないが、結果から考えてこそ、アメリカ側の勇気が、「ミッドウェー」を勝利に導いたはずだ。

それが最も象徴されているのが、「雷撃部隊」だったはずなのだが、そこの描写が特に足らない。

魚雷を搭載することで、スピードが上がらず、かつ直線で飛行するため、簡単に撃墜されていく雷撃部隊。
彼らの奮闘あってこそ、「急降下爆撃」の隙ができたというのに・・・。

もっと、ここにはフォーカスして欲しかった。

浅野忠信が、「敵もあっぱれだな」的なことを言ってくれるが、それだけじゃ足りないぞ!もっとUSAがないと!

ただ、被弾したアメリカ側の飛行機があわや空母に激突する!なんとか逸れて、落水する!という危機一髪シーンのあとの、國村隼(南雲忠一)のセリフ「ま、偶然だろ。あいつらに体当たりする気概なんかないだろ」てのは、非常に示唆的で良かった。

でも、抑制的すぎる。

全体的に日本をアゲて、アメリカをサゲることで、描写のバランスをとってる感じ。
惜しい。歯痒い。日本人としては、ちょっと小っ恥ずかしい。


「ミッドウェイ」なら「ミッドウェー」だけで良いのでは

全体の構成を振り返れば、「真珠湾」と「ドゥーリトル」が必要ない。

アメリカ側から考えれば、「ミッドウェー」に至るモチベーションとして、必要な展開であることはわかる。

「真珠湾」で騙し討ちされ、「ドゥーリトル」で一泡ふかせ、「ミッドウェー」で完全に逆転した。

綺麗な展開であることはわかるが、映画上は必要なし。

というか、この2つの展開で、肝心の「ミッドウェー」で描かれる戦闘シーンの多くは事前に見られちゃうため、後半の映像にあんまり新鮮味がないのです。

それよりは、もっと「ミッドウェー」に絞った、タイトな作りにしてもらいたかった。

でも、穿った見方をすると、意図的なものだと思いたい。

「ミッドウェー」に至る戦争の動機付けは描いても、「ミッドウェー」で戦ってる理由を希薄に描くことを、製作陣は考えた。

結果として、観賞中の疑問は消えないが、観賞後の後味として、どの戦争映画よりも、反戦に寄与している気がする。
「命が大事」とか分かり切ったことではなく、「無駄だからやめよーぜ」という視点において。
よくわからん場所で、人と鉄をぶつけあって、人間って何やってんだろ。
そういう心境に誘導するための、物語構成だった。

っていうことだったんじゃない?

たぶん、私の勘違いなんですが。

結論

熱さをなんとかこらえながらの映画評でした。

いやぁ、、、高校生〜大学生の頃は特に、近代化以降の日本史が好きでしたし、なんといっても「インデペンデンス・デイ」は、私を映画好きにしたきっかけとなった作品でした。

いつも以上に、読み辛い文章失礼しました。

何が言いたいのかというと、おすすめです!

でも、ウィキペディアで「ミッドウェー」を調べてからの方が楽しめると思います。
それって、映画として成功してないんじゃないか、と思ったりもするけど。


最後に、ベストシーン

アメリカ側の急降下爆撃が、日本の空母を襲う。
対空射撃により、叩き落としていく日本側。
カメラが海面から捉えたシーン、無数の米側戦闘機が、コントロールを喪い、海に叩きつけられ、消えていく。
火の雨が降っているような、黙示録的な様子。

実は観賞したのは、公開日翌日の9/12だったのですが、そのシーンが脳裏に焼き付き、うまく映画評として文章化できないくらい、衝撃でした。

やっぱり、傑作だったのかも・・・。もう一回観よかな。

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