おにぎりで始める1年
先週の仕事始めのお弁当は、おにぎりを2つ持っていった。
小さな丸っこい三角形に、海苔をぺたりと貼って。
普段はお弁当箱にご飯とおかずを詰めるスタイルだけど、ゆっくりお昼ご飯を食べる時間など無いかもしれないことが予測できたので、どんな状況でも楽に食べられるものを、とおにぎりを選んだ。
味は鮭とかツナマヨみたいな定番のものではなく、前日に用意しておいたおかずを具として詰め込むオリジナル。
2つそれぞれ違うものを詰めてみた。
ちなみに私がおにぎりを作るときは、型を使わない。
でも不器用なので、きれいな三角形にならない。悔しい。
見映えを意識して形を整えても、食べる頃には荷物に押しつぶされて変形していたり、握りが甘くて中身がぽろぽろこぼれやすかったりするので、無理に三角形にこだわるのはやめた。
(自分だけが食べるおにぎりなのだ。美味しければすべて良し!)
テレビで紹介される専門店で出されるような “3秒しか握らないふわふわ食感” ......とは正反対の、ぎゅうぎゅうに握り固めた白いかたまり。
しかも、うまく包みきれなかった具がうっすら見えている。
具の面が三角形の底になるよう角の位置を修正して、海苔を貼ってごまかす。
おにぎりの下半分だけに海苔を貼ったら、正面から見ると黒いマスクを付けたようなお顔になった。
握ったおにぎりをお皿に立てるようにして置いてみる。
見る角度によって三角形にも丸にも見えるふしぎな形に仕上がっている。
しかも一口目となる角がこんもりしていて、マスクのお顔が若干うつむいているように見える。ちょっと不機嫌そう。
うーん......
もう一度手に取って、形を修正しようと試みる。(こうしている間にきっとご飯はさらに固くなっている。)
少しだけ顔が上を向いたところで手を止め、ふたたびおにぎりを並べてみた。
ちょこん、と丸っこい2つのおにぎりが、仲の良い兄弟みたいに並んでいる。
よく見ると左の方が背丈が低くてふっくら、右の方が少しだけスマート。
左がおにいちゃんで、右が弟?
いや、右がおにいちゃん?
そんなひとりごとを脳内でつぶやいて、どっちでもいいか、ときれいなラップに包み直した。
おにぎりを持っていくなんて久しぶりでわくわくする。
忙しい一日になるだろうけれど、楽しみなお昼ご飯があるというのは心強い。
新年を迎え、私の職場は新たな展望へ本格的に動き出した。
全面的な大改装を計画していて、いつも私が休憩室として使っている部屋も一時的に使えなくなる。
部屋を引っ越すことは年明け前から言い渡されていたので、年明け後の作業がスムーズになるよう少しずつ身の回りの整理を進めてきた。
ずっとためておいた大量の資料をばっさばっさと捨て、シュレッダーをバリバリと響かせる作業を繰り返した。
古い掲示物や飾り、まだ使えるかもしれないからと保管していた物たちも、ゴミ袋に投げ入れた。
重かった棚や机はどんどん軽くなり、引き換えに思い出の品が消えていく。
部屋を占領する荷物の多さや古びた物たちに今まで文句を言っていたくせに、いざ目の前から消えてしまうと、ふっと寂しさを感じた。
机の中を整理していたら、私がこの仕事に就いたばかりの頃の懐かしいメモ書きや原稿などが見つかった。
細かい手書きの文字を読み返し、毎日緊張していたあの頃を思い出してふふ、と笑った。
大丈夫、こんなに長く続けられているよ
それらをゴミ袋に入れてから、姿勢をすっと正す。積み重ねた年数の分だけ、緩んでいる部分があるかもしれない。
初心忘るべからず。
やっぱり私は今の仕事が好きだし、これからも誇りに思える働き方をしたい。
仕事始めの日は予想通り、事前にまとめておいた荷物を運び出したり大きな机や椅子を動かしたり、あとはひたすら掃除するという引っ越し作業に追われた。
お昼になった頃には、腕や足は重く、服は埃で白くなっていた。
昼食は別の広い部屋が休憩室として与えられ、意外にも落ち着いて過ごすことができた。
箸を動かすのも面倒なくらいに疲れていたので、やっぱりおにぎりにして正解だったと思いながら例の2つを取り出した。
ころりん、とよく転がりそうなおにぎり。
その見た目に笑いがこぼれてしまった。
迷ったけれどお兄ちゃんの方を先に掴んでラップを剥がし、結局こんもりしたままの一口目をほお張った。
うん、美味しい。
味は最高!
あっという間にひとつ食べ終え、弟の方も掴む。
わっ、こっちも美味しい。
上出来!
おにぎりを食べると、パワーがみなぎる。
遠足や運動会などでかつて作ってもらった、エールとやさしさがぎゅっと込められた懐かしい味を思い出し、お腹の底に熱を感じるからかもしれない。
相性を考えながら具を作ったり、どちらから食べようか迷ったりする時間も楽しかったので、しばらくおにぎりスタイルのお弁当を続けることにした。
それに、おにぎりのあの丸っこい見た目には何だか愛着がわいてしまう。
この間は番外編として、細長いロールパンを使ったサンドイッチを作って持っていった。
すべっとした小麦色の肌にスクランブルエッグの黄色いフリルが似合う、よく似た双子の姉妹になった。
お米のずっしり感もいいけれど、パンの軽やかさもまたいい。
次は、何を合わせようか。
不格好でもいい。
楽しんで生きてやる。
2024年は始まったばかりだ。
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