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【詩】本棚を燃やして逝こう

本棚を見ればその人が分かると言うけれど
豪邸でもない、こんな小さな部屋の
たかだかこんな程度の本棚に
いくら本がぎっしり並んでいたって
これでいったい私の何が分かると言うのか

あの詩集も
あの歌集も
あの社会派小説も
あのミステリー小説も
あの恋愛小説も
あの純文学も
あの学術書も
あのノンフィクションも
あの教養書も
この本棚にはないのに

子どもの頃の、絶え間ない気掛かりも
愛という錯覚のエネルギーも
適応する必死さも
日々愚弄される悔しさも
長年積み上げてきた憎しみも
この世に生まれさせられた怒りも
他人といることの孤独も
この本棚には刻まれていないのに

私が死んだら
いろんな人が、いろんなことを言うのだろう

やさしい人だったとか
まじめだったとか
努力家だったとか
障害を気にしていなかったとか
そんなことを訳知り顔で言う奴もいるんだろうか

そんなことは言われたくもないが
死んだらもう、中指も立てられない
(あ、生きてる頃から立てられなかったな)

でも、死んだらもう
どんな言葉も私には届かない、というか
私はもう存在しないのだから
何を言われたって知ったこっちゃないか

それもそうだけど
念のために
本棚を燃やしてから逝こう

本棚を見ればその人が分かる
なんて、言わせないためにね

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