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#エッセイ

【小説】秀頼と家康の会見⑤

【小説】秀頼と家康の会見⑤

秀頼は、相対する相手をじっとみつめた。頭を垂れるその姿勢は一見すると主君を敬う家臣のそれであったが、その内側にある野心を隠さんとするもでもあった。

面をあげよ

秀頼は柔らかに声を放った。居丈高な調子も衒いもなかった。秀頼は家康を一人の武将として、丁重に対応したいと考えていた。それが戦国乱世であった。

江戸での暮らしはいかがだろうか。

.....はい、ただただ広い平野でござる。今は多くの陣

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【小説】秀頼と家康の会見④

【小説】秀頼と家康の会見④

漆黒の僧衣を身にまとい、その僧は頭を抱えていた。その体は小刻みに震えていた。くしゃくしゃに搔き上げる髪はもうなく、手のひらの感触がまっすぐに頭に伝えられた。

僧の名を天海という。後の世、徳川家康のブレーンとしてその幕府創世記の礎を築いたと言われる。しかし、人目に出ることはなく、晩年は日光東照宮の住職となり、徳川家の菩提を守り続けた。

世に出ることが出来ない理由は一つであった。彼の正体を明智光秀

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【小説】秀頼と家康の会見③

【小説】秀頼と家康の会見③

豊臣と徳川。天下を分けるその両家の代表が会見をする。この会見が実現した大きな理由の一つに彼がいた。豊臣の時代に台頭し、時代の趨勢の中、徳川の世の中を認めつつ、豊臣への深い愛情を微塵も失ってはいなかった。

加藤清正である。刀鍛冶の子として生まれ、戦国乱世の時代を生きぬき、秀吉の生母と遠縁であった関係から、秀吉の小姓として仕えることになった。武の道を歩むことになる、その最初の一歩であった。秀吉はこの

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