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【小説】秀頼と家康の会見③

【小説】秀頼と家康の会見③

豊臣と徳川。天下を分けるその両家の代表が会見をする。この会見が実現した大きな理由の一つに彼がいた。豊臣の時代に台頭し、時代の趨勢の中、徳川の世の中を認めつつ、豊臣への深い愛情を微塵も失ってはいなかった。

加藤清正である。刀鍛冶の子として生まれ、戦国乱世の時代を生きぬき、秀吉の生母と遠縁であった関係から、秀吉の小姓として仕えることになった。武の道を歩むことになる、その最初の一歩であった。秀吉はこの

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【小説】秀頼と家康の会見②

【小説】秀頼と家康の会見②

その男は、実に苦労人だった。鳴くまで待とうなどというのは、戯言である。三河生まれの持ち前の気性の荒さで、すぐに頭に血がのぼる性格だが、一方で、多くの経験を通して、冷静さと一種の潔さを身につけていった。そして何より、執念が凄かった。徳川家康である。

幼少期はずうっと人質として今川氏や織田家で過ごした。転機は桶狭間の戦いであった。今川義元が討たれ、人質身分から解放される。21歳で信長と同盟関係を結ん

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